【日本製鉄】M&A活用でグローバル生産1億トン体制へ USスチール買収で目標近づくか

年の瀬に2023年のM&Aを代表するビッグディールが発表された。日本製鉄<5401>によるUSスチールの買収だ。取引総額は年間でトップとなる約2兆円(141億ドル)。同社の歩みを振り返りながら、巨額のM&Aが誕生した背景に迫り、この先も考察する。

再編を繰り返してきた鉄鋼業界

日本製鉄は1880年(明治13年)に洋式高炉を取り入れ、近代日本の製鉄所として操業した岩手県釜石の官営製鉄所、1901年(明治34)に創業した官営八幡製鉄所の流れをくむ日本最大の鉄鋼メーカー。その歴史は再編を繰り返しだった。

1934年に官営八幡製鉄所が民間鉄鋼メーカー5社(釜石の官営製鉄所の流れをくむ釜石鉱山も含まれる)の合併で日本製鐵が誕生。戦後の財閥解体に伴い、八幡製鐵、富士製鐵など4社に分離したが、1970年にこの2社が合併して、新日本製鐵(新日鉄)となった。

日本は1955年からの高度経済成長期の波に乗って粗鋼生産量を拡大。1960年の2200万トンから1973年度には1億2000万トンまで急増、その後は1億トン前後で推移し、2007年の1億2200万トンをピークにして2020年は約8000トンまで減退している。

そのなかで新日鉄は1980年、1990年、2000年と節目で世界の粗鋼生産量のトップメーカーとなっていたが、国内では2000年以降に業界再編が進展。2002年に川崎製鉄と日本鋼管が合併してJFEスチールを中核とするJFEホールディングスが誕生すると、これに対抗すべく、同年に新日鉄、神戸製鋼所、住友金属工業が相互出資協定を結んだ。

翌2003年には住友金属工業とステンレス事業を統合し新日鐵住金ステンレスを設立。2013年にはグローバル競争力を高めるため、新日鉄と住友金属工業が合併して新日鐵住金が誕生した。2019年に日本製鉄に商号変更、2020年に高炉メーカーの日新製鋼も合併するなど、グループ力を高め、現在に至る。

出来事
1934 官営八幡製鉄所ほか民間メーカーが合併し日本製鐵が誕生
1950 戦後の財閥解体に伴い日本製鐵が消滅、八幡製鐵、富士製鐵などに4社に分離
1970 八幡製鐵、富士製鐵が合併して新日本製鐵が発足。粗鋼生産は資本主義諸国で1位に
1971 富士三機鋼管を合併
2002 住友金属工業、神戸製鋼所と3社間提携
2003 住友金属工業のステンレス事業を統合し新日鐵住金ステンレス設立
2012 住友金属工業と新日本製鐵が経営統合し新日鐵住金が発足
2017 日新製鋼を子会社化
2019 日本製鉄に商号変更

顔ぶれ変わるなかで上位に食い込む日本製鉄

日本製鉄誕生の背景にあるのが、世界の鉄鋼業界の大きな変化だ。2000年以降の20年間で環境は大きく変化した。世界の粗鋼生産量は18億8000万トンに倍増したが、このほとんどが中国の経済発展によるものだった。中国鉄鋼メーカーの成長は著しく、2020年には世界の粗鋼生産量の約6割を中国が占め、上位10社中7社が中国勢となっている。

上位の顔ぶれが変わる中、2020年、5位に食い込こんだのが日本製鉄だ。減りゆく内需の一方で、新日鉄時代から、海外に出資して能力を増強。2006年にブラジルのUSIMINASを持分法適用会社化し、2011年に米スタンダードスチールを買収、新日鐵住金だった2014年にティッセンクルップスチールUSAをアルセロールミッタルと共同買収して米AM/NS CALVERTを設立、2018年にスウェーデンの特殊鋼メーカーOvakoを、日本製鉄になった2019年にはアルセロールミッタルと共同買収でインドのAM/NS INDIAを設立した。

それでもなお、先に目を向ければ、人口減が予測される日本は内需減退は不可避。世界的な脱炭素化の流れに合わせ、技術革新を図るべく多額の投資にも迫れらている。その額は2050年までに5兆円以上とも見積られており、収益性を確保しながら成長を続けるには、海外に目を向けざるを得ないのが日本製鉄なのだ。

新日鉄時代からの海外M&A
2006 ブラジルのUSIMINASに出資して持分法適用会社化
2011 米スタンダードスチールをM&A
2014 ティッセンクルップスチールUSAを米国アルセロールミッタルと共同買収し、合弁企業AM/NS CALVERTを発足
2018 スウェーデンの特殊鋼メーカーOvakoを買収
2019 アルセロールミッタルと共同でEssar Steel India Limitedを買収しAM/NS Indiaを設立
2022 タイの電炉・熱延メーカーGJ SteelとG STeelを買収
2023 USスチールのM&Aを発表

グローバル1億トン体制でUSスチールをM&A

そうした中、2021年3月発表の中期経営計画で掲げたのが「グローバル粗鋼能力1億トン体制」。国内生産能力が5400万トン(2021年3末時点)から先行き4400万トンまで減るとみる一方、海外は1600万トン(2021年3末時点)から5000万トン以上に能力を高め、合計で1億トン体制にするという計画だ。

国内は高付加価値品へシフトしつつ、海外は需要の多い地域で汎用鋼の生産・提供で成長が見込めるとの見立てのもと、2019年に買収したインドのAM/NS Indiaでの能力拡張と、中国・ASEANでの一貫製鉄所のM&Aを検討していくとした。

この説明会の質疑応答で「(世界最大の)中国の宝武集団は2億トン体制にもっていくと予測される」「今後 10年、20年の中で我々が世界をリードしていくために、1億トンはグローバルなメジャープレイヤーとして最低限必要な規模だと考えており、これにはどこまでもこだわりたい」と経営陣は回答しており、規模の重要性が強調されている。

そして、中期経営計画に記されたとおり、2022年にタイの電炉・熱延メーカーのGJ SteelとG STeelを買収。1億トン体制については、2022年5月開催の決算説明会で再び問われ、中国企業のM&Aは「外資規制もあり難しい」としつつ、北米・欧州に電気自動車(EV)に使われる電磁鋼板の需要がありながらも、供給体制が整っておらず、「いろんな意味でチャンスがある」と述べられた。


今日になって振り返ると、その答えが、USスチール買収だったのかもしれない。この買収は中期経営計画におけるグローバル戦略に合致した案件で、USスチールの生産能力2000万トンが加わり、日本製鉄と合わせて8600万トン体制にアップすることで1億トン体制に近づく。また自動車用鋼板、電磁鋼板といった高付加価値品の製造技術を持ち、「(高級鋼も含めた)需要の伸びが確実に期待できる地域」「上工程から一貫した鉄源一貫製鉄拠点」といった同社が定めるM&Aの条件に該当するものだという。

もうひとつ注目したいのは、CO2排出量を大幅に削減し、電炉でも高品質の製品が製造できる「verdeX」。世界各国の鉄鋼メーカーはカーボンニュートラルへの取り組みを進めており、技術開発の面でもシナジー創出が見込まれそうだ。

生産能力に目を向けたM&AはUSスチールの成り行き次第か

グローバル粗鋼生産能力1億トン体制に向けてM&Aの活用を掲げる同社だが、USスチールを手に入れても、1億トンには1400万トン足りない。ただし、今後の能力増強プロジェクトで年産300万トン、AM/NS Indiaでのハジラ製鉄所の2025年、2026年の能力増強で年産600万トンの増産が見込まれている。さらに、インド東部での新製鉄所構想もあり、目標達成にかなり近づきそうだ。

だが、それは今回のM&Aが成功した場合の話。2024年3月頃開催予定のUSスチール株主総会での承認後、関係当局の許認可を取得し、2024年9月までに完了させる方針だが、現地ではすでに反発が相次いでいる。全米鉄鋼労働組合(USW)から反対され、米連邦議会でも野党・共和党の上院議員3人が買収阻止を米政府に要求。与党・民主党にも経済安全保障上のリスクを指摘する声があり、M&Aの成立は不透明のまま。仮にブレイクすれば、引き続き、M&Aを積極的に模索していきそうだ。

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