前副社長の家宅捜索、ビッグモーター再建の「ブレーキ」になるか?

中古車販売大手ビッグモーター(東京都多摩市)の店舗前にあった街路樹が不自然に枯れるなどした問題で、創業者一族で同社前副社長の自宅など数カ所が器物損壊容疑で家宅捜索を受けたことが一斉に報じられた。同社は伊藤忠商事<8001>と再建について事業譲渡する方向で協議を進めている。今回の家宅捜索で、伊藤忠によるビッグモーター再建が暗礁に乗り上げる可能性はあるのだろうか?

「バッドアセットは受け取らない」伊藤忠の判断は…

結論を言えば、今回の家宅捜索で伊藤忠がビッグモーターの再建支援を取りやめることはないだろう。伊藤忠にとっては、むしろ「好都合」と言えるからだ。12月16日の報道によれば、伊藤忠の石井敬太社長は「創業家の問題や文化など、バッドアセット(不良資産)は引き継がない」と明言している。

もはや創業家はビッグモーターへの経営関与は断念していると思われる。残る課題は「不良資産」の問題だ。創業家にとっては、収益を生むビジネスを事業譲渡で吸い上げられ、残る訴訟や不祥事の後処理を一手に引き受ける「旧ビッグモーター」だけを押し付けられるのは最悪の結末と言える。

現在のビッグモーターをまるごと買収してもらう方が創業家には後腐れもなく、訴訟などで手間がかかったり自らの資産が目減りしたりするリスクがなくなるからだ。

伊藤忠が収益事業を抜き出した後の旧会社を引き取らずに創業家に残す理由は、事業譲受による訴訟リスクを避けること。伊藤忠は今回の家宅捜索で「まだ潜在的な不祥事リスクが存在する」と主張できるため、事業譲渡による旧会社切り離しの根拠となる。

今回の家宅捜索が自社業績の足を引っ張るのは避けられない。倒産してしまっては元も子もないので、創業家としても伊藤忠との交渉を打ち切りにくくなる。一見、再建にブレーキがかかりそうな家宅捜索だが、実際には買い手である伊藤忠にとって交渉上は有利に働くと見られる。ビッグモーターから伊藤忠への事業譲渡が早まる可能性もありそうだ。

文:M&A Online

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