【ベネッセホールディングス】M&Aで成長した「教育産業の巨人」が自社を買収する理由

ベネッセホールディングス<9783>が、MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化することになった。主力の通信教育「進研ゼミ」の不振を長期的な視野から打開するため、一般株主の干渉を受けない株式非公開化で事業の立て直しを図るという。同社は積極的なM&Aで知られるが、創業家が自社を買う「ベネッセ最大のM&A」に踏み切る。

積極的なM&Aで総合教育企業へ

ベネッセは1955年に、中学校向けの図書や生徒手帳などの発行を行う福武書店として発足。1962年に模擬試験事業(現「進研模試」)を始めた。その後、小中高生向けの通信教育講座(現「進研ゼミ」)を順次展開。1995年に社名をベネッセコーポレーションに変更した。

大証2部上場(1995年)を経て、2000年に東証1部に上場(2022年4月に東証プライム市場に移行)。2009年に持ち株会社制へ移行し、現社名に変更した。今回のMBOは同社を創業した福武哲彦氏の長男で、元社長・会長の福武總一郎名誉顧問が主導している。

ベネッセの「屋台骨」だった進研ゼミの成長に翳りが見えてきた

ベネッセの「屋台骨」だった進研ゼミの成長にも翳りが見えてきた(同社ホームページより)

ベネッセが成長した原動力はM&Aだ。1993年に世界最大の語学学校、米ベルリッツインターナショナルの買収で語学事業に進出。2002年に関西地区で学習塾を展開するアップに15.13%出資して学習塾事業にも進出した(2012年3月にTOBで完全子会社化)。2005年には産業支援機構からパソコンスクール最大手アビバジャパンの営業権を取得している。

さらに2006年6月には首都圏を中心に個別指導塾を展開する「東京個別指導学院」の株式51.89%を127億円で取得。同10月に現役高校生向け進学塾のお茶の水ゼミナールを約3億円で買収した。2007年10月に明光ネットワークの株式を一部取得、2009年に難関大学受験指導塾の「鉄緑会」事業を取得、2014年11月には子供向け英語教室のミネルヴァインテリジェンスを買収するなど、矢継ぎ早のM&Aで通信教育に代わる事業を拡大している。

一方で、不採算事業の売却も進めている。2020年3月にアビバを1万円でスリープログループ<2375>(現ギグワークス)へ譲渡。2013年11月に韓国で幼児・児童向け通信教育事業を手がけるBenesse Koreaを韓国ヤクルトに約3万7000円で譲渡。2017年10月にはコールセンター事業を手がけるTMJをセコム<9735>に265億円で譲渡した。

2020年3月に通訳・翻訳大手のサイマル・インターナショナルをTAKARA&COMPANY<7921>に49億5000万円で譲渡。2022年2月には米ベルリッツをカナダILSC Holdings LPに譲渡、譲渡金額は非公表だがベネッセは約178億円のベルリッツ向け貸付債権を放棄している。


今後は介護分野でのM&Aが中心に

そして今回は自社を「買収」することになった。ベネッセ創業家がスウェーデンの投資ファンドのEQTと組んで、TOB(株式公開買い付け)を実施し、全株式の取得を目指す。買付代金は最大2079億円。少子化による学童人口の減少や、入試改革に伴う旧来型の通信教育や模擬試験の需要低下など、国内教育市場をめぐる経営環境が厳しさを増す中、中長期的な視点で事業構造改革に取り組むのが狙い。TOBは2024年2月上旬をめどに始める。

買付主体はEQTが設立した買収目的会社ブルーム1。ベネッセ株の買付価格は1株につき2600円で、TOB公表前日の終値1791円に45.13%のプレミアムを加えた。買付予定数は7998万331株。下限は所有割合49.56%にあたる4781万8900株で、創業家の資産管理会社2社の保有分17.11%(TOBには不応募)と合わせて66.67%となる。

公開買付代理人には野村証券を起用する予定。ベネッセはTOBに賛同し、株主に応募を推奨している。TOBが成立すれば、東証プライム市場への上場が廃止となる見通しだ。

ベネッセの2019年3月期から2023年3月期までの5カ年の中期経営計画では、最終年に売上高6000億円、営業利益600億円の目標を掲げていた。しかし、2023年3月期の業績は売上高4118億円(前期比4.6%減)、営業利益206億円(同2.2%増)と、大幅な未達に終わっている。

ベネッセは現在グループの利益を支えている「コア教育」が少子化の流れを受けて市場成長性が低いと予想されることから、介護・保育事業の「コア介護」、大学・社会人教育や海外事業といった「新領域」にシフトする方針だ。MBOによる非公開化で、ベネッセは目先の業績にとらわれることなく、大胆な事業ポートフォーリオの組み換えにチャレンジできる。

ベネッセホールディングスの2024年3月期業績見通しの対前年比較

ベネッセホールディングスの2024年3月期業績見通しの対前年比較(同社ホームページより)

注目の分野は収益性が高く、今後も確実な需要が見込める介護事業。2021年6月には介護・福祉・医療分野の広告関連事業を手がけるプロトメディカルケアを42億5000万円で買収しており、介護分野で大型M&Aを加速する可能性が高そうだ。


ベネッセホールディングスの沿革と主なM&A

出来事
1955岡山市に福武書店を創立。中学向けの図書や生徒手帳の発行を開始
1962高校生向けの「関西模試」を開始
1969高校生向け通信教育講座の「通信教育セミナ」を開講
1993米ベルリッツをグループ会社化
1995ベネッセコーポレーションに社名を変更
1995大阪証券取引所市場第二部、広島証券取引所に上場
1997大阪証券取引所市場第一部に上場
2000東京証券取引所市場第一部に上場
2000介護付高齢者向けホームを手がける伸こう会の経営権を取得
2001米ベルリッツを完全子会社化
2003進研アドを子会社化
2005アビバをグループ会社化
2006お茶の水ゼミナールを完全子会社化
2007東京個別指導学院を子会社化
2009ベネッセホールディングスに社名を変更。新設分割会社ベネッセコーポレーションを設立
2010介護付有料老人ホーム運営のボンセジュールを子会社化
2010アビバを譲渡
2012アップをTOBで完全子会社化
2020社会人向け短期集中型英会話教室などを手がけるスタディーハッカーを子会社化
2021介護・福祉・医療分野の広告関連事業を手がける子会社のプロトメディカルケアを買収
2022米ベルリッツを譲渡
2023MBOを実施し、株式を非公開化

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online

【関連記事】
ベネッセの大型MBOを支援する投資ファンド「EQT」とは
ベネッセホールディングス<9783>、スウェーデン投資ファンドのEQTと組んでMBOで株式を非公開化

ジャンルで探す