注目のLUUPは躍進か岐路か!?「脱・電動キックボード」の動きはどうなる? 運転マナーが与える市場への影響とは

ラストワンマイルの新たな移動手段として、「電動キックボード」が都市部を中心に拡大しています。なかでも大手シェアリングサービス「LUUP(ループ)」が躍進を遂げるなど、賛否両論を含めて日々話題に。そこで今後の電動モビリティ事情の動向を追ってみました。

●LUUPが監査役に元警視総監を招聘したワケ

 電動キックボードのシェアリングサービスで業界トップを走るLUUP(ループ)が、10月16日に新しい経営体制を発表しました。新体制を固める10名の取締役・監査役に、元警視総監の名前があったことが波紋を広げています。

 ループは2021年のサービス開始からわずか3年余りでポート数を全国1万カ所まで増やし、業界トップに上りつめたベンチャー企業。その経営陣に元警視庁トップが加わったことに、「警察からの天下りではないか」との批判がSNSを中心に広がっているのです。

電動キックボードのポート数で国内トップを走る「LUUP」が岐路に立たされている…?

電動キックボードのポート数で国内トップを走る「LUUP」が岐路に立たされている…?

 昨年7月の道交法改正で電動キックボードは「特定小型原付」となり、免許なし、ヘルメットなしでも公道を走れるようになりました。この法改正を機に躍進を遂げたLUUPでしたが、その反面、交通違反や交通事故が急増したことが問題に。

 そんななか、LUUPが元警視総監を監査役に招へいしたことは、警察や自治体との連携を深め、安全対策を強化していく意味でも、「まっとうな人事だった」と捉える向きもあります。

 ただ、「電動キックボードに対する世間の風当たりは強まるばかり……」とこぼすのは、国内でも数少ない電動キックボードメーカーのひとつ、「SWALLOW合同会社」(神奈川県川崎市)の金洋国代表です。

「速度オーバーで歩道を走ったり、二人乗りで街中を走り回ったりと、一部の利用者のマナー違反がSNSやワイドショーで批判され、業界全体のイメージが悪化した印象です」

 電動キックボードを販売する、別の事業者の代表もこう話します。

「法改正のあと、何度かテレビの報道番組の取材を受けました。その度に機能面の話や利便性の高さについて詳しく話すのですが、放送を見ると、『一部の利用者のマナーの悪さが…』と話した内容だけがクローズアップされてしまいます。批判ありきで報道される姿勢には疑問を感じます」

 海外の動きを見ると、仏・パリでは電動キックボードのレンタルサービスが23年8月末で禁止となり、豪州・メルボルンも今年8月に同サービスの禁止を決定。日本と同様、免許なしで電動キックボードを運転できた韓国でも、21年5月から無免許運転が禁じられました。いずれも、運転マナーの悪化と事故の増加が背景にあります。

●業界内で広がりをみせる“脱・電動キックボード”

 日本もいま、規制を強化するか否かの決断を迫られる局面にある――電動モビリティ業界ではそうした見解が広がりつつあります。

 もし、パリやメルボルンのようにレンタル事業禁止となれば、全国1万カ所までポートを拡大したループにとっては大きな痛手に。前出の販売会社の代表がこう話します。

「だからこそループは警察や国とのパイプをより太くし、規制強化の動きを抑えるために、元警視総監を経営陣に招いたのではないか。そう見ることもできます」

「glafit」が「HELLO CYLLING」に提供する電動サイクル

「glafit」が「HELLO CYLLING」に提供する電動サイクル

 規制強化で市場が急速に萎むリスクを抱えるなか、“脱・電動キックボード”の動きが広がり始めています。電動モビリティを開発・製造する「glafit(グラフィット)」(和歌山市)の鳴海禎造代表がこう話します。

「電動キックボードは法改正によってシェアリングサービスを中心に利用者が急増しましたが、一気に過熱したブームというのは衰退も早い。そのことはフランスやシンガポールといった海外の電動キックボード市場の現状が物語っています。

 弊社も一般原付のキックボードを製造販売していましたが、シェアリングがキックボードで普及するのであれば、我々は他のタイプのものにしようと思いました」

 その後、「グラフィット」が“ブーム後”を見据えて開発したのが、“免許のいらないバイク”=「電動サイクル」です。見た目は自転車、性能は電動バイクという「いいとこ取りをした、これまでありそうでなかったパーソナルモビリティです」(鳴海代表)。着座型である点が電動キックボードと根本的に異なり、特定小型原付なので16歳以上なら免許は不要、ヘルメットは努力義務で運転できます。

「着座型なので転倒リスクが少なく、女性やシニアの方でも安全に運転できます。車体の構造上、ふたり乗りはできず、見た目はほぼ自転車なので、電動キックボードのように街中で走っても“悪目立ち”はしません(笑)」

「グラフィット」は、ソフトバンクが出資するシェアサイクルサービス「HELLO CYCLING(オープンストリート社運営)」に電動サイクルの車両を提供。現在、千葉市や和歌山市など首都圏と関西の一部エリアでシェアサービスが始まっています。

●シェアリング市場は“通信大手vs.ループ”の2強対立へ

 今年7月には、競合関係にあった「HELLO CYCLING」と「ドコモ・バイクシェア」が、ポートの共同利用などで事業提携すると発表。

 これにより、電動モビリティのシェア市場は「docomo vs. Softbank vs. LUUP」の三つ巴から、「docomo&Softbank陣営 vs.Luup」の構図に変わったと言われますが、グラフィットの電動サイクルは、通信大手2社の資本力を背景に、今後、全国に普及が拡大していくかもしれません。

 対抗するループは着座タイプの特定原付「電動シートボード」を発表し、24年冬以降にシェアサービスを開始すると発表しています。

 ここに来て、加速し始めた“脱・電動キックボード”の動き。「グラフィット」の鳴海代表は「電動キックボードの車両の普及は一旦緩やかになり、今後は『電動サイクル』のような着座型のモビリティにどんどん置き換わっていくと思います」と見ています。

 家から駅、駅からオフィスへ…ラストワンマイルの移動手段を巡る覇権争いは、ますます混とんとしていきそうです。

ジャンルで探す