映画『卒業白書』でスクリーンを彩ったポルシェ「928」の落札価格とは? 劇中車に魅了された人物が解き明かす「意外な真実」

「モントレー カーウィーク」期間中に開催されたボナムズのオークションに、2021年に「ポルシェ『928』世界最高落札価格」を記録した車両が出品されました。映画『卒業白書』で使われた劇中車ですが、この映画で「928」に魅了された人物によると、劇中に登場する「928」は複数存在していたとのこと。気になるその落札価格とは?

かつて「世界最高落札価格」を記録した車両の現在の価値とは?

 2021年9月、バレットジャクソンのオークションで1979年式ポルシェ「928」が198万ドル(約2億7882万円)で落札され、「ポルシェ『928』世界最高落札価格」を記録しました。

 そんな車両が、先ごろアメリカで開催された自動車の祭典「モントレー カーウィーク」期間中に併催されたボナムズのオークションに登場。予想落札価格は140万ドル~180万ドル(約1億9715万円〜2億5348万円)と強気でした。

「モントレー カーウィーク」期間中に開かれたボナムズのオークションに『卒業白書』の劇中車である1979年式ポルシェ「928」が登場(C)Bonhams

「モントレー カーウィーク」期間中に開かれたボナムズのオークションに『卒業白書』の劇中車である1979年式ポルシェ「928」が登場(C)Bonhams

 この車両は、1983年公開の映画『卒業白書(原題:リスキービジネス)』で使用された劇中車の1台でした。

 当初、映画では3台の「928」が使用されたといわれていましたが、実際はもっと複雑な真相があったようです。

 この謎に迫ったのが、ルイス・ジェンセンという男性。R指定だった『卒業白書』を14歳のときにこっそり観て以来、「928」に魅了されたジェンセン氏は、20年以上のときを経て、劇中車の行方を追跡し始めました。

 調査の結果、驚くべきことに6台もの「928」が映画制作に関わっていたことが判明したようです。

 映画内に登場する「928」は、外装色はプラチナメタリック、内装はタン色、トランスミッションはMTという仕様で、主人公であるジョエル・グッドセン(トム・クルーズ)の父親のクルマという設定で登場します。

 脚本家兼監督のポール・ブリックマンは、「フェラーリやランボルギーニでは主人公の父親の日常の足には高級すぎる」と考え、ポルシェ「928」を選んだとのこと。

 ちなみに「911」も検討されましたが、こちらは「平凡すぎる」との判断で却下されたそうです。

 そんな『卒業白書』には、カーチェイスシーンで1981年式のAT仕様も登場しています。こちらの車両は一般オーナーから借り上げたもので、撮影中、あまりにもハードな乗り方をしていることがオーナーの怒りを買い、途中で弁護士が買い取って撮影を継続したという経緯があります。

 こちらの車両は、映画内に登場するシカゴのリー・クリンガー・ポルシェ(現ポルシェ・エクスチェンジ)の顧客が所有する車両でした。

『卒業白書』はトム・クルーズの初主演作品だったこともあり、当時は劇中車としての価値は見込まれず、撮影終了後にアメリカ国外へ輸出されています。なお、こちらの車両のシャシー番号は、WP0JA0921BS820312とのことです。

 そのほか、水没シーン専用車としてエンジンなどを取り除いた特別仕立ての1台や、劇中には登場しないポスター撮影用のサンルーフつきモデル、さらには、音響録音用の車両も『卒業白書』では使われています。

 また、水没シーンの導入部で1カット撮り忘れがあったようで、「928」が坂をゆっくりと下るシーンのためだけに1台調達されたようです。しかし、こちらの記録は残っていないとのこと。制作サイドが友人や知人のツテをたどって調達したのかもしれません。

●長年捜索されていた“本物の劇中車”とは?

 今回、オークションに出品された「928」は、トム・クルーズの近接撮影用に用意された1979年式でした。

 1979年式の「928」はプラチナメタリックの外装色が設定されていなかったため、わざわざ撮影のためにこのボディカラーに塗装されたモデルでした。

 ジェンセン氏は長年の捜索の末、トム・クルーズの近接撮影に使用されたこの車両を発見したとのこと。なんと、彼は自分だけでは探しきれないと覚悟を決め、探偵まで雇ったそうです。

 撮影終了後、この「928」は白く塗り替えられ、カリフォルニア州に保管されていました。複数オーナーを経て、走行距離は10万マイル超に。燃料タンクには漏れがあり、ボディの節々には経年劣化が見受けられました。

 それでもジェンセン氏は、長年の“ヒーローカー”を無事に入手。ボディの目立たない場所を削り、本来のボディ色がプラチナメタリックだったことを突き止め、“本物の劇中車”であることを再確認したそうです。

 そんな『卒業白書』でスクリーンを彩ったポルシェ「928」ですが、「ポルシェ『928』世界最高落札価格」を記録した2021年のオークション時の熱狂はどこへやら。今回のボナムズでは控えめな予想落札価格ながら流れてしまいました。

 もし、今回の出品者が値上がりを見込んで購入していたとすれば……これが本当の“リスキービジネス”だったのかもしれません。

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