ボルボの新しい“3列シート車“「EX90」は何がスゴい? 次なる将来ビジョンを牽引する「ラグジュアリーSUV」は静粛性と快適性が格上です

「2030年完全BEVブランド化」の方針を撤回し、新たな将来ビジョンを打ち出したばかりのボルボ。そんなタイミングでモータージャーナリストの島下泰久さんが試乗したのが3列シートSUVのBEV「EX90」です。ボルボの新たなフラッグシップとなるこのモデルは、果たしてどんな魅力を備えているのでしょうか?

全体のフォルムはボルボらしくおだやかで上品な印象をキープ

 先日ボルボは、当初掲げていた「2030年完全BEV(電気自動車)ブランド化」の方針を撤回して、将来の完全電動化を見据えつつも、2030年までの世界販売の90〜100%をBEV、そしてPHEV(プラグインハイブリッド)にするという新たな計画を発表しました。

 そんな、なんともいえないタイミングで開催されたアメリカ・ロサンゼルス近郊での国際試乗会でステアリングを握ったのは、新しいフラッグシップ3列シートSUVのBEV「EX90」です。

ボルボ「EX90」

ボルボ「EX90」

 実は「EX90」は、すでに日本でも販売中のコンパクトSUVである「EX30」よりも早い2022年11月にワールドプレミアがおこなわれていました。聞くところでは、自社でおこなうソフトウェアの開発に時間を要し、ここまでズレ込んでしまったようです。

「EX90」は、車体の基本骨格として“SPA2(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー2)”と呼ばれるBEV専用プラットフォームを用いています。「XC90」よりも少し大きな車体は全長5037mmで、2列シートの4/5人乗りと、3列目シートまで備える6/7人乗りがそろいます。

 注目点として、クルマ全体で約15%の再生スチール、約25%の再生アルミニウム、約48kgの再生プラスチックとバイオベース素材が使われていることが挙げられます。

 シート表皮に再生ペットボトルなどからつくられた合成皮革“Nordico”を用いるなど、単に動力源を電気にするだけでなく、トータルでサステナビリティに配慮する姿勢は、ボルボらしいところです。

 エクステリアは、「EX30」と共通のデジタル表現で描かれた“トールハンマー”ヘッドライトなど新世代の表現を採り入れながらも、全体のフォルムはボルボらしいおだやか、上品な印象をキープしています。

 気になるフロントウインドウ上部の張り出しは、中に“LIDAR(ライダー)”を収めるため。カメラ、センサーなどと協調して車両周辺のセンシングをおこなうものですが、実際に効果を発揮するのは将来のレベル3、もしくはそれ以上の自動運転の実現の際でしょう。

 インテリアも、ハードスイッチをできる限り減らして縦型のセンタースクリーンへ機能の集約を図っているのは「EX30」と共通とはいえ、運転席の前にも速度、地図、ナビゲーション情報などを表示する小型ディスプレイが、さらにはヘッドアップディスプレイも備わるなど、いい意味でそれほど急進的ではありません。トリム類の仕立ても上質で、フラッグシップへの期待を裏切らないものとなっています。

「EX30」ではダッシュボードの奥にサウンドバーを装備する大胆さだったオーディオも、オーセンティックなBowers&Wilkins(バウワース&ウィルキンス)に。スピーカー数は25個を誇ります。ドルビーアトモスの効果を引き出すセンタースピーカー、ツイーターグリルなどの精緻な造形も見どころです。

 後席は、シート自体はやや小振り。前席よりも高めの着座位置となりますが、頭上含めスペースは十分に確保されています。3列目シートも短時間のドライブなら十分許容範囲の広さ。ただし、乗り降りはしやすいとはいえないので、基本的には応急用と見るべきでしょう。

 これらのシートはフルフラットにして荷室に充当することもできます。試乗車の3列目は電動で格納、展開が可能で、また、エアサスペンションを活かして荷物を積み込むときに車高を下げる機構も備わっていました。床下の収納も大きく、総じて使い勝手はよさそうです。

●517ps、910Nmとシステム出力は強力

 今回試乗したのは、最上級グレードの「EX90 ツインモーター パフォーマンス」。フロントに最高出力245ps、最大トルク420Nmの、リアに同272ps、490Nmの自社製電気モーターを搭載し、517ps、910Nmというシステム出力を発生します。

 ボロンスチールを用いた強固なケースに組みつけられたリチウムイオンバッテリーは容量111kWhにも及び、航続距離はWLTPモードで580kmに達します。では、その走りは?

 動力性能は余裕があり、アクセルペダルを深く踏み込まなくてもスーッと軽快に速度を高めていきます。2.5トンを超える車重もあり517psは実感しにくいですが、多人数乗車でもそうそう不満を感じることはないでしょう。

 それより驚かされたのは、静粛性の高さです。電気モーターやインバーターなどの周辺機器が発する騒音はもちろん、ロードノイズ、風切り音なども徹底的に封じ込まれていて、室内は本当に静か。制振材の入念な配置に加えて、サスペンションのボディ側マウントを液封タイプとしたり、サブフレームを徹底的に高剛性化したりと、騒音対策、振動低減には相当力が入れられたようです。

 しかも、ボルボが“セミアクティブ”と称するデュアルチャンバーのエアスプリングに電子制御ダンパーを組み合わせたサスペンションは、22インチの大径タイヤを履くとは思えない、ふんわりとした乗り心地を実現しています。

 特に好印象だったのは2列目で、良好な前後重量配分のおかげか、やわらかく動くのに姿勢はフラット。大型パノラマサンルーフの開放感も相まって、至極快適に過ごすことができます。ここまで来たら、リアシートモニターやテーブルの設定もあるとなおよいかもしれません。

ボルボに期待される要素のすべてをアップデート

「EX90」はフットワークもとてもナチュラル。前後バランスのよさ、「XC90」より10cmも低い重心高、さらにはリアに仕込まれたトルクベクタリング機構などが効いているのでしょう。

ボルボ「EX90」

ボルボ「EX90」

 そこはさすがボルボで、操って心躍る……という感じではないのですが、道幅の狭いワインディングロードでも快適に走ることができました。

 ちなみに、リアのトルクベクタリング機構はデファレンシャルではなくクラッチを使ったもので、巡航時にはリアへの駆動をカットすることも可能。つまり必要ないときには前輪駆動とすることで、電費向上につなげています。

 ボルボに期待される落ち着いた雰囲気、おだやかな乗り味、上々の使い勝手を損なうことなく、すべてがしっかりアップデートされているというのが、「EX90」をじっくりテストした筆者(島下泰久)の印象です。

 特にインテリアは、十分に先進的でありつつも、すべてをセンターディスプレイにまとめたラジカルな「EX30」よりもフレンドリー。新しいファンにも従来からのユーザーにも、受け入れられる丁度いいポイントを突いていると感じられました。

 この「EX90」、価格は今回乗った最上級の「ツインモーター パフォーマンス」の場合、邦貨換算すると2000万円をやや下回る辺りと、ボルボ車の中でも飛び抜けて高くなりそうです。

 しかも冒頭に記したとおり、ボルボは2030年の100%BEV化を撤回、さらに、2024年9月4日に発表した「XC90」のマイナーチェンジではインフォテインメントシステムを同等レベルに進化させています。

 どちらを選ぶべきか、ユーザーを悩ますことになりそうな気もしますが、BEVを不自由なく使える環境にあるならば、やはり基本骨格から新しい「EX90」こそ本命でしょうか。

 ただし、この「EX90」の日本上陸まではまだまだ時間がかかりそう。現時点では2025年後半を予定しているとのことです。

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