7速MTだからこそ味わえる「スポーツカーの醍醐味」 ツウ好みのポルシェ「911カレラT」の魅力とは? 買うなら今がラストチャンスか!?

先ごろアップデートされ、ハイブリッド搭載モデルがラインナップに加わったばかりのポルシェ「911」。しかし今回、フォーカスを当てるのは、熟成が進んだ改良直前モデルに設定された“ツウ好み”のモデル。軽量化などのモディファイが加えられた「911カレラT」は、どんなモデルなのでしょうか? 公道でその実力をチェックします。

軽量化など独自のモディファイが加えられた「911カレラT」とは

 2024年5月29日、ポルシェ・ジャパンはアップグレードされた「911カレラ」と「911カレラGTS」の日本導入を発表、予約受付をスタートしました。

ポルシェ「911カレラT」

ポルシェ「911カレラT」

 今回のアップグレードにおける最大の注目は、「911カレラGTS」にハイブリッドシステムが採用されたことでしょう。

 60年以上にわたり改良を重ねてきた「911」ゆえ、こうした進化に対して筆者(村田尚之)は否定どころか歓迎する気持ちが強いのですが、一方で、熟成の進んだ改良直前モデルが気になるというファンも少なくないはず。特に、2022年秋に追加設定された「911カレラT」は“ツウ好み”のモデルとしてじわりと注目を集めています。

「911カレラT」と聞いて、1960年代から1970年代のナロー時代に設定されたエントリーモデル「911T」を想像された方は、生粋の「911」マニアではないでしょうか。そして、先代の“タイプ991”に設定された軽量スポーティ仕様を想像された方は、スポーツドライブ志向の愛好家かもしれませんね。

 この間、約50年の歳月が流れていますから、“T”というグレード名に特別な意味を求めるのは難しいかもしれません。その中であえて共通項を探すなら、パワーアップに頼らずオリジナルのよさを求めたモデル、というところでしょうか。そのために、ちょっとした軽量化やセッティングの変更を施している、といえば、“T”の文字にも意味が生まれようというものです。

 さて、“タイプ992”の前期モデル末期にラインナップへと加わった最新の「911カレラT」ですが、“T”を名乗るべく施されたメニューは、“タイプ991”時代と同じアプローチです。すなわち、エンジンはノーマルのカレラのまま、軽量化と足まわりをブラッシュアップ、という手法です。

 具体的には、リアシートを取り払い、軽量ガラスを採用。さらに遮音材を省くことで35kgの軽量化を達成。これにより車両重量は、1460kgとなっています。

 また、車高が10mmダウンするスポーツサスペンションとPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム)、リミテッドスリップデフが備わるPTV(ポルシェトルクベクトリング)が標準装備となり、ホイールもフロント20インチ、リア21インチへと1インチ拡大されています。

 そう聞くと、軽量化メニュー以外は「911カレラ」でも選べるんじゃないの? と思う人もいるかもしれません。確かにそのとおりではありますが、唯一、ノーマルのカレラでは選べない仕様があるのです。それが7速のマニュアルトランスミッション。「911」を自らの意思と腕で操りたい方にとっては、最大の魅力といえるのではないでしょうか。

 もちろん、「911カレラT」には8速PDK(デュアルクラッチ式トランスミッション)も設定されていますし、その電光石火かつスムーズなシフトチェンジを知った上で、あえて3ペダルのMTを選ぶのは、なかなかのモノ好きだと思います。

 でも、自分の意志とタイミングで変速操作を楽しみたいスポーツドライビング派にとっては、これ以上ないプレゼントといえそうです。何しろ、992世代のモデルにおいて、日本市場でMTを選べるのは「911カレラS」ベースの高性能モデル「911カレラGTS」と、サーキット志向の「911GT3」系モデルだけなのですから。オリジナルの「911」に準じたモデルへのMTの設定には拍手を送りたい気持ちです。さすがはポルシェ、分かっていらっしゃる。

クルマとの対話を楽しめることこそ「911カレラT」の醍醐味

 それでは、ややシェイプの深い電動スポーツシートに体を収め、公道へと歩みを進めましょう。

ポルシェ「911カレラT」

ポルシェ「911カレラT」

 重くはありませんが、しっかりと反力のあるクラッチペダルを踏み込んでエンジンをスタートさせると、3リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンは「ボンッ!」と低く雄叫びを上げて目覚めます。

「勇ましいな」と思えるサウンドですが、これは専用装備のスポーツエグゾーストゆえ。ちょっとした違いではありますが、この辺りのちょっとした演出も歓迎する方が多いかもしれませんね。

 もちろん、ノーマルのカレラと同じエンジンとはいえ、最高出力は385ps、最大トルクは450Nmと、1.5トンを切る車重には十分以上のスペックを有していますから、ただのハッタリでもありません。

 続いて、混雑した街中を避けて首都高速へと進みましょう。少しスピードを上げただけ、ちょっとしたコーナーに遭遇しただけでも、「911カレラT」はその本領をチラリと披露します。

 まず感じるのは、心地いい“俊敏さ“。35kgの軽量化も効いているとは思いますが、重量でいえば燃料満タンと残量3分の1程度の差でしかありません。それでも、ニヤリと笑みがこぼれるような身のこなしは、PTVとスポーツサスペンション、そしてテスト車に装着されたオプションのリアアクスルステアリングの合わせ技といえそうです。

 走る舞台をワインディングに移しても、このニヤリとする走り味は変わりません。

 当然、公道であることと筆者の腕では、このクルマが秘めた本領、限界など垣間見ることはかないません。しかし、「911カレラT」は走る、曲がる、止まる……すべての操作が抜群に楽しく感じられるのです。

 それは、ガッシリとゆがむことすら許さない強靭なボディと低速域からスムーズに伸びるエンジン、さらに強力無比なブレーキといった優れた基礎体力に加えて、やはり7速MTと軽量化の相乗効果なのでしょう。

 マニュアルトランスミッションといっても、往年の「911」のようなシフトチェンジの際のコツは不要ですし、程よい重さのシフトレバーは「コクッ、コクッ」と変速操作が決まります。

 一方、リアシートや遮音材が省かれたことで、リアからは程よくエンジン音も聞こえてきますし、トランスミッションが発するメカノイズも微かに伝わってきます。

 ステアリングや各種ペダル、シフトレバーの感触、さまざまな音に五感を研ぎ澄ませつつクルマとの対話を楽しむ……そんな楽しさが「911カレラT」には満ちているのです。

 もちろん、機械まかせにできない分、稀にタイミングが合わないこともありますが、むしろ「次こそはキレイに決めてやる!」と思わせてくれるのも、スポーツカーを操る楽しさといえるでしょう。

 こうした「911カレラT」の楽しさは、ベースモデルである「911カレラ」の高い完成度と素性のよさの証明でもありますが、ノーマルモデルはより幅広いシーンで、より多くの人の用途に応えなければならなりません。例えるなら、本質こそ変わりませんが、ノーマルの「911カレラ」は良質なスーツに身を包んだ知性的なアスリート、「911カレラT」は休日モードの動きやすいシャツ姿、といった感じでしょうか。

 ただ惜しむらくは、「911」のグレードアップにともない、「911カレラT」の新車を手に入れることができなくなってしまったということです。

 とはいえ、認定中古車をメインとするユーズドカー市場では新車に近いコンディションの「911カレラT」がちらほらと存在しています。最新世代の「911」が秘めたピュアなドライビングプレジャーを堪能したいという方にとっては、今こそラストチャンスなのかもしれません。

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