「えっ?」メルセデス・ベンツの最新「Gクラス」は4モーターで“戦車みたいな旋回”を実現!? 実車との初対面で実感!「G580EQ」はすべてが驚異的

“キング・オブ・オフローダー”の異名を持つメルセデス・ベンツ「Gクラス」のラインナップに、電気自動車版の「G580 with EQテクノロジー」が加わりました。4基のモーターを搭載し、卓越した悪路走破性を身につけた電動「Gクラス」の印象を、現地でひと足先に実車と対面したモータージャーナリストの島下泰久さんがレポートします。

Aシュワルツェネッガー氏も熱望したBEVの「Gクラス」

 2023年10月に開催されたジャパンモビリティショー2023でも展示され、熱い視線を集めていたBEV(電気自動車)版の「Gクラス」であるメルセデス・ベンツ「コンセプトEQG」が、いよいよ市販となります。

 正式な車名は「G580 with EQテクノロジー」(以下、「G580 EQ」)。2024年4月24日、米・ロサンゼルスと中国・北京で同時に発表となりました。

BEV化しながらも険しいテストコースを走破できるだけの圧倒的な悪路走破性を身に着けたメルセデス・ベンツ「G580 with EQテクノロジー」

BEV化しながらも険しいテストコースを走破できるだけの圧倒的な悪路走破性を身に着けたメルセデス・ベンツ「G580 with EQテクノロジー」

 現行「Gクラス」のワールドプレミアがおこなわれたのは2018年1月のデトロイトモーターショーの開幕前夜のことでした。このときのステージ上でのやり取りを、筆者(島下泰久)は今も鮮明に記憶しています。

 ゲストとして招かれていたのは、「Gクラス」の大ファンだという俳優でありカリフォルニア州前知事のアーノルド・シュワルツェネッガー氏。クルマがお披露目された後、氏は当時のディーター・ツェッチェCEO(最高経営責任者)に対して、おもむろにこう質問したのです。

「BEV版の『Gクラス』は設定されますか?」

 それに対してツェッチェCEOは、モデルレンジ全体にBEVを提供すると応えたのみでしたが、正直、当時の空気としては、「さすがに『Gクラス』のBEVはないのでは?」というものだったと思います。

 しかしメルセデス・ベンツは、それから3年半後の2021年9月に開催されたIAAモビリティ2021で「コンセプトEQG」をお披露目し、実際にその開発が進められていることを明らかにします。そして、さらに2年半。ついに今回のデビューにこぎつけたのです。

●4モーターを搭載する驚愕の4WDシステム

 実はこの発表よりひと足先に、筆者は「G580 EQ」の実車と対面し、エンジニアに話を聞くことができました。そのスペックは、すべてが驚異的といっていいものだったのです。

 まず電気モーターは1基でも2基でもなく、なんと各輪に1基ずつの合計4基が搭載されています。それぞれの最高出力は108kW(147ps)、最大トルクは291Nmで、合計最高出力は432kW(588ps)、最大トルクは1164Nm。しかもギア比2:1のローレンジが各輪に備わり、さらにはバーチャルデフロック、トルクベクタリングといった機能も組み込まれています。

 車体は「Gクラス」のラダーフレームをそのまま継承しており、電気モーターはこれにマウント。デュアルジョイントシャフトで各輪に駆動力を伝えます。大容量116kWhのリチウムイオンバッテリーは、高剛性ケースに入れられてフレーム内にすっぽり収められています。

 サスペンション形式は、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがリジッドを踏襲しています。ただし、リアのド・ディオンアクスルは完全に新設計されたとのことです。

 まさかの4モーターを始めとするこの駆動システムによって、「G580 EQ」はこれまでの「Gクラス」では決して実現できなかったさまざまな走行モードの搭載を実現しています。

 その一例が“Gターン”。その場で360度回転ができる機能で、左右好きな方向に4秒で1回転させることができます。もちろん、途中で停めることも可能です。

 そして“Gステアリング”は、リア側内輪を軸にクルマを旋回させる機能で、狭い折返しなどに遭遇した際など、進路を容易に転換させることができます。

 そして“オフロードクロウル”は、悪路で低速を維持しながら走行する機能で、“スロークロウル”は上り下りそして平地で約2km/hの極低速走行が可能に。“ヴァリアブルクロウル”は人が歩くような低速を保ちながらも、10〜20%の下り勾配ではアクセル操作により最大14km/hまで加速でき、ブレーキペダルを踏むと元の速度に戻って走行を続けることができます。

 低回転域からトルク豊かな電気モーターを使うだけに「ローレンジは不要では?」とも思いましたが、そこはやはり「Gクラス」。求める悪路走破性の実現には、やはり採用が必須だったということでしょう。

 こうしたさまざまなテクノロジーの採用によって、「G580 EQ」は他のすべての「Gクラス」と同じく、開発拠点であるオーストリア・グラーツのシェークル山にある険しいテストコースを走破できる性能を実現しています。登坂能力は最大100%にも達するのです!

エアロダイナミクスの進化が著しい新型「Gクラス」

 こうした走行性能だけでなく、デザインも「G580 EQ」の見せ場といっていいでしょう。

BEV化しながらも険しいテストコースを走破できるだけの圧倒的な悪路走破性を身に着けたメルセデス・ベンツ「G580 with EQテクノロジー」

BEV化しながらも険しいテストコースを走破できるだけの圧倒的な悪路走破性を身に着けたメルセデス・ベンツ「G580 with EQテクノロジー」

 フロントマスクには専用のブラックフェイスを採用。「コンセプトEQG」を彷彿とさせるコレは、起動と同時にイルミネーションが点灯してアピールします。

 車体後方に回ると、スペアタイヤの代わりにやや小ぶりの、家庭用ウォールボックスに似たデザインのボックスが装着されています。これは充電ケーブルを収納しておくためのスペースです。

 そして重要なポイントが、もうひとつ。「G580 EQ」を含む新しい「Gクラス」は、全車にフロントピラー表面の樹脂製パネルとルーフへのリップスポイラーが装着されたほか、遮音材の追加によって空力特性を改善。弱点だった風切り音を低減しています。

 加えて「G580 EQ」は、中央部分を高く持ち上げた専用のボンネットを採用。リアフェンダーにもスリットが入っています。これもやはり空力改善のためのもので、空気抵抗を示すCd値は先代「Gクラス」の0.53から0.44まで改善されています。現代の基準で見れば「まだまだ」とはいえ、従来との比較ではその進化、劇的といってもいいでしょう。

 実際、「G580 EQ」は、WLTPモードで473kmの航続距離を実現しています。もちろん、ほぼ同容量のバッテリーを搭載する「EQS」が余裕で700km以上も走ることを考えれば物足りないともいえますが、このいかにも「Gクラス」らしいフォルムはそのまま、しかも車重は3085kgにも達することを考えれば、「なんとか納得」というくらいにはなっているといえるのではないでしょうか。その大きな要因のひとつが、空力性能の向上であることは間違いありません。

* * *

 BEV化されても何も失うことなく、むしろ実力をさらに引き伸ばすモデルに仕上がった「G580 EQ」。気になる価格は、スターティングプライスが14万2621.5ユーロ(約2352万円)、導入記念限定車の「エディション ワン」は19万2524.15ユーロ(約3176万円)と発表されています。

 さて、日本にはいくらで、いつやってくるのか? 楽しみに待ちたいところです。

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