NVIDIAのジェンスン・ファンCEOと孫正義氏が語り合い、3000人が聞き漏らすまいとした全て 孫氏が10年前、ファン氏に伝えた「市場はNVIDIAの価値を理解していない」

企業の価値を示す時価総額は、およそ560兆円で世界一位。(11月13日時点)
今年の「AIブーム」と言われるアメリカの株高を演出したエヌビディア。そのトップ、ジェンスン・ファンCEOが来日し、「AIサミット」と題してイベントを行った。

その基調講演で、ファンCEOと対談したのが、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。

会場に着いて驚かされたのは、圧倒的な関係者の数だった。その数は3000人あまり。その熱気は静かだったが圧倒的だった。「関係者」たちは二人が発する言葉を一言も聞き漏らすまいと食い入るように聞き入る。その熱量が示す光景から、AIが巻き起こす変革への期待と規模が伝わってきた。

二人が展望した「AIの未来」。
ジェンスン・ファンCEOと孫正義会長兼社長の対談の一部始終をお伝えする。

取材:TBS経済部 張叶橋

孫正義さんは世界で“唯一無二”の起業家

ファン氏
「今日は特別なゲストをお招きしています。私たちがきょう発表することについて、また、AIを日本に導入することについて話してもらいます。そして、彼は私の友人です。本当に唯一無二の存在です。みなさんもご存知かもしれませんが、本当にユニークな人です」
「マサはどこ?孫さんはどこにいますか?ここにいますか?」

ここで、孫正義氏が登場。二人はリラックスした様子で握手した。

ファンさん
「ご存じかもしれませんが、私は長年テクノロジー業界に携わってきました。PC革命から、インターネット、モバイルクラウド、そしてAIまで。マサは世界で唯一、全ての時代において勝者を見抜き、その勝者と提携した起業家です。覚えていますか?日本にビル・ゲイツを連れてきたのはマサでした。また、アメリカでヤフーを創業したジェリー・ヤンを日本に紹介したのも、アリババを通じて中国のクラウド産業を実現させたのも、スティーブ・ジョブズとiPhoneを日本に持ち込んだのもマサでした」
「“ある時期”マサはNVIDIAの大株主でもありました」

会場笑い。孫さんも、ファンさんの肩に手を置き、伏せながら笑う。

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ファンさん
「ははは、冗談です。泣いてもいいですよ、一緒に泣きましょう」
「テクノロジー革命の各時代において、どのようにして100%の的中率で革新者や創造者たちを見出してきましたか?」

孫さん
「ただ運が良かっただけだと思います。なんとなく進んでいただけです」
「それは、情熱であり、夢です。そして先駆者の直感とでも言いましょうか。同じビジョンを共有できている。オオカミがお互いに匂いを嗅ぎ合うように、私たちも嗅ぎあっている」

ファンさん
「2匹の子犬飼っているけど、その例えはねぇ…」

観客の笑いを誘ったところで、テーマはAI産業に移っていく。

すべての産業が変革を迎えている

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ファンさん
「過去を振り返って、AIというプラットフォームの変革がこれまでとどう違うか、何が違っているのか」

孫さん
「これは最もエキサイティングで、最もダイナミックな未来の最前線です。これは今までの1000倍の大きい、最大の波です」

ファンさん
「重要なのは、AIがソフトウェアであると理解することです。それまでとは大きく異なるタイプのソフトウェアですが」
「人間が使うツールとしての時代から、ニューラルネットワーク、大規模言語モデル、エージェント、ロボットといった、人間のタスクを担い、産業で実際に働くことのできる新しい技術の時代へ移っています。これは100兆ドル規模の新しい産業です。単なるIT産業の進化に留まらず、すべての産業が変革を迎えています」

孫さん
「私たち人間だけが他の生物と比較して“スーパーブレイン”を持っている唯一の存在です。脳の力のおかげで、人類は非常に強力な存在になりました。筋力だけを比べれば、ライオンや象の方が強いですが、人間は最も賢い脳を持っています」
「今日のGDPに関わるすべての活動も、人間の何らかの脳の活動に基づいています。なので、あらゆる産業が影響を受けると思います」

ファンさん
「産業は物質で構成されていますね。でも限界があります。動かすのは重いですから」
「しかし、AIの産業は“電子”の産業です。無限大です」

孫さん
「知能は物質に比べて動きが自由ですよね。これは本当に素晴らしいことです」

ファンさん
「今日、私たちが発表したものの一つが、日本にAIグリッドを構築することです」
「私たちのAIモデルを開発するための工場ができ、それを日本全国に分け合います。私たちが協力して設計したAIファクトリーの構造は革命的で、世界にはこれに匹敵するものはありません。日本が世界初です」

孫さん
「この新しい波にみんな乗り遅れてはいけません」

鉄腕アトムのように ロボットに情熱が宿る時代へ

ファンさん
「ソフトバンクグループの今後と、AIグリッドが日本にもたらす変革について聞きたいと思います」

孫さん
「これまで私たちの基地局は主に通信やインターネット閲覧のために使われてきました。しかし、今はインテリジェンスネットワークによって、お互いを密につなぎ、一つの大きな脳のようなものを作り出し、日本のインテリジェンスなインフラを形成します」

ファンさん
「それは素晴らしいことです。もちろん、ソフトバンクの利用者やYahoo! Japanのようなサービスにも活用でき、ユーザー体験をさらに向上させることができます。私が非常にワクワクしているのは、このリソースを研究者や学生、スタートアップ企業にも開放しているということです」

孫さん
「あなたのサポートをいただけたおかげで、日本で最大のAIデータセンターを作ることができます。そして、日本の研究者、学生、スタートアップに向けて、より良いアクセスと計算を支援したいです」

ファンさん
「インフラ建設は非常に資本集約的であり、あなたは日本に大きな賭けをしようとしていますね。以前、日本の電子製品の技術は世界をリードしていました。実際、家電製品はその一例です。ただ、IT産業が登場し、ソフトウェアが登場し、この30年間は、混乱があったと思います。西洋や中国でソフトウェア産業が大きく成長する一方で、日本はもっと積極的に進めることができたかもしれません」

孫さん
「あの頃、そしてある程度は今も、大企業やメディアなどの中では“ものづくり”つまり、物理的な製品が価値あるのだとされ、ソフトウェアはあくまで仮想的なものと考えられていました。日本ではこのような考え方が長い間続いてきました」
「そのために若い人たち、特にネットバブル崩壊後の世代が批判され続け、いわば罰を受けたような状況になり、若い才能が情熱を失い、気力をそがれてしまいました」
「しかし、ロボット工学にAIを持ちこみ、私の好きな漫画、たとえば鉄腕アトムのように、ただの筋肉や力だけではなく、ロボットにも情熱が宿り、友人としての存在になるような時代が近づいています」

産業がリセットされている 日本も波に乗れ

ファンさん
「新しい時代の幕開けですね」

孫さん
「リセット」

ファンさん
「その通りです。今、産業がリセットされています。 スタック(積み上げてきたもの)全体がリセットされつつあることが分かります。新しい世代では、前世代の企業はあまりうまくいっていない。そして、まったく新しいスタック、まったく新しいチャンスが出現しているのです。日本もこのチャンスを活かさなければなりません」
「人工知能はソフトウェアとは非常に異なるもので、AIにはデータが必要です。また、ドメイン知識、つまり専門知識も重要です。たとえばアーティストやゲーム開発、製薬など、それぞれに専門知識があり、それをデータで表現できるなら、そのデータを使ってAIモデルを訓練し、自らのAIを作り上げることができます」

孫さん
「日本にとって良いニュースは、今回に関して、日本政府は規制で抑え込もうとはしていないということです。一部の国では、人工知能の分野に対して過保護なほどに規制をかけられています」
「幸運にも、日本政府は今回は技術革新を押さえ込もうとはしていないようです。もっと促進させるべきだとも思いますけどね。なので、今が追い越せるチャンスです。私たちはこのチャンスを逃してはなりません」

ファンさん
「もちろん、AI革命の一翼を担うには、インフラが必要です。このタイプのソフトウェアは機械学習…」

孫さん
「あなたのところのチップがたくさん必要ですね(笑)」

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ファンさん
「ありがとう(笑)」
「AI工場がなければ、AIを生み出すことは不可能です。それが、ソフトバンクが日本でAIグリッドを構築している理由ですね」

孫さん
「私たちは実例を示す心算です」

ファンさん
「そして、私たちは日本の350社のスタートアップと協力しています。世界中には22,000社もあります。信じられないことです。私たちは若い起業家やイノベーターたちがAIに取り組み、活用することを支援しなければなりません。インフラを整備するのです」

孫さん
「私たちは日本最大のAIデータセンターを作り、コンピューターパワーをほぼ無料で試せるような支援プログラムを提供しようとしています。新しいAIモデルやアプリケーションを試すことができるのです」
「(ファンさんへ)あなたも寄付を」

ファンさん
「オーケー」

孫さん
「スタートアップと研究のために」

ファンさん
「孫さんと会うのはお金がかかりますね」

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“第二の自分”のようなAIエージェントをすべての人に

ファンさん
「日本のAIの未来に何を望みますか?あなたの夢は何ですか?」

孫さん
「私はロボティクスに情熱を持っています。医療分野でのAIの導入も期待していますし、医療AGIは間違いなく現れるでしょう」
「また、私たちにはLINEやYahoo!、PayPayなどのサービスがあり、日本人のライフスタイルを支える多くの特定のエージェントを作ることができます。アメリカで生まれた技術だけではなく、日本の習慣や文化を知り、ローカルな知識を持つAPIが日本各地で活用されることになるでしょう」
「あなたは企業向けのエージェントについて話していましたね。別の方法で、私もサポートしますが、個人向けのエージェントもやがて私たち一人ひとりの手に渡ると信じています」
「ビル・ゲイツが『すべてのデスクにPCを』、スティーブ・ジョブズが『すべての手にスマートフォンを』と言ったように、私たちは『AIエージェントをすべての人に』と言いましょう。一人ひとりに専属のエージェントが必要なのです」
「旅行や勉強のプランを立ててくれたり…」

ファンさん
「あなたは生活のすべてを知るAIエージェントをイメージしていますね」

孫さん
「そうです」
「子どもたちの成長をサポートしていきます。個人用のAIエージェントは“第二の自分”のように、子供の頃から共に育ち、あなたのすべてを知っていて、体調も、学んだことも」

ファンさん
「読んだことも、話したこともすべて記憶してくれている。“パーソナル・アリストテレス”のようなものですね」

孫さん
「その通りです。もうすぐ現れると思います。日本独自の知識や文化を持ち、そこから生まれたエージェントです。素晴らしい未来が待っています」

「誰かに自分の脳を差し出すようなことです」

ファンさん
「各国が目覚めつつあることのひとつが一つの重要なこと、それは国のデータ、国民のデータです。その国の知識や文化をエンコード(記号化)しているものです。そのデータはその国に属するものです」

孫さん
「ナショナルセキュリティー。国家安全保障です」

ファンさん
「各国はそのデータを自国で処理し、自国のためのAIを構築する必要があり、それを他国に委託するのは違うと思います」

孫さん
「これは非常に重要であり、それぞれの主権者、それぞれの国、それぞれの政府は、自国の国家安全保障データを自国のAIデータセンターに移行させなければならない。それぞれの国で、安全なデータ・セキュリティーを確保しなければならない」

ファンさん
「各国が独自のAIを作り、それぞれの企業もまた独自のAIを作り出すでしょう」
「企業が独自のAIを作らないのは可能だと思いますか?」

孫さん
「他の誰かに自分の脳を差し出すようなことです」

ファンさん
「その通りですね。世界はこの考えに目覚めつつあります。そして最初に必要なのは、ナショナルグリッド、AIグリッドです」
「道路がなければ自動車産業が成り立たないように、あなたは日本のAIの道路を建設しました。インフラがあってこそ新しいサービスや企業が発展できますね。とてもワクワクしています」

買収には三度挑戦した これから共に歩もう

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ファンさん
「そうだ、マサさん…」「あなたは想像できますか…」「いまも私たちの大株主だったら!」

孫さん
「私たちは三度、トライしました」
「一度目は…何を話しましたっけ?10年前に私の家の庭で、プライベートの話…」

ファンさん
「何でもない、それは!では、マサさんがその時に言ったことを教えてあげましょう。いいですか」
「(孫さんは)ジェンスン、市場はエヌビディアの価値を理解してない。未来は素晴らしいが、市場はそれを理解していない。しばらく苦難は続くだろう。なぜなら、未来を発明しているからだ。(孫さんは)エヌビディアを買いたい(と打診してきた)。(笑いながら)受けなかったことを今少し後悔している」(と冗談交じりに)

ファンさん
「素晴らしいアイデアだったのに」

孫さん
「そうだったでしょう」「それは私がARMを手に入れる1か月後でした」

ファンさん
「私たちは2つの会社の統合について話した」

孫さん
「それは三回目ですね」
「一度目は合併について話し、二度目はただ株を買っただけです。三度目はマージンの問題でした...三回も試みた。オーマイゴッド」

ファンさん
「NVIDIAとソフトバンクが共に歩み、パートナーシップを築いていくんです。日本で何かを素晴らしいことができるのがとても嬉しい」

孫さん
「これはほんの始まりに過ぎません。私たちは一緒にたくさんのことを成し遂げるつもりです。業界はとても大きいし、モバイルやIoTがたくさんある。データセンターやゲームのことなど、たくさんのことができます」

ファンさん
「たくさんのコラボレーションを楽しみにしています」

対談を取材して

ファン氏がAIの進歩を「新しい産業革命」と表現するように、AIの波に対しては、「乗るか飲まれるか」の覚悟が企業、業界、政府などに求められており、もはや「挑戦しない選択肢はない」のだと強く感じさせるイベントだった。

対談はテンポよく進み、お互いが旧知の仲で、深く理解し尊敬し合う様子が窺い知れた。二人は時代を牽引するビジネスパートナーでありつつ、一つ話せば十を理解する友人でもある。ファン氏は「ロボット AI 革命をリードするのは日本がふさわしい」と期待をよせたのに対し、孫氏は「文化や習慣を理解し、人に寄り添うAI」ついて夢を馳せていた。果たして、二人の期待と夢が、日本の誇るアニメキャラクターのような(二人はよく日本のアニメを引き合いに出す)心温かいAIが誕生し、結実するのか。そのAIエージェントは私たちを幸せにしてくれるのか──AIの未来はどうなるのか。AIはあくまで「未来予測を手伝う」だけで、実際にどんな未来が待っているのか、見て、体験していくのは私たちだ。

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