犬の散歩中にプログラムを書く。真鍋大度がAIに見出す可能性とは?

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Photo: 照沼健太

FUZE 2024年8月16日掲載の記事より転載

AI技術の進化は、私たちの生活や仕事だけでなく、人間性も変えていくのだろうか。

そのヒントを得るためにFUZEがインタビューしたのは、ライゾマティクスの真鍋大度氏。10年以上前からAIを使った作品制作を行ってきた真鍋氏は、今どのようにAIを使っているのか。そして、AIがもたらす思考の変化、変革の本質、やって来る未来とは?

「生成される画像の価値とは何なのか?」を問いかけるライゾマティクスの個展「Rhizomatiks Beyond Perception」会場にて、お話を伺いました。

AIの進歩によってプログラムを書かなくなった

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──真鍋さんはいつ頃からAIを使っていましたか?

真鍋:機械学習としては、ジェスチャー認識や顔の表情認識を2009年頃から使い始めました。今のニューラルネットワークやディープラーニングと呼ばれる技術については、2015年くらいからですね。GPTは2の頃で、当時はまだテキスト生成すら難しかったですけど、少しずつ作品に取り入れていきました。

──AIを使い始めた頃、まずは「新しい技術」としてのお試しだったかと思いますが、本格的に可能性を感じた瞬間は覚えていますか?

真鍋:元々、人間と機械の関係性について作品を作っていたのですが、さまざまな分野で自動化が進むのを見て作品のテーマとしようと思ったのがきっかけです。2013年に東証の株取引、2015年にビットコインの自動取引をテーマにインスタレーション作品を作りました。その頃はAIという言葉はSF的な印象もあってあまり使ってなかった気がします。

仕事というか、一般の人も使うようになるだろうなと思ったのは、画像生成ができるMidjourney、Stable Diffusionが登場した頃ですね。その時はまだ技術が未熟でしたが、さまざまな人がツールやコードを公開してどんどん可能性が広まっていったと思います。

──かなり早い段階からAIを使っていた真鍋さんですが、昨今のAIブームについてどう感じていますか?

真鍋:実務で普通に使えるようになったので、もう「使うのは当たり前」という感覚です。特に今のAIブームに違和感はありませんね。

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──具体的にどのようにAIを活用していますか?

真鍋:自分でゼロからプログラムを書くことがもう本当に少なくなりましたね。今回アクリルでプリントした作品の生成と選択のためのコードをClaudeで生成しましたが、基本的に指示を出すだけで済みました。

──えっ、もうそんなレベルなんですか?

真鍋:仕様をしっかり決めたらテキストで入力するだけでプログラムが生成され、ほぼそのまま動いてくれるのです。

たとえば「カメラを解析して、顔の表情を認識するプログラムを書いて」といった指示でもAIがOpenCV(画像処理・画像解析のためのライブラリ)と顔解析のライブラリを使ったpythonのコードを書いてくれますね。

AIによって大きく変化した仕事とアウトプット

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Photo: 照沼健太

──手を動かしてプログラムを書く機会が減る中で、作品制作のアプローチに変化はありましたか?

真鍋:本当に大きく変わりました。たとえば、犬の散歩中に音声入力で指示を出しながらプログラムを書いたりできるようになりました

これまで散歩中にiPhoneでできる仕事といえば、人に連絡をするような作業などに限られていましたが、今はそれ以上のことができるようになったと思います。だから、何かの合間にやるとか、何かをしながらできることが増えました。

──犬の散歩をしながらプログラムを書くって、全然サイバーな風景ではないですが、めちゃくちゃ未来を感じますね。

真鍋:音声認識技術の精度が上ったのも大きいですよね。私はもう音声入力が日常的になっています。コツは必要ですが、習得に長い時間がかかるようなことではありません。誰にでもできることだと思います。

──作品などのアウトプット自体に変化はありましたか?

真鍋:自分でプログラムを書くことが減った寂しさもありますが、その分アウトプットの量はかなり増えました

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──お話を伺っていると僕でも真似できそうにも聞こえますが、AIが出したプログラムに対して、経験やスキルを活かしたジャッジは必要ですよね。

真鍋:おっしゃる通りですね。プログラムを自分で読んで理解できる能力は必要だと思います。

それに、私も時々陥ってしまうのですが、自分で書けば30分で済むものをAIに書かせたら、その内容が間違っていて、何度も指示を出しても一向に正しい答えが出ないという場合もあります。自分でやるべきか、AIに任せるべきかという判断も重要になってきているのだと思います。

──今回の展覧会においても、生成AIが無数に作り上げる作品からどれを完成品とするかというジャッジがあったと思います。どのように判断しましたか?

真鍋:美的スコアを計算するAIツールも存在するのですが、今回は抽象的なグラフィックの作品だったこともあり、そういったツールをそのまま使うことは難しかったです。そのため、色数が極端に少ないものや明るさが不足しているものを排除するなど一定のフィルタリングをした後に、最後は自分の目で選び抜きました。

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どの作品が良いか悪いかを言語化するのは難しいのですが、今回の展示に関してはあまり選びすぎないようにすることは意識しました。まず一度ざっと数千枚くらいまで絞り込み、そこから数百枚まで厳選しました。その後は1枚ずつ丁寧に見てチェックしていきました。

最後の数百枚までは選択のルールを作れると思うんですけど、最後の5枚はその時のコンディションにもよるだろうなと思いますね。疲労時には味覚感度が低下して料理の塩気が強くなるみたいな、自覚していない物差しが入ってくる気がするので言語化するのは難しいですね。

でも、これからは大量に生成してそこから選ぶ作業が求められていくでしょうね。DJをするときも毎回数千曲の中から選んでいるので、実はその経験が活きている気がします。

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AIは人間性を変えるか?

──現在のAIは正確には「知能」ではないと言われていますし、その仕組みはなんとなく理解できるのですが、逆に「人間もそれっぽい言葉を並べて考えているふりをしているだけで、知能を持っていないんじゃないか」と思うことがあります。AIを使うようになって、人間性が変わることはあると思いますか?

真鍋:AIに対して言葉で指示するようになったことで、考え方が変わっていくだろうなという予感はしています。今までわざわざ言語化しないでやっていたことを、一度言語化して客観視してから行なうようになるわけですよね。いかに整理をして、手順を考えて、効率を考えて指示するかが重要になってくる。私はそれが得意ですけど、正直あまり好きではないんです。

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というのも、その余計な言語化処理というワンステップが加わることによって、スピード感のようなものが変わってくるからです。正しい使い方をすると本当に強力だし、総合的には早くアウトプットに辿り着けるのでAIを使いますが、言語化せずにプログラムを必死に書いていた「アスリート感」みたいなものを、もう味わえないのは寂しいですね。

──しかし、その言語化スキルは、今後広く多くの人に求められる技術・能力になりそうですね。

真鍋:これからもっと求められるようになるんじゃないでしょうか。指示出しのテクニックとか、音声入力のための思考整理や話し方とかも重要になりそうですね。

──フリースタイル(即興)が得意なラッパーのような技術が。

真鍋:そうですね。あのような、頭の中で言語を組み立てて、それをその場ですぐに喋る能力が重要になりそうですね。

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──SNSを見ていたら「AIに皿洗いや洗濯を任せて自分は創作に没頭したいのに、実際はAIが創作して自分が皿洗いをしている」という投稿を見かけたことを思い出した。

真鍋:昔から強化学習について「ソフトウェアはずっとゲームをしていて、自分たちはプログラムを書いている」という笑い話がありましたが、今の状況はそれに近いところがありますよね。私はプログラムを書いたり、AIにやらせるような作業自体がすごく好きだったので、それを取られてしまった感はあります。

職人芸が好きだったのに、職人に指示を出す管理職になってしまったような感覚でしょうか。効率を考えれば、私が書くような簡単なプログラムは、AIを使った方がいいですからね。技術の進歩に伴う不可避な変化と受け入れるしかないでしょう。

AIが人間のために本当にできること

──ここまで生成AIの活用やそれによる変化について伺ってきましたが、逆に真鍋さんの中で「生成AIを使わない分野」はありますか?

真鍋:音楽制作ではいまだにちまちまとハードウェアのシンセを触ったりしていますね。

AIのツールもいろいろ試していますが、例えばシアターやインスタレーション作品の楽曲を作る作業ではハードでやった方が早いことがいまだに多いです。著作権の問題が解決されていきヒップホップのサンプリングみたいに新しいスタイルやジャンルが生まれると、あえてAIを使うということも出てきそうですよね。一方で、音源分離やミキシングなどはAIを普通に使ってます。

──今後AIに期待しているものはありますか?

真鍋:僕がやっているプログラムも含め、雑務が効率良くできるようになるということよりも、今まで人間がたどり着けなかった真理みたいなものに迫っていくこと。それがAI本来のおもしろさなんじゃないかと思います。

──人類全体としての到達点がさらに先に進む、みたいな。

真鍋: 今回、僕が話した内容は「AIで便利になった」という話であって、実はあんまり本質的じゃないかもしれないと思います。最近、ヘレン・スターという有名な数学者の方がYouTubeで「AIを使った数学の研究は、数学の発展に役立つ」と言っていて、そういうものこそが本当の意味で人間の能力拡張なんじゃないかと感じました。

単に作業を効率化するだけでなく、人間の知的能力を拡張し、新たな発見や洞察をもたらす可能性を秘めているということですね。AIを使って数学の研究を進めるような例は、まさにAIの本質的な価値を示していると言えるでしょう。

僕たちがAIを使って日常的な作業を効率化することも確かに重要ですが、それ以上に、人類の知識や理解を深めるためのツールとしてAIを活用することが、より大きな意義を持つのかもしれません。これからは、そういった方向性でのAI活用にも注目していく必要がありそうです。

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Photo: 照沼健太

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