「景気がいいとカラオケで新しい曲が歌われなくなる」説を検証

カラオケランキングはDAMのデータを使用。厳密にいうとカラオケ順位は「年」、GDP成長率は「年度」だが、傾向を比較するのには問題ないと判断した。コロナ禍に突入した2020年にはカラオケで極端に新曲が多く歌われたこと、そこからまた徐々に旧曲がランキング上位に盛り返してきたことがわかる


カラオケランキングはDAMのデータを使用。厳密にいうとカラオケ順位は「年」、GDP成長率は「年度」だが、傾向を比較するのには問題ないと判断した。コロナ禍に突入した2020年にはカラオケで極端に新曲が多く歌われたこと、そこからまた徐々に旧曲がランキング上位に盛り返してきたことがわかる
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「カラオケ」について。

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「おっさんたちは古い曲しか知らないな」。若い頃、カラオケに連れて行かれるたびに感じた。

しかしコロナ禍では誰もがオタクになった。やることがないからみんなドラマや音楽、動画を楽しんだ。年長者でも最新のコンテンツにやたら詳しい人が続出した。

そして現在、コロナ禍が収束するなか、在宅の時間が減少している。動画やMVも見なくなった。ふたたび最新コンテンツに疎い層が増えているだろうか。

また、不景気になるほど新しい文化が生まれるとよくいわれる。代表的なのは1970年代後半の英国で起きたパンクムーブメントだろうか。体制への反抗と経済状態への不満がそれまでにないまったく新しい音楽を誕生させた。

そして現代日本でも、YOASOBIやAdo、あるいはCrossfaithなどのポストロックはこれまでの日本音楽の文脈から飛んで世界にアピールするようになった。

そこでカラオケのヒット曲ランキングと経済状況から、これらの仮説を検証・考察してみたい。

まず黒線のグラフ。カラオケの年間トップ10を10年にわたって抽出し、それぞれの楽曲が発表から何年経過しているかを調べた。たとえば2023年のトップ曲が2022年に発表されたものならば「1」。その経過年数の10曲の平均値をグラフ化した。下に行くほど年数が経過していない=新しい曲が相対的に多く歌われた年だ。

グレー線のグラフは、日本の実質GDP成長率(前年度比)を示している。2019年度、2020年度は経済がマイナス成長になった(2020年はコロナ禍に入った年だ)。現在はそこから回復し、道半ばとはいえ成長基調にあるのは誰もが知るところだ。

ちなみに2024年のカラオケランキングは上半期が終わった段階のもので、『怪獣の花唄(Vaundy・2020年)』、『Bling-Bang-Bang-Born(Creepy Nuts・2024年)』と新しい曲もランクインしているものの、『残酷な天使のテーゼ(高橋洋子・1995年)』、『サウダージ(ポルノグラフィティ・2000年)』といった曲も強く、トップ10の平均経過年数は「7.6」と右肩上がりになった。

グラフを見ると、完全に相関しているとまではいわない。しかし、かなり動きが似ており面白い傾向だ。

コロナ禍で人びとがどれくらいカラオケに行ったかは別として、その最中には新しい曲が好まれた。在宅時に先端のコンテンツにふれる機会が多かっただろうし、アーティストも積極的に楽曲を配信していた。不景気、かつ在宅という制約により、むしろ想像力(創造力)が刺激され、人びとに訴求したかもしれない。

ところで私は先日、タイの地下鉄で財布を盗まれた。満員の通勤電車。スマホとパスポートが無事だったのが不幸中の幸いだった。

異国の地でカードを止めて帰国すると「クレジットカードで決済できません」と無数のサービスから連絡がやってきた。加入していたことを忘れていたものも多かった。この機会にコロナ禍で加入したサブスクをかなり解約した。ああ、みんなこうやってコンテンツとの接点が減っていったのか。

せっかく知った奥深いJ‐POPの知識を『Pretender(Official髭男dism・2019年)』あたりで止めておくのはもったいない。それこそ「Pretender」=知ったフリ、と若者から思われないように。

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