EV失速で世界「PHEVバトル」が始まった! 欧米&中国メーカーが続々と新型を投入

今年7月に中国吉林省長春市で開催された自動車ショー。写真のクルマはBYDの売れ筋PHEV。お値段160万円という価格破壊カーだ


今年7月に中国吉林省長春市で開催された自動車ショー。写真のクルマはBYDの売れ筋PHEV。お値段160万円という価格破壊カーだ

中国BYDのPHEV(プラグインハイブリッド)が売れに売れているという。それに呼応するように欧米の自動車メーカーの動きも活発化。ニッポン勢は大丈夫なのか? 販売が鈍化するEVから次のフェーズに移行しつつある脱炭素カーの舞台裏を徹底取材してきた。

【写真】日産「エヴォコンセプト」「エラコンセプト」

■販売急伸! BYDのPHEV

欧米を中心に販売が急失速しているEV。そんな中で注目を集めているのが、中国の二刀流自動車メーカーBYD。実は今年上半期にBYDがマークした新車販売台数は161万台超。衝撃はその内訳で、なんとPHEVが88万1000台(前年同期比39.5%増)を叩き出し、EVの販売台数を上回ったのだ。

裏を返せば世界最大のEV市場を持つ中国に異変が起きているともいえる。しかも、BYDは"自動車強国"を掲げる中国を代表する自動車メーカーで、輸出にも注力している。今年5月には、BYD初となるPHEVのピックアップトラック・シャークをメキシコで発売して世界的ニュースとなった。

ニッポン市場ではEV専売なので、多くのメディアがかたくなにBYDをEVメーカーと喧伝しているが、同社は2008年に世界初の量産型PHEVを開発したパイオニアであり、"絶対王者"だ。そんなBYDがPHEVの販売に本腰を入れ始めたのだ。

PHEVの動きはBYDだけにとどまらない。中国自動車大手のジーリーと仏ルノーが設立した新会社ホースもPHEVに搭載する新型エンジンの生産をスタートさせ、EVシフトを声高に叫んできた独フォルクスワーゲンや独メルセデス・ベンツもPHEVを続々と導入。

米フォード、米ジープ、独BMW、独アウディ、英ベントレー、英ジャガー、英ランドローバー、英マクラーレン、伊ランボルギーニなども新型PHEVを市場に投入している。この活発な動きをどうとらえるべきなのか? EVシフトはどうなったのか? 自動車誌の元幹部は苦笑いしながらこう言う。

「欧米の自動車メーカーは海千山千。これまでは投資などを呼び込めるため、EVシフトを掲げてきましたが、裏では市場の先を読み、シッカリとPHEVの開発を行なっていた。だから今、PHEVが続々と登場しているわけです。

事実、"35年までに完全EV化"を掲げてきた米ゼネラル・モーターズのメアリー・バーラCEOも戦略を修正し、27年までにPHEVを再導入すると表明済みです」

ちなみに9月10日、都内で開催された新型フィアットEVの報道発表会で、欧米自動車大手のステランティスの日本法人社長である打越晋氏もこう語っていた。

「(ステランティスは)PHEVやMHV(マイルドハイブリッド)など多様性のあるラインナップを用意し、選択の喜びを提供する」

フィアットブランドの新型EV発表会見で商品の説明をするステランティスジャパン代表の打越晋社長。今後の展開にも言及した


フィアットブランドの新型EV発表会見で商品の説明をするステランティスジャパン代表の打越晋社長。今後の展開にも言及した

■日産がPHEVを自社開発するワケ

そんな中、ニッポン勢にも動きが出てきた。9月23日の日本経済新聞の1面トップに日産がPHEVを自社開発するという活字が躍ったのだ。

「実は今年4月、日産は中国で開催された『北京モーターショー2024』にセダンタイプのエヴォコンセプトと、SUVタイプのエラコンセプトという2台のPHEVを披露し、26年度までに中国市場に投入すると発表している。

この北京モーターショーの会見で日産の内田誠社長は、『中国の自動車市場やユーザーニーズは大きく変化している。中国で持続的な成長を果たすには、この変化に対応していく必要がある』と訴えました。

要は中国市場の変調を把握した動きですが、当然、世界市場も意識しているはず」(自動車誌の元幹部)

5月4日まで開催された北京モーターショー2024で中国戦略などを語った日産の内田誠社長。後ろに控えしはエヴォコンセプト


5月4日まで開催された北京モーターショー2024で中国戦略などを語った日産の内田誠社長。後ろに控えしはエヴォコンセプト

日産「エヴォコンセプト」 4ドアクーペ風のPHEV。スペックなどは不明だが、先進の運転支援技術と安全性能を備えているという。新感覚のセダンである


日産「エヴォコンセプト」 4ドアクーペ風のPHEV。スペックなどは不明だが、先進の運転支援技術と安全性能を備えているという。新感覚のセダンである

日産「エラコンセプト」 SUVタイプのPHEV。技術の日産が磨き抜いた最新のe‐4ORCEとアクティブエアサスペンションがブチ込まれているという


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一方、4年連続世界新車販売トップに立つトヨタも抜かりはない。すでにプリウス、クラウン(スポーツ)、ハリアー、RAV4、新センチュリーにPHEVを搭載。

しかも、10月1日からプリウスのPHEVにエントリーモデルを投入した。さらにトヨタの高級車ブランドであるレクサスのRXとNXにもPHEVを用意している。EVに関しては市場の縮小もあり世界生産を26年に100万台程度と計画を修正したが、その一方でPHEVは拡充する方針もキッチリ掲げている。

三菱も準備万全で、伝家の宝刀ともいえるアウトランダーPHEVを改良し、ブラッシュアップ! 10月1日に欧州で初披露した。

■PHEVを完全体にする燃料

そもそもの話になるが、PHEVは充電機能のついたハイブリッド車である。日常走行はほぼEVで賄え、遠出はエンジンを活用したハイブリッド走行が可能なのでEVのような電欠の心配はない。

とはいえ、ガソリンを使用するため「PHEVはEVが完全普及するまでの中継ぎカー」「長期的に見れば次世代のクルマはEVが大本命」「ガソリンを使うPHEVはエコじゃない!」などと指摘するメディアやSNSの声も。実際のところはどうなのか? 日系自動車メーカーのエンジニアはこう語る。

「例えば、ガソリンの代わりにカーボンニュートラル燃料を使用すれば環境問題はクリアできます。そうなるとPHEVが脱炭素カーの主役に躍り出ることも考えられます」

トヨタ「プリウスPHEV」 今年7月、インドネシアの自動車ショーに出展されたプリウスPHEV。価格は390万~460万円。日本を代表するPHEVだ


トヨタ「プリウスPHEV」 今年7月、インドネシアの自動車ショーに出展されたプリウスPHEV。価格は390万~460万円。日本を代表するPHEVだ

カーボンニュートラル燃料は将来的な話ではあるが、決して絵空事ではない。実は今年5月、トヨタ、出光興産、ENEOS、三菱重工業がクルマ向けのカーボンニュートラル燃料の導入および、普及の検討を開始したと発表済み。

「すでに4社は30年頃の導入に向けての議論をスタートさせています。ただし、カーボンニュートラル燃料を普及させるにはオールジャパンで取り組む必要がありますし、技術面を含め課題は多い」

カーボンニュートラル燃料は、ザックリ言うと2種類ある。水素とCO2を原料とする合成燃料(eフューエル)と、CO2を吸収した植物などを原料としたバイオ燃料だ。ちなみにマツダがバイオディーゼル燃料の研究に注力しているのは有名な話である。そして普及に向けた大きな動きがあった。

「9月28日にENEOSが神奈川県横浜市に日本初の合成燃料を一貫製造する実証プラントを完成させました。この合成燃料は既存のガソリン車にも使えます。

今後の課題は1L当たり300~700円というコスト面ですが、合成燃料はガソリンと同じ液体なので、現状のガソリンスタンドの設備を活用できるのもポイントです」(日系自動車メーカー関係者)

失速したEVから次のフェーズに移行を始めた脱炭素カー。ニッポン勢は、この過熱する世界PHEVバトルを勝ち抜けるのか? 観測を続けていきたい!

取材・文・撮影/週プレ自動車班 写真/時事通信社 写真提供/日産自動車

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