18年ぶりに上半期軽トップに返り咲き! スズキが進める販売絶好調の「魔改造戦略」

39年ぶりに刷新されたユニフォームを着て、10年先を見据えたという技術戦略説明会に臨んだ、スズキを率いる鈴木俊宏社長


39年ぶりに刷新されたユニフォームを着て、10年先を見据えたという技術戦略説明会に臨んだ、スズキを率いる鈴木俊宏社長

上半期の軽新車販売でトップに躍り出たスズキが、都内で戦略会見を行なった。今後いったい何をしようとしているのか? どんな未来戦略を描いているのか? 売れに売れている理由はどこにあるのか? その秘密に迫るべく、徹底取材してきた。

【写真】NHK『魔改造の夜』を制したマシンはコチラ!

■上半期総合はトヨタに次ぐ2位!

強い!

全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の調べによると、上半期の国内軽新車販売台数で30万5598台(前年同期比14.9%増)を叩き出し、スズキが王者に! 上半期に軽販売トップに立つのは実に18年ぶりの快挙である。

人気を牽引したのは昨年11月にフルチェンし、売れに売れている軽スーパーハイトワゴンの3代目スペーシア。今年5月の新車販売総合ランキングで1万5160台(前年同期比91.9%増)をマークして1位に! スズキが総合トップに輝くのは2014年12月のワゴンR以来、実に9年5ヵ月ぶり!

このスズキの快進撃に対してメディアやSNSは手厳しい。具体的には、《スズキの軽トップは認証不正によって自滅したダイハツの影響が大きい》《自滅したダイハツのおこぼれゲットって感じだろ?》というような意見が大半なのだ。

しかし、ブランド間を顧客が大移動した形跡はどこにも見当たらない。仮にこれらの声が事実だとするなら、「なぜスズキだけがおこぼれゲットできたの?」という疑問が残る。フツーに考えれば、軽部門で9年連続新車販売トップを突っ走る"絶対強車"N-BOXを擁するホンダに、ダイハツの顧客が流入しても不思議ではない。

何しろホンダにはN-BOX以外にも絶品軽がズラリとそろっているからだ。しかし、ホンダの軽は前年割れである。

ちなみに自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協の調べによると、登録車と軽自動車を合計した国内の上半期新車販売台数首位はトヨタ。2位はスズキなのである。言うまでもないが、スズキは実力で上半期トップの座を手に入れたのだ。

昨年11月に6年ぶりのフルモデルチェンジを受けた3代目スペーシア。写真は激売れ中のスペーシアカスタム


昨年11月に6年ぶりのフルモデルチェンジを受けた3代目スペーシア。写真は激売れ中のスペーシアカスタム

■SNSが沸騰した"電マの魔改造"

7月17日、酷暑の中、販売絶好調のスズキが都内で、技術戦略説明会を開催した。登壇した同社の鈴木俊宏社長が真っ先に触れたのは5月30日に放送されたNHK『魔改造の夜』。この番組にスズキは、チーム"Sズキ"として参戦。与えられたお題は悪ふざけにも程がある「電動マッサージ器25mドラッグレース」。

ちなみにスズキは昨年の世界新車販売ランキング9位のグローバル企業である。そんなスズキのトップが開口一番、『魔改造の夜』を制した話に触れたのだ。当然、意図があるのは明白だ。

7月17日、スズキは都内で、今後10年の環境対応に向けた技術戦略説明会を開催。最初に語られたのは魔改造についてだった......


7月17日、スズキは都内で、今後10年の環境対応に向けた技術戦略説明会を開催。最初に語られたのは魔改造についてだった......

説明会が終わると、各分野ごとの展示説明会が行なわれた。特に黒山の人だかりになっていたのが、スズキの次世代ハイブリッドシステム「スーパーエネチャージ」。

注目の的だった次世代ハイブリッド。脱炭素戦略は豚や鳥のフン由来のバイオガスや食品ロスなどのエネルギー転換も視野に


注目の的だった次世代ハイブリッド。脱炭素戦略は豚や鳥のフン由来のバイオガスや食品ロスなどのエネルギー転換も視野に

だが、正直言うと、展示ブースで異様な輝きを放っていたのは、スズキ渾身の魔改造が施された電動マッサージ器たち。しかも、説明員をふたりも用意する熱の入れようだ。それもそのはず。スズキが参戦した回の『魔改造の夜』は放送中からSNSが沸きに沸いたからだ。

ファンらは、《電マってアウトじゃないんかーい》《電マの魔改造ってあざとすぎ》《NHKがやりやがった!》《スズキは大丈夫なのか?》などと大騒ぎ。確かにありとあらゆる場所を癒やし続けてきた家電、電動マッサージ器の魔改造に躊躇はなかったのだろうか?

(上)NHK『魔改造の夜』を制した本番機(1.5号機)。(下)試作機(3号機)。実際に目にすると、試作機(3号機)は超ド迫力


(上)NHK『魔改造の夜』を制した本番機(1.5号機)。(下)試作機(3号機)。実際に目にすると、試作機(3号機)は超ド迫力

このプロジェクトを取り仕切ったスズキのデジタル課推進部ITシステム・人材開発センターの小串俊明氏はこう言う。

「そりゃ、ありましたよ(笑)。NHKさんに聞いたら、『えっ、そんな使い方があるんですか? 知りませんでした。今度時間があったら調べてみますね』とか言われて(苦笑)。まぁ、冗談はともかくとして、出場が決まり参加者を募ったら、スズキの四輪、二輪、マリン部門から100人以上が手を挙げてくれたんです」

だが、簡単に勝利を手にできたわけではない。スズキの四輪構造系CAE/MBD統括部衝突課に籍を置く、鈴木丈大氏はこう振り返る。

「自動車は音と振動をなくすように造る。でも、今回の電動マッサージ器は振動を活用して走るため、魔改造中は部品が壊れて苦労しました」  

だが、生真面目で有名なスズキの社員は全集中で一丸となり、部署の垣根を越えて知恵を絞り、圧倒的な技術力で激アツバトルを制した。これが今のスズキの強さである。

■鬼の100㎏軽量化に挑むスズキ

登壇した鈴木社長が『魔改造の夜』に続いて触れたのは、「小・少・軽・短・美」というモノづくりの考え方だった。ザックリ言うと、小さくて軽くて安いクルマを今後も造り続けるという話である。今回の会見に同行したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏はこう解説する。

「小さくて軽いクルマは燃料消費量や二酸化炭素を含めた排出ガスを少なく抑えられ、なおかつ走りも軽快になる。日本市場におけるスズキの平均車両重量は892㎏で、業界平均の1261㎏に比べて断トツに軽い」

ただでさえ軽いのに、今後の10年を見据え、スズキは100㎏の軽量化に挑む。完全に魔改造である。同社の取締役専務役員で技術統括の加藤勝弘氏はさらりとこう言った。

「1部品1gの精神で小さな積み重ねをやっていけば不可能ではない」

鈴木社長はもっと過激だ。

「うちの役員にもよく言うんですけど、リアワイパーって本当に使っていますかと」

クルマのスイッチの数、樹脂(車内の樹脂トリム)パーツなども見直すよう鈴木社長は技術陣に提案したという。

インド産のSUVがニッポン上陸! 「新型フロンクスは日本の街中で使いやすいサイズ。海外生産でもスズキは昔から日本市場を見据えて造る」(渡辺氏)


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■実は二輪の販売も絶好調のスズキ

上半期のスズキは二輪も絶好調だったと話すのは、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏だ。

「売上高と各利益で過去最高業績です。円安効果や販売台数の増加、価格適正化など理由はさまざまですが、二輪の世界最大級の市場であるインド、そして欧州での販売が伸びています」

そんなスズキは、7月に開催された鈴鹿8時間耐久ロードレースにカーボンニュートラル燃料で挑んだ。

「殺人的酷暑の中、8時間という長丁場のレースで8位に食い込む好結果を出したから驚きます! 二輪事業を担当する田中強本部長は『これくらい走れるということは事前にわかっていたが、ここにたどり着くまでに苦労があった』とコメントしています」

鈴鹿8耐にカーボンニュートラル燃料で挑み8位完走!「鈴木俊宏社長は『レースは実験の場であるべきという原点回帰をしなければいけない』と語っていました」(青木氏)


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実は『魔改造の夜』と同じく、8耐のメンバーはスズキ社内の組織を横断し構成されたチームだった。

「鈴木社長は、『さまざまな部署から集まったメンバーでよくここまでやってくれた』とねぎらいました。データや知見は今後、二輪車だけでなく、四輪車や船外機などにも生かされます」

スズキの二輪人気の秘密について、青木氏は「たくさんあるがひとつ挙げるなら」と前置きした上でこう語る。 

「『KATANAミーティング』には、鈴木社長がカタナに乗ってさっそうと現れるのが恒例です。そして来場者と気さくに話して交流する。鈴木社長はイベントの最後まで会場に残り、手を振りながら『お気をつけて』『ありがとうございました』とスタッフと一緒に来場者を見送る。だから、ファンらからスズキは愛され、人気なのです」

中小企業型経営を掲げるスズキ。トップ自らがファンミーティングイベントでバイクを駆るなど、額に汗して実践している


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取材・文・撮影/週プレ自動車班 撮影/望月浩彦 山本佳吾 夏目健司 写真提供/スズキ二輪

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