【牛丼並盛390円】物価高のなか『丼太郎』がチェーン店よりも安く牛丼を提供できるワケ「アルバイトは雇わずベテラン4人で」

茗荷谷駅から徒歩1分ほどにある『丼太郎』◆撮影/山口比佐夫

 原材料高などで値上げラッシュが続く中、「ワンコイン」で満足できるランチを探すのは至難の業となっている。以前までワンコインランチといえば、ボリューム満点の牛丼はその“代表格”だった。

【写真】牛丼太郎の「牛」の字をガムテープで消して「丼太郎」としている看板。佐藤社長の優しそうな顔が印象的だ

 しかし昨今、『吉野家』『松屋』『すき家』の大手チェーンの牛丼並盛の価格が税込400円台となり500円を突破しようとしている。

 そんな中、都心にありながら常に390円(税込)で牛丼を提供し続ける店がある。東京・文京区にある『丼太郎』だ。たった1店舗ながら、大手チェーンより安く商品を提供し続けられる理由を聞いてみた。【前後編の前編】

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「アルバイトから始めた牛丼作りも、気づけば40年になりました。牛丼一筋40年です」

 そう語るのは、『丼太郎』の佐藤慶一社長(59)。社長といっても従業員は自身含めてたった4人の小さなお店。佐藤社長が大学生の頃に『牛丼太郎』(前店舗名)のオープンにアルバイトとして立ち会って以来、店名を『丼太郎』を変えた今日まで牛丼を作り続けている。

『牛丼太郎』は1983年、吉野家の元副社長によって創業された。一時期は一杯200円という今では考えられない価格で店舗を展開し、コアなファンを獲得した。その後も低価格を守り続けたが、大手チェーンとの競争に敗れ、2013年に倒産してしまった。

「自分にできるのは牛丼作りだけ。倒産した『牛丼太郎』をどうするか迷っていた時に、常連のお客様が『この味を無くさないでほしい』と声をかけてくれたんです」

 その声に応えたいと考えた佐藤さんは、賛同する3人の従業員とともに、『牛丼太郎』の一部店舗を買い取って店名を新たに『丼太郎』として営業を続けることを決意する。店の看板も、倒産前のまま『牛丼太郎』の「牛」の字だけをガムテープで隠し、『丼太郎』として再出発した。

「改名にあたって『元祖・牛丼太郎』とか、新たな要素を付け足す案も考えましたが、それすら手間だと思いました」と佐藤さんは笑う。

 今では「カレー」や「納豆丼」など、牛丼以外のメニューも提供し、味の幅も広がっている。

守り続けてきた“毎日食べられる味”

 一見すると、ただの牛丼──。牛肉と玉ねぎを煮込んだシンプルな一杯だが、ひと口食べればどこか懐かしく優しい味わいが広がる。

「秘訣は毎日食べても飽きない味、それが『丼太郎』の強み。日々来店してくださるリピーターの皆さんが支えです」

『牛丼太郎』時代と仕入れ先は変わったものの、味付けは『牛丼太郎』時代とできるだけ変えないように努力しているという。

 佐藤さん曰く、《俺がいちばん美味しいと思う牛丼の味だから》。40年以上同じ味の牛丼を食べ続けている佐藤さんの言葉には説得力がある。

 しかし本人は「うちの武器は安さでしょ。味がめちゃくちゃ美味しいってわけじゃないし、不安もあります……」と謙遜する。

バイトを雇わず少数精鋭で

 現在、『丼太郎』が提供する牛丼の並盛りの価格は1杯390円。『吉野家』498円(税込、以下同)、『すき家』430円、『松屋』430円と大手チェーン店と比較しても安さが際立つ。大手なら大量仕入れなどスケールメリットが働くが、1店舗のみで運営する『丼太郎』が、この価格を維持できるワケは何なのだろうか。

「コストを削りに削ってやっています。バイトは雇わず、社員の4人でシフトを回し、昼以外はワンオペ。みんなベテランだから、ご飯の量もピタッとわかる、牛肉の量も数グラムも変わらない。だから盛り過ぎでコストがかさむこともないし、品質が高いレベルで安定する。それがリピーターさんをから評価されている理由のひとつだと思います」

 牛肉はその時々の価格に応じて仕入先を変え、現在はアメリカ産やオーストラリア産を使用。米は国産にこだわり、値上げに耐えながらも盛りの量を減らさず提供を続けている。

「『安い』『早い』『うまい』この3つがやはり牛丼の鉄則だと思いますから」

 物価高の波が押し寄せる中でも、『丼太郎』はこの3つが叶う場所であり続ける──。

 後編では『丼太郎』が大切にしている“思い”や店の展望について佐藤社長に語ってもらった。

後編に続く

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