日本版ライドシェア開始にタクシー運転手「なぜ離職したベテランを呼び戻さないのか」

「ライドシェア絶対反対!!」のステッカーを掲示する個人タクシー(イメージ、時事通信フォト)

 2023年度のタクシー業における倒産件数は33件と過去最多を記録した(帝国データバンク調べ)。新型コロナウイルスの感染拡大による需要減を乗り越えたものの、需要が増えると今度はドライバー不足により営業が困難になる、という形での経営破綻が目立っているという。ドライバーが不足しているということは、利用者にとってはタクシーが不足しているということになり、必要なときにタクシーが捕まらないという声が増えている。それらの不足を補うという名目で、ライドシェアが日本でも始まった。ライターの宮添優氏が、ライドシェア開始に伴って既存タクシー運転手たちが抱くタクシー会社と業界への不信についてレポートする。

【写真】「ライドシェア」の出発式

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 2024年4月から東京や京都など4都府県の一部で「ライドシェア」が解禁された。大都市部や観光地などで問題になっている「タクシー不足」の解消が目的とされ、タクシー運転手などに必須だった「二種免許」を持たない一般ドライバーが、自家用車などを用いて有償で旅客運送ができるようになった。配車はタクシー会社が行い、運行時間帯や台数の上限など条件がついているとはいえ、今後は既存のタクシー業とは関わりが無い分野からの参入も検討されている。だが、現役のタクシードライバー、ハイヤードライバーなどからは安易なライドシェア導入には「絶対に反対」という厳しい声が続々と上がっている。

「冗談じゃありません。事故は増えるでしょうし、乗客の安全だって守れなくなる」

 力を込めてこう話すのは、東京都内の大手私鉄系タクシー会社に勤務する真島功さん(仮名・50代)。勤務先の倒産という悲劇を経て、40代半ばでタクシー運転手に転職した真島さんだが、タクシー業界について、以前は「誰でもできる簡単な仕事だ」と考えていた。

「仕事がなくなればタクシー運転手になればいい、などとよく言いますが、私も転職するまではそう思っていました。ですが、いくらナビがあるからといっても地理は絶対に覚えていなければならないし、この数年は各社が、接客技術を向上させ、顧客満足度を高めようとありとあらゆる研修や指導を行っている。乗車前のドライバーのアルコールチェックや健康状態の管理、ある程度の整備知識を持った人間による日々の車両の点検だって必要。想像以上に厳しい業界に、一般の方がポンと入ってきて本当に大丈夫なのか。タクシードライバーでライドシェアに賛成している人は、ただの1人もいないと思います」(真島さん)

 我々のような利用客から見れば、捕まえるのが難しいタクシー代わりの移動手段ができる。しかも競争原理が働けば運賃も安くなるだろうし(筆者註・現行のライドシェア運賃はタクシー運賃と同程度)、ライドシェア解禁は歓迎すべきことのようにも見えるのだが、そうはならないだろうという。

「4月から一部地域で解禁されるとはいえ、最初の参入を認められているのはタクシー会社のみ。タクシー会社を通じて集まった一般ドライバーがライドシェアに参入するわけですから、単純に商売敵が増えるだけ、と感じているドライバーが多いのも事実です」(真島さん)

 確かに、タクシー運転手にとってみれば「商売敵」が増えることに他ならず、反対意見しか出ないことは当然かもしれない。しかし、先述した地理の知識や安全運行に関する問題とは別の懸念もある。「ライドシェア」について取材を続けている民放キー局の経済部記者が疑問を呈す。

「すでに一部で言われていますが、ライドシェアの解禁が、違法な”白タク”をわかりにくくしてしまったり、逆に白タクに”お墨付
き”を与えるようなことにならないか、不安は残ります。折しも、日本にやってきた中国人観光客が、日本国内にいる同胞の違法な白
タク業者を利用し摘発される事案も増えている真っ只中です。タクシー運転手の数も、コロナ禍を経てかつての8割ほどしかいな
いと言われている中、方法は他にもあるのではないか、そんな声も一部から聞こえてきます」(民放経済部記者)

人員整理で去ったベテランドライバーはどこへ

 タクシー不足、タクシードライバー不足を補うためには致し方ない、というのが解禁推進派の意見だ。だが、それなら素直にタクシードライバーを増やそうとすればよいではないか、という指摘は方々で聞く。

「コロナ禍に多くのタクシー会社で首切りが断行され、より高い給与を支払わなければならないベテランたちが会社を去りました。ところが、最近になり客足が戻ってドライバーが足りないと言われているのに、ベテランが呼び戻されるパターンはあまり聞かない。結局、ベテランの代わりに安い賃金で働いてくれる若いドライバーを入社祝い金まで出して採用し、タクシー事業者が支払う人件費は減っている。人不足の原因は、他ならぬ賃金不足という側面もあるのに、その解決策として、さらに安く、質の劣る移動手段参入させようと言う国の姿勢には、違和感しか覚えません」(民放経済部記者)

 ここで思い出されるのは、東京都など大都市の一部ではよく見られるようになった電動キックボードの運用だ。警察などお上の了承を得た上で一部地域、一部事業者によって試験的に始められ、免許やヘルメット不要で利用できることから注目を集めた。もとより、危険性が指摘されていたこの制度だが、街を歩けば、制度の運用外になる違法な電動キックボードユーザーが目立つばかりでなく、しっかり当局の承認を経て運用されているレンタル事業者の車両による違法走行、人身事故も相次いでいる。複数のキックボード事業者が「違反者には厳しく対処する」とはいうものの、違反者は減らず、テレビニュース等で連日取り上げられるような現状だ。

 やはり、付け焼き刃、その場しのぎ感がどうしても拭えない「ライドシェア解禁」だが、果たして市民が安心して気軽に利用できる移動手段になるのかは、現時点ではまだ誰にもわからない、といったところか。

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