「ご当地グルメ」最高! 地元の味で地域を再生する「ガストロノミーツーリズム」をご存じか
日本のポテンシャル
「ガストロノミーツーリズム」という言葉を聞いたことがあるだろうか。観光庁のウェブサイトには、「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズムのこと」とある。
旅とご当地の食はもともと密接に結びついているが、食を中心に、そのバックグラウンドにより注意を払うイメージだろうか。
その土地ならではの食を求める人が増えれば、食材の需要、加工の需要が増える。すると雇用需要が増えるし、交通需要も増えて、地域の経済が活性化される。観光名所がない土地であっても、人を呼び込む強力なコンテンツを創出する可能性を秘めている。
国連世界観光機関(UNWTO)がガストロノミーツーリズムを推進していることもあり、特にインバウンドのなかで語られることが多い。もともと食の分野に定評のある日本は、ポテンシャルにあふれているのではないか。
2024年9月の訪日外客数は287万2200人だった。9月時点ですでに2023年の年間累計を上回っている(2024年10月16日付、「日本政府観光局(JNTO)」)。
コロナ禍前の2019年の1月~9月と比べ、2024年の1月~9月は10.1%伸びていることからも、インバウンドの重要性は増す一方である。
ちなみにインバウンドのなかで、食や地方への移動にお金をかけていると考えられる国民は、
・飲食費トップ:イタリア人(9万1949円)
・交通費トップ:スペイン人(7万2521円)
である(2024年7月19日付、観光庁「2024年4-6月期一般客1人当たり費目別旅行支出(観光・レジャー目的)、一次速報」)。
世界一の美食の街、サン・セバスチャン
スペインといえば、北部バスク地方のサン・セバスチャンが、ガストロノミーツーリズムの世界でもっとも知られている。人口18万人ほどのこの街は、20kmほど東に行けばフランスとの国境という位置にある。
日本人にとっては、マドリードやバルセロナといった人気の都市からは離れた土地であり、アクセスしづらい印象だが、筆者(鳴海汐、国際比較ライター)が2019年に訪れた際、アジア人の観光客は少なかったが、その多くが
「日本人」
だった。ラ・コンチャ海岸があり、美しい街並みもあるが、もともと美食倶楽部で料理を研究するサークルが多い土地において、シェフが料理のレシピを共有して切磋琢磨(せっさたくま)したことから、ミシュランの星付きレストランが密集していることが一番のウリだ。当然、美食目的の日本人が多く、ツアーでやってきたグループにもいくつか遭遇した。
タパス(軽食)巡りも人気のコンテンツで、それらを扱うバルには日本語メニューがあり、簡単な日本語を話す店員もいて驚いたものだ。
ガスパチョ風味のソースがかかったエビの串焼き、各種ソースがかかったホタルイカ、うにのクリームスープ、などなど、それぞれの店に名物メニューがあり、何軒も巡る。
微発泡性の白ワイン「チャコリ」は、口当たりをなめらかにするために高いところから注がれるので、それを見るのも楽しみのひとつだ。
バスクでは、軽食についている紙や串を床に落とす習慣があり、床に紙や串がたくさん落ちているバルが「いいバル」とされている。そういった文化も独特で、他では味わえない体験になる。
成功例とポテンシャル例
NHKでは、ガストロノミーツーリズムの成功例として、人口6000人ほどの小さな町である千葉県・神崎町の例を紹介している(2024年2月16日、NHK首都圏ナビ)。
ヒットしているのは「麹」。神崎町は、江戸時代から、発酵食品の生産が盛んで、
「関東の灘」
といわれていたほどの土地だ。
10年ほど前に「酒蔵まつり」を開催したところ、1日2万人を超える観光客が訪れた。いま酒蔵による発酵文化の体験ツアーには、国内外から参加者が集まる。道の駅で行われる料理などの体験講座は、毎回満員なのだという。
地元の飲食店では、地元特産のピーナツみそといった、ありそうでなさそうな調味料を使ったメニューが人気を集めている。
ガストロノミーツーリズムは、東京から遠く離れた土地に人を呼ぶイメージが強いかもしれないが、このように、首都圏でもインバウンドが素通りしてしまうような土地にも使える。
少子高齢化が進む神奈川県三浦市は、三崎のマグロや三浦大根で知られるが、半島にあるのでアクセスするには少々遠い印象がある。
三浦市では、海の幸などを使いつつ、相模湾越しに見える富士山もウリにして、世界から観光客が集まるスーパーリゾートへ再生しようと計画している。富裕層をターゲットにして、高単価を狙う作戦だ。
ポテンシャル例
同じく神奈川県の小田原市について考えてみたい。小田原城や忍者といったコンテンツはあるが、箱根や伊豆へ向かうために素通りされてしまいがちな土地である。漁港があり、小田原かまぼこが名物で、近年は小田原おでんに力を入れている。カニカマはヨーロッパでも人気であるし、バスクでも魚のすりみが売られているのを見た。練り製品はもっと外国人にアピールできるはずだ。
人気スポットの「鈴廣かまぼこ博物館」では、かまぼことちくわ両方を手づくり体験することができるのだが、現在、ガイドツアーについてもすべて日本語のみとなっている。ガストロノミーツーリズムは、
「英語等の受け入れ体制」
が求められる。内陸に向かうと伊勢原市がある。丹沢・大山では、シカやイノシシの肉をジビエ料理として提供している。同市においては、シカやイノシシに田畑が荒らされ、その被害額は1000万円ほどに上るという。
例えばイノシシは、イタリア・フィレンツェの名物である。臭みを酢や白ワイン、香味野菜やハーブ、スパイスで3日間マリネし、チョコレート煮にするメニューを現地の料理教室で習ったことがある。
現地の人から見たら、食べたことのあるイノシシ肉が、違う方法で臭みを抜かれている、ぼたん鍋など違った料理法や味付けにされている。そんなことを味わうのも、立派なガストロノミーツーリズムだろう。
インバウンドがやってきて、イノシシ肉の消費が増えれば、田畑の被害が減り、交通やその他地元にもお金が落ちることになり、最高ではないか。
11/27 14:11
Merkmal