京都は「もはや海外」! インバウンド&修学旅行生で“押しくらまんじゅう”状態の現実、混雑回避で観光客敬遠の動きも

修学旅行生と訪日客で清水坂が大混雑

清水寺観光を終え、五条坂を下る観光バス(画像:高田泰)

清水寺観光を終え、五条坂を下る観光バス(画像:高田泰)

 京都市を2023年に訪れた修学旅行生がコロナ禍前の2019年を上回った。だが、有名観光地は訪日外国人観光客の増加で混雑が深刻さを増し、困惑する修学旅行生の姿も見られる。

 バス55台、普通車59台が収容可能な広い駐車場を観光バスが埋め尽くす。地元の京都ナンバーだけでなく、大阪府や奈良県など近隣ナンバーも。修学旅行シーズンの11月上旬に訪れた京都市東山区の市営清水坂観光駐車場。朝からひっきりなしに観光バスがやってきて、世界遺産の清水寺を目指す観光客を降ろしていた。

 なかでも目立つのが

「修学旅行生の貸し切りバス」

である。秋田県立由利高校、北海道室蘭東翔高校など全国の学校名がバスに掲示されている。修学旅行生たちは駐車場内で整列し、清水寺へ通じる清水坂へ向かうが、清水坂は訪日客の殺到で大混雑が続く。坂道を上る修学旅行生たちはまるで“押しくらまんじゅう”のような状態だ。

「今年の混雑はすごい。周囲は外国人ばかりで海外へ来た感じ」

神奈川県から来た高校の引率教員は目を丸くする。近くの産寧坂でははぐれそうになった高知県の中学生3人が訪日客の大群をかき分けるようにして大慌てで坂道を下っていた。

 同じ東山区の祇園では、多くの修学旅行生が班別学習で朝早くから建仁寺(けんにんじ)や八坂神社を回っている。昼どきになると歩道をあふれるほどの訪日客が殺到するためで、東京都の中学生は

「いろんなところをゆっくり見ることができた」

と笑顔を見せた。

修学旅行生と外国人激増

朝早くから祇園で班別行動をする修学旅行生(画像:高田泰)

朝早くから祇園で班別行動をする修学旅行生(画像:高田泰)

 京都市によると、2023年に京都市を訪れた観光客数は5028万人。コロナ禍前に当たる2019年の5352万人に近い数字まで戻っている。

 増加が目立つのは外国人宿泊客。536万人に達し、2019年の380万人を大きく上回って過去最高を記録した(41%増)。

 修学旅行生は81万人で、2019年の70万人を11万人上回った(16%増)。2018年以前は調査手法が異なるため、単純比較できないが、最も多かった2017年の113万人に向けて急回復しているように見える。

 京都市では秋が観光客の最も多い季節。訪日客が有名観光地に集まるなか、秋の修学旅行もこの時期に集中することから、混雑に拍車がかかっている。

「有名観光地は予定の見学ができない」

修学旅行の観光バスが並ぶ清水坂観光駐車場(画像:高田泰)

修学旅行の観光バスが並ぶ清水坂観光駐車場(画像:高田泰)

 日本修学旅行協会によると、2023年度の修学旅行先全国調査で京都府は

・中学校:トップ
・高校:3位

に入っている。コロナ禍の一段落で再び注目が高まっているわけだが、児童や生徒を送り出す学校側の苦労は絶えない。頭を痛める原因のひとつが

「バスやタクシーの運転士不足」

だ。移動に利用する観光バスを京都府で手配できずに滋賀県や和歌山県など近県で確保するケースが珍しくない。旅行代理店大手の近畿日本ツーリストが今春、東京都の中学校の修学旅行で新大阪駅から奈良県へ向かうバスを手配できなかったが、同様の事例が京都でいつ起きても不思議でない。

 班別で行動する体験学習では、貸し切りタクシーを利用することが多い。しかし、希望する台数を確保できず、多くの引率教員が電車や路線バスで別行動している。東京都の中学校引率教員は

「バスが満車続きでなかなか乗れず、集合時間に間に合わなかったことがある」

と頭をかいた。

 物価上昇も頭が痛い。全国修学旅行研究協会の2023年度修学旅行実施状況調査によると、関東の茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉5県の国公立中学校が近畿地方へ2泊3日で向かう費用は2023年度、

「平均約6万9000円」

だが、前年度まで引き受けてくれた旅行会社に採算が合わないなどとして断られるケースがあるという。

 京都から修学旅行先を他へ移す学校もある。北海道網走市の網走南ケ丘高校は2026年度から旅行先を台湾に切り替える。同校は

「狙いは国際交流の推進。京都の混雑が理由ではないが、混雑ぶりは承知している」

と説明した。全国修学旅行研究協会の調査に対し、関東地方の中学校教員から

「有名観光地は訪日客が多すぎて予定の見学ができない。旅行先を切り替えるかどうか迷っている」

という声が多数寄せられている。

修学旅行に変化の兆し

京都の修学旅行のイメージ(画像:写真AC)

京都の修学旅行のイメージ(画像:写真AC)

 そんななか、修学旅行に変化の兆しがうかがえる。改訂された学習指導要領で探究的な学びが重視されたためだ。有名観光地を見学するだけでなく、班別で課題を決めた探究学習や農業や伝統文化の体験、民泊や農泊をスケジュールに組み込む修学旅行が増えている。

 新潟県が県外からの修学旅行、愛媛県今治市が市内での宿泊や観光施設利用に助成金を出すなど、全国の地方自治体が修学旅行誘致に力を入れ始めたことも追い風になっている。京都市も2023年度から閑散期に宿泊する修学旅行生に舞妓(まいこ)の

・舞踏観覧
・交流体験プログラム

の無料提供を始めた。

 民泊や農泊は地方の人口減少や高齢化で受け入れ世帯が減少するなど課題もあるが、日本修学旅行協会の高野満博事務局長は

「人手不足や物価上昇、オーバーツーリズムなどさまざまな要素が絡み合い、修学旅行が多様化に向けた変化の時期に入ったのではないか」

と見ている。京都市でも混雑が深刻なのは、東山区の清水寺、祇園、伏見区の伏見稲荷大社、右京区と西京区にまたがる嵐山、中京区と下京区にまたがる四条河原町など。それ以外だとある程度、ゆっくり観光でき、有名観光地でも朝早くなら人出が少ない。体験学習できる場所も西陣織や茶道、尼僧修行など盛りだくさんだ。

 京都市観光MICE推進室は、

「観光地や公共交通の混雑は市民の暮らしにも影響を与えている。旅行の時期や時間、場所を変えて混雑を避けるよう修学旅行に限らず、観光客全般に協力をお願いしたい」

と呼び掛けている。修学旅行が変化の時代を迎えるなか、どうやって

・混雑緩和
・京都ならではの修学旅行体験

を両立させるのか、定番の修学旅行先という立場に安閑としていられない難題が京都市に突きつけられている。

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