「電車アイコン」の人は過激派?穏健派? 批判意見ばかりのSNS、結局愛情と誹謗中傷は表裏一体なのか

SNSでの誹謗中傷は増加傾向

電車(画像:写真AC)

電車(画像:写真AC)

 インターネットが一般化するにともない、SNSなどでの誹謗(ひぼう)中傷による被害が社会問題として深刻化している。

 実際、SNS利用者の約65%が他者に対する攻撃的な投稿を目撃しており、特に

・X(旧ツイッター)
・ユーチューブ
・ヤフーコメント

では誹謗中傷を目にしやすい状況が広がっている(三菱総研)。

 総務省が運営委託する違法・有害情報相談センターの相談件数も増加傾向にあり、実際に被害を受けたと感じた人は過去1年間にSNSを利用した人の

「8%」

にまで上る(総務省白書)。SNSの誹謗中傷は自死などの大きな影響をもたらすとケースもある。自分の一言が大きな影響を及ぼす可能性があると想像しやすいにもかかわらず、なぜ誹謗中傷が依然として見られるのだろうか。

誹謗中傷を投稿する理由はいくつもある

 誹謗中傷が発生する背景にはいくつもの理由が考えられる。

 まず、SNSサービス上の特徴である「匿名性の高さ」が挙げられる。SNSやインターネット上では、本名や顔を隠せるため、投稿主の責任感が希薄になり、軽い気持ちで攻撃的なコメントを投稿してしまうことがある。

 他にも、社会・集団的要因として、自分以外の人々による批判的な投稿を見ることで、

「大勢の人が批判的な意見を投稿しているから、自分も投稿して問題ないだろう」

と思うことが考えられる。それに加え、批判する人たちが集団化することにより、自分自身が持っていた意見よりも集団の極端な意見に偏るという心理的な要因なども考えられる。

「正当な批判」と思って投稿している

インターネット上の誹謗中傷イメージ(画像:写真AC)

インターネット上の誹謗中傷イメージ(画像:写真AC)

 誹謗中傷を行う本人は、どのような考えを持ってコメント・投稿をしているのだろうか。

 弁護士ドットコムの調査によると、誹謗中傷を行った動機について

「正当な批判・論評だと思った」

が最も多く(51.1%)、

・イライラする感情の発散(34.1%)
・誹謗中傷の相手方に対する嫌がらせ(22.7%)
・虚偽または真偽不明の情報を真実だと思いこみ投稿した(9.1%)

との結果が出た。このことから、そもそも自身の投稿が誹謗中傷だと思わないまま、「正義感」などから投稿してしまう人が多くいることが明らかとなった。

 自分が誹謗中傷ではなく正当な批判を行っていると思い込んでしまうのはなぜなのだろうか。これには

「投影同一視(とうえいどういつし)」

という心理学的な背景がありそうだ。

批判・論評するのは「自分を守るため」

 投影同一視とは、自分の感情や欲望、特性、不安などを他人や外部に投影し、それを自分の一部として認識する心理学や精神分析の概念だ。

 自分の内面を他人に映し出し、その反映されたものをあたかも他人が持っている特性だと思い込む過程のことだ。簡単にいうと、自身が受け止めきれない自身の

・嫌な部分
・認めたくない感情

を、他者に投影することで嫌な自分と向き合うことを回避する、「自分を守るため」の心理を指す。例えば、AがBを一方的に嫌っていたとしても、なぜか

「Bも私(A)のことが嫌い」

とAが思うようになり、さらにBに対して攻撃的な行動をとることなどである。他の例を挙げると、Aは自分の行動が適切でなかったためBに責められるのではと感じた際、

「Bは私を責めている」

と思い、

「B自身にも反省すべき点があるのではないか」

などと考えて、BがAを責めないようコントロールするような言動をとることがあるが、これも投影同一視の影響と考えられる。

支えようとする思いが誹謗中傷につながる

投影同一視を提唱した精神分析医メラニー・クライン(画像:Douglas Glass)

投影同一視を提唱した精神分析医メラニー・クライン(画像:Douglas Glass)

 この投影同一視から過度な批判に至るメカニズムはどのようなものか。

 例えば、Aがある有名人Bをわが子のように支えたい愛情にも似た思いが根底にあり、「有名人Bは私が支えなければならない」と考えるようになっているとする。するとAはBの成功のために、厳しい批判や助言を行い、Bをコントロールしようとするとなるのだ。

 この場合、Aは自分の投稿が誹謗中傷だと思っておらず、「正義感」や相手を操りたい気持ちなどから過度な批判を投稿したと考えられる。

 他にも、AはBに対して憧れると同時にねたましい気持ちがあったとする。Aは不安や不快感を低減させるため、Bに

「否定されているような気分になる人もいることがわからないのか、この投稿はあまりにも不適切だ」

など攻撃的な批判と同時に、自身の発言を正当化して不安感を減少させようとするのだ。

 この場合、AはBを利用して自分の不安や悪感情を排除したと考えられる。このように、相手をコントロールして不快な感情体験から自分を防衛する投影同一視の働きにより、過度な批判・論評をしてしまうことがある。

投稿内容や公開設定を見直して過度な批判を防ぐ

 誹謗中傷や過度な批判を未然に防ぐために、まずは投稿する際、他者を不快にさせる内容は避けるなどの基本的な対策が求められる。特に、

・スポーツ
・政治
・宗教
・スキャンダル
・特定の趣味

などへの言及は十分な慎重さが必要だ。これらのテーマは、感情的な反応を引き起こすことが多く、強い批判や誹謗中傷につながる可能性が高い。

 ちなみに、

・電車のアイコンをSNSで使っている人
・電車に関する投稿

は、

「攻撃性が低い」

という研究があり、興味深い(田中智大、清雄一、田原康之、大須賀昭彦『Twitterにおけるアイコン画像と攻撃ツイートの関連性』電気通信大学情報理工学域)。

 さらに、批判する人が集団となり過激化することを防ぐため、投稿にコメントできる者を制限したり、不適切なコメントを通報して非表示にしたりすることも効果的である。

 コメントや投稿記事の非表示・削除要請が受理された場合、本人がよろしくないコメントであったと自覚できる材料になるだろう。このようなアプローチによって、自己防衛だけでなくユーザーに対する情報モラルやリテラシー向上のための啓発活動にもつながる。

誹謗中傷されても冷静に対処

システムの出力と実際の攻撃性の比較。論文『Twitterにおけるアイコン画像と攻撃ツイートの関連性』電気通信大学情報理工学域より。(画像:電気通信大学)

システムの出力と実際の攻撃性の比較。論文『Twitterにおけるアイコン画像と攻撃ツイートの関連性』電気通信大学情報理工学域より。(画像:電気通信大学)

 逆に、誹謗中傷を受けた場合、まずは冷静に誹謗中傷の要因を探る必要がある。

 その要因が自分自身にある場合は、速やかに謝罪する、または記事を削除するなどの対応をとるべきである。

 しかし要因が自分自身にない場合、反論すると余計に誹謗中傷の的となる可能性があるため、感情的にならず無視をすることも有効な手段となる。

 個人で対応できることには限界があるため、迷わず証拠の確保(URLの記録、画面の保存)や専門家に相談することが自分自身を守る鍵となる。

 どの専門家に相談すればよいか迷った際には、総務省ホームページの「インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口のご案内」が参考になる。

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