日産9000人削減の衝撃! ゴーン前会長が残した3つの“負の遺産”とは何か? 「ルノー支配」「販売偏重」のツケが招いた辛らつ現実を再考する

日産業績90%減の背景

カスタムカーの展示会「東京オートサロン」に出店した日産自動車のロゴマーク。千葉市美浜区の幕張メッセ。2022年1月14日撮影(画像:時事)

カスタムカーの展示会「東京オートサロン」に出店した日産自動車のロゴマーク。千葉市美浜区の幕張メッセ。2022年1月14日撮影(画像:時事)

 日産自動車の9月中間決算は悲惨な内容だ。営業利益は前期比90.2%減の329億円、純利益は同93.5%減の192億円だった。一時的な業績悪化ではなく、構造的な競争力低下が原因である。

 同社は大規模リストラに着手する方針を打ち出した。グローバル人員数を9000人削減、グローバル生産能力を20%削減して、年間350万台の生産でも耐えられる規模とする。これから次世代自動車や自動運転の開発競争に多大なコストがかかる中、厳しい時期を迎える。

 日産自動車の業績悪化の根源に、かつて最高経営責任者(CEO)として君臨したカルロス・ゴーン氏の残した

「負の遺産」

がある。私(窪田真之、ストラテジスト)は、30年以上前から、日産自動車の決算説明会に出席し、企業価値について分析してきた。ゴーン氏がCEOとなった1999(平成11)年以降は、経営説明会でゴーン氏のプレゼンテーションを何回も聞いた。

 あくまでも私の個人的見解だが、ゴーン氏が、日産自動車の株主価値を高めるのに大きな功績があったのは、

「1999年から2005年まで」

だった。2005年にルノーの会長を兼務するようになってからは、少しずつ日産ではなくルノーとフランス政府の方を向いて仕事をするようになっていった。そんなゴーン氏に

「経営の全権を与えてしまった」

のが大きな問題であった。

ゴーン氏が残した三つの「負の遺産」

日産の元会長カルロス・ゴーン氏の記者会見の様子(画像:AFP=時事)

日産の元会長カルロス・ゴーン氏の記者会見の様子(画像:AFP=時事)

 ゴーン氏が残した「負の遺産」は、次の三つだ。

・欧州重視、米国・中国の環境変化への対応が後手に
・ハイブリッド車(HEV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)のラインアップを持たない
・販売重視、販売奨励金をつぎこんでブランド毀損(きそん)

これらについて詳しく解説していく。

●欧州重視、米国・中国の環境変化への対応が後手に
 日本の自動車メーカーはかつて、日本・米国・欧州での事業展開を重視していた。ところが、それはもう20年以上前の話だ。今は欧州を縮小して、日本・米国・アジア(中国など)を重視する時代となっている。欧州市場は成長性が低い上、ドイツの自動車メーカーが強く、日本の自動車メーカーは苦戦を強いられてきた。ホンダは英国が欧州連合(EU)から脱退したことを契機に、2021年に英国工場を閉鎖し、欧州での生産から撤退した。

 ところが、日産は2021年まで、仏ルノーに43.3%の議決権を握られていた上に、2017年までゴーン氏がルノーと日産のCEOを務めていたため、欧州事業を重視せざるを得なかった。欧州事業は、今般発表した中間決算でも232億円の営業赤字で、業績の足を引っ張っている。

 日産は、経営危機に陥っていた1999年にルノーから約8000億円の出資を受け、経営危機を脱した。そのとき、CEOに就任したゴーン氏のもとで1兆円を超えるコストカットを行って財務を立て直した。

 その頃のゴーン氏の発言で、私がよく覚えているのは、

「人件費の高い国には投資しない」

である。日本ではなく、メキシコなど新興国に積極投資していく戦略を説明するときに出ていた言葉だ。それは、日産が生き残るために必要なことだった。

 ところが、ルノーのCEOを兼務するようになってから、人件費が高いフランスに生産を移していく戦略をとった。それは、当初聞いていた話から考えると、整合性がない。ルノーにはフランス政府が15%出資しており、

「フランス政府の意向」

がゴーン氏の経営に影響したと考えられる。

ゴーン氏が残した三つの「負の遺産」

e-POWERを搭載した日産「ノート e-POWER」(画像:日産自動車)

e-POWERを搭載した日産「ノート e-POWER」(画像:日産自動車)

 以下は、ふたつ目の「負の遺産」だ。

●HEV・PHEVのラインアップを持たない
 2024年9月中間決算で、日産自動車の北米台数は前年同期比2.2%減の29.9万台で、北米事業の営業利益は同54.6%減の168億円に沈んだ。米国で売れ筋の車種がなく、販売苦戦によって販売奨励金(自動車メーカーがディーラーや販売店に車両の販売促進を目的として支給する金銭的なインセンティブ)が膨らんだことが原因だ。

 米国では、2022年からEV(BEV:電気自動車)が不人気で、HEV・PHEV人気が高まっている。日産はそのラインアップを持たないことが苦戦の原因となっている。

 トヨタ・ホンダは、HEV・PHEVを重視しつつ、EV(BEV)の開発も進める戦略だった。ところが、日産は、カルロス・ゴーン氏の経営時に、HEVを捨てて

「EV開発一辺倒」

になった。その影響から、HEV・PHEVで出遅れていることが致命的である。

 現在は、E-POWERという独自のハイブリッドシステム(エンジンを発電専用で使いモーターのみで車を動かす)で勝負しているが、HEVに比べて評価は低い。

 日産自動車はHEVを捨ててEVに注力してきたものの、EV大国の中国で競争力がない。中国は、国家戦略によって、

「新エネルギー車(EVとPHEVと燃料電池車)」

の拡大を急速に進めてきた。その効果で、2023年には新エネ車の販売比率が38%まで急伸した。EV最大手のBYDだけでなく、多くの地場メーカーが次々と低価格EVを出して、販売を伸ばした。

 中国製EVは、米国から締め出されつつあるものの、東南アジアなどへの輸出を大きく伸ばしている。日本車シェアが高い東南アジアで、中国製EVがじわじわ浸透している。

 日産自働車は、EVの低価格化で中国メーカーに遅れ、高機能化で米国テスラの後塵(こうじん)を拝している。ルノーに経営権を支配されてきたため、EV戦略でも差別化戦略を打ち出せていない。

ゴーン氏が残した三つの「負の遺産」

日産自働車のウェブサイト(画像:日産自働車)

日産自働車のウェブサイト(画像:日産自働車)

 三つ目の「負の遺産」だ。

●販売重視、販売奨励金をつぎこんでブランド毀損
 ゴーン氏がCEOであった間、日産自働車は、「販売台数拡大」が最重点目標となり、製品開発が滞った時期があった。販売至上主義の結果、販売奨励金が拡大してブランド価値を毀損(きそん)することもあった。

 ゴーン氏が退任してから、日産自働車は、この体質を改めることにしっかり取り組んだきた。ブランド価値を毀損するような販売奨励金の出し方はしなくなり、遅れていた製品の開発ラインアップも充実させてきている。

 ところが、この中間決算の不振を見ると、販売が悪化すると販売奨励金が拡大して業績を痛める構造は変わっていない。

 これまでの製品開発の遅れを取り戻すのは容易ではなく、結果的に販売を重視せざると得なくなる。ゴーン氏が残した

「販売重視の弊害」

が、今も続いていると考えられる。

ゴーン氏の負の遺産整理がようやく動き出した

日産自動車のロゴマーク(画像:EPA=時事)

日産自動車のロゴマーク(画像:EPA=時事)

 ゴーン氏は2018年11月に金融商品取引法違反容疑で逮捕され、これを受けて2019年4月には日産自働車の取締役を解任された。

 その後も日産自働車がルノーに43.3%の議決権を握られている状況は続いたが、それも2023年11月に解消された。ルノーの日産自動車に対する出資比率は15%まで落とされ、日産自働車がルノーに対して保有する議決権と同じ比率とした。これで両社の資本関係は対等となった。

 これで、やっと日産自動車は、ゴーン氏の負の遺産解消を本格化できるようになった。2024年8月に、日産はホンダと戦略的パートナーシップ検討の覚書を締結した。三菱自動車も加えた3社での提携となるが、ここにホンダが入った意義は大きい。

 日産は、もっと早くから、ホンダとの連携を目指すべきだった。次世代自動車の開発を、技術力に優位性がないルノーと共同で取り組んでも、目立った成果は得られない。ホンダとの連携を目指すべきであったが、ルノーに支配されている内は、それができなかった。

 ここから日産自動車の再生に向けての挽回が始まることを期待したいが、ルノーに支配されていた間に遅れた、次世代自動車の開発で巻き返すのは容易ではない。

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