「ハチ公バス」の愛らしさに迫る! 4つのルートで知る渋谷の魅力と地域密着の理由とは

2003年に運行開始

ハチ公バス(画像:下関マグロ)

ハチ公バス(画像:下関マグロ)

 筆者(下関マグロ、フリーライター)は自治体が運営するコミュニティーバスが大好きだ。路線バスのように大型車両ではなく、小型で住宅街の細い道を走る姿がなんとも愛らしい。

 数あるなかでも特にお気に入りなのが、渋谷区の

「ハチ公バス」

だ。その歴史はかなり古く、2003(平成15)年から運行されている。

 筆者が散歩関連の原稿を書くためにあちこち歩き始めた2005年ごろには、すでに走っていて、渋谷区を散歩しているときに初めて乗った。暑い日だったので、クーラーの効いた車内がありがたかった。

 ちょうど渋谷駅まで歩こうとしていたので、涼みながら移動できて助かった。運賃も都バスなどと比べて100円と安く、それもうれしかった。

地域に愛されるハチ公バス

ハチ公バス(画像:下関マグロ)

ハチ公バス(画像:下関マグロ)

 ということで今回、この原稿を書くために久しぶりにハチ公バスに乗ってみた。結論からいうと、外国人観光客も利用していたが、やはり地元の人たちの利用が圧倒的に多かった。

 バスはワンドアの小型ノンステップバスで、小ぶりでかわいらしいデザインだ。ほとんどのコミュニティーバスはツードアで、降りる人と乗る人のドアが別々なのだが、ハチ公バスは降りる人も乗る人も同じドアを使う。地元の人たちは慣れているようで、筆者が乗ったときは降りる人と乗る人がぶつかりそうになることはなかった。

 ハチ公バスというネーミングもすてきだ。これはもちろん、渋谷駅前で銅像になっている忠犬ハチ公にちなんで名付けられた名前である。毎日、飼い主の男性が仕事を終えて帰ってくるのを渋谷駅で迎えていたハチ。飼い主が亡くなった後も毎日駅に現れたことで有名になり、「忠犬ハチ公」として今も人々に親しまれている。ちなみにハチ公バスという名前は公募によって決まった愛称で、正式名称は

「渋谷区コミュニティバス」

という。また、特筆すべきはこのバスにはテーマソングがあることだ。タイトルは

「ハチ公バスのうた」(作詞・作曲:松浦美佳)

で、歌っているのは原宿少年少女合唱団だ。今回も車内で聞くことができた。

「ハチ公バスだ ワンワンワン!」

というフレーズが印象的で耳に残る。つい声に出して歌いたくなるが、いい大人(1958年生まれ)なので大きな声では歌わず、周囲に聞こえないくらいの小声で歌った。ああ、いい感じだ。「ハチ公バスに乗っている」という実感がこみ上げてきたぞ。

ルート名もすてき

「恵比寿駅入口」のバス停(画像:下関マグロ)

「恵比寿駅入口」のバス停(画像:下関マグロ)

 ハチ公バスには四つのルートがある。その名前もとても魅力的だ。

 今回はまず「夕やけこやけルート」に乗ってみた。名前の由来はなんとなく想像できたが、インターネットで調べてみると、童謡「夕焼小焼」の作曲者・草川信(1893~1948年)が音楽教師をしていた小学校の近くを通るため、この愛称になったという。

 JR恵比寿駅を降りて、バス停を探す。「恵比寿駅入口」というバス停はすぐに見つけられた。バス停にはハチ公のかわいいイラストが描かれている。時刻表を見ると、1時間に2~3本の運行がある。しばらく待っていると、ハチ公バスがやってきた。前述したように、ワンドアの小型バスで、先に降車するお客さんが降りてから、乗車するお客さんが乗る。料金は前払いで、交通系ICカードも利用できる。筆者はPASMOを使って乗り込んだ。

 バスは代官山の細い坂道を登り、渋谷駅を目指す。代官山エリアを出ると、「ハチ公バスのうた」が車内に流れ始めた。このルートは「恵比寿・代官山循環」とも呼ばれ、渋谷区役所を起点に南側を巡回する。

 次に乗ったのは「春の小川ルート」だ。このルートは渋谷区役所から原宿駅入口、代々木八幡駅入口、新国立劇場、笹塚駅を経由して戻ってくる。こちらも唱歌「春の小川」の作詞者・高野辰之(1876~1947年)が居住していた場所の近くを通るため、名付けられたという。初めて乗ったが、鉄道の駅との接続もよく、非常に便利なルートである。

 ほかにも「丘を越えてルート」というルートがある。渋谷駅西口、東急百貨店本店前、東大裏、富ヶ谷交差点、上原一丁目、古賀音楽博物館、代々木上原駅を経て、再び渋谷駅西口に戻る。作曲家・古賀政男(1904~1978年)にちなんだ名前が付けられている。

 もうひとつ、唯一楽曲に由来しない名前のルートが「神宮の杜(もり)ルート」で、神宮前や千駄ヶ谷を走っている。とはいえ、すてきな名前のルートだ。筆者は以前、神宮前に事務所を構えていたので、このルートはよく歩いていた道でもあり、懐かしさがこみ上げてきた。

時刻表もA4サイズで便利

ハチ公バスの時刻表(画像:下関マグロ)

ハチ公バスの時刻表(画像:下関マグロ)

「丘を越えてルート」以外の三つは渋谷区役所を通る。そのため、渋谷区役所に行くことにした。

 目的はふたつある。ひとつはハチ公バスの時刻表をもらうことだ。受付で聞いてみると、目の前に置かれていて「お持ちください」といわれた。驚いたのは、そのサイズがかなり大きいことだ。A4サイズなので、路線図や時刻表が見やすくて助かる。

 表紙と裏表紙に加え、中身は

「24ページ」

もあって、さすが渋谷区ということで広告もたくさん入っている。この一冊があれば、ハチ公バスに乗るときにかなり役立つ。ぜひゲットしたいところだ。

 そういえば、何度かハチ公バスに乗って気がついたことがある。後部座席には4人掛けのシートが少し高い位置にあるのだが、その真んなかには

「天井から床までの手すり」

が1本ある。この手すりを見たのは初めてだ。

 実は、他のコミュニティーバスでも後ろの4人掛けシートは、真んなかのふたり分のところに何もないため、急ブレーキがかかると体が前に投げ出されることがある。これが危険とされていて、子どもやお年寄りが座ると、運転手が注意することもある。しかし、ハチ公バスには手すりがあるので安心だ。

区役所の食堂「ハチ公ソバ」でそばをいただく

「おろし大根せいろ」640円(画像:下関マグロ)

「おろし大根せいろ」640円(画像:下関マグロ)

 そして、渋谷区役所に行ったもうひとつの目的は、1階にある食堂でそばを食べることだ。食堂の名前は「ハチ公そば」で、区役所のエントランスに置かれた看板にかわいいイラストを見つけた。

 この日はとても暑かったので、「おろし大根せいろ」640円を注文した。いやぁ、これはうまい! なんと

「10割そば」

で、そばの香りもいい。もう一度行きたいと思った。

 帰り際に次は何を食べようかとメニューをチェックしていたら、カレーライスが目に入った。そういえば、筆者は区役所の食堂でカレーライスを食べる活動もしていたことを忘れていた。それで、後日、カレーライス490円を食べることにした。

 いやぁ、ビーフがたっぷり入ったカレーライスだった。スパイシーで、ビーフのゴージャスさからは渋谷らしさを感じた。

そして、ハチ公バスで渋谷のスクランブル交差点で渡りたい

ハチ公バス(画像:下関マグロ)

ハチ公バス(画像:下関マグロ)

 食堂で食事を済ませた後、渋谷区役所の停留所へ向かった。ここには、区役所から少し離れたところに三つのルートのハチ公バスが発着している。あまり考えずに目の前のハチ公バスに乗り込むと、また歌が流れていた。乗ったのは「夕やけ小やけルート」だった。

 ちなみに、動画サイトYouTubeにはコミュニティーバスの動画が多くアップされているが、そのなかでもハチ公バスが圧倒的に多いと思う。さまざまな人が投稿していて、車窓からの景色を撮影していたり、街中を走る様子を捉えていたりする。10年前の映像もあれば、最近のものもあって、見ているだけでも楽しい。「ハチ公バスのうた」は、渋谷手話サークルのウェブサイトで聞けるので、ぜひチェックしてみてほしい。

 今回、乗って感じたのは、車窓からの景色がとてもすてきだということ。神宮の杜を通り抜ける景色や代官山の坂の風景もいい。特に印象的なのは、

「スクランブル交差点」

の景色だと思う。普段は歩いて渡っているが、バスの車窓から眺めるのもまた楽しい。皆さんもぜひハチ公バスに乗って、

「ハチ公バスだ ワンワンワン!」

と一緒に歌を口ずさんでみてほしい。

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