期待外れの結末! ソフトバンク支援の米国「宅配ピザベンチャー」が大失敗した、衝撃の理由とは
ロボットが焼く!革新ピザ配達戦争
人工知能(AI)やロボットなど、昨今のテクノロジーの進化は、さまざまな業界で革新的なビジネスチャンスを生み出してきた。2015年、米国シリコンバレーに誕生した「Zume(ズーム)」もそのひとつだ。このスタートアップ企業の革新的なビジネスとは、ピザのデリバリーサービスだ。
ピザはもちろん日本でも人気だが、米国人の
「ピザ愛」
たるや相当なものである。米国では、毎秒350切れものピザが消費されている。ひとりの米国人が生涯に食べるピザは6,000切れにのぼるという統計もある。まさに国民食並みのこの巨大なフードビジネス分野だ。
そこに彗星(すいせい)のごとく現れたのが「Zume」だ。そのビジネスモデルは、ピザ業界に革命を起こすものだった。配送トラック内でロボットがピザを調理し、衛星利用測位システム(GPS)搭載の自動オーブンが移動中に焼き上げる。そして、焼きたてを顧客の元へ届けるというものだ。
Zumeは、二大コスト要因である
・調理人
・店舗
を排除し、効率的かつ革新的なビジネスモデルを構築した。将来的には、自動運転車両も導入し、人件費をさらに削減することも視野に入れていた。まさに近未来的ピザデリバリーサービスだ。
2016年、600万ドルもの投資を獲得したZumeは、「配達中の調理」に関する特許を取得。さらに、顧客の注文を予測するアルゴリズムを開発するなど、技術革新を進め、同年9月に最初のピザ配達にこぎつけている。さらに、ロボットが調理するサラダやデザートなど、サービスのグレードアップも計画していた。
実は、Zumeには日本の有名企業も注目していた。ソフトバンク社だ。米国のピザ市場は、2031年までに5510億ドルに成長すると予測されており、ソフトバンクは、Zumeが「ピザ界のAmazonになる」という可能性に大いに期待したようだ。
2018年11月、Zumeはソフトバンクから3億7500万ドルもの資金調達に成功し、企業価値は驚異の22億5000万ドル(約3200億円)に達した。
事業は順風満帆!……と思われた。
Zumeの挫折と失敗の要因
Zumeは急成長と大規模な資金調達で注目を集めたが、実は深刻な問題に直面していた。それは、移動中のトラックでピザを調理する際に
「溶けたチーズがピザからずり落ちる」
という技術的な課題だ。しかし、この問題は表面化した一部にすぎなかった。
Zumeが失敗した根本的な原因は、市場に対する理解不足と実行力の欠如にあった。デリバリーピザ業界は、
・確立されたブランド
・巨額の広告費
・大規模なプロモーション
が支配している。新規参入者がこの競争に勝つには、綿密な戦略と優れた実行力が求められるのだ。
Zumeの事業モデルを冷静に見てみると、それが思ったほど革新的ではなかったことがわかる。ピザの調理から配達までをトラック内で完結させる予定だったが、実際には別の大きなスペースで下準備が必要だった。
また、独自のアプリで注文から配達までの時間を短縮したとされていたが、同様のアプリは他社でもすでに導入されていた。
Zumeの最大の問題は、ピザデリバリーの経済性をきちんと理解していなかったことだ。米国のピザは日本と比べて非常に安価で、利益率もそれほど高くない。それにもかかわらず、Zumeは自動化の開発に莫大な資本を投じてしまい、投資回収のためには大量のピザを売る必要があった。
さらに、ピザ配達にGPS機能付きのオーブンを50台も搭載した大型トラックを使用するのは無駄で非効率的だ。実際、ピザ配達には自転車や原付、車が一般的であり、そちらの方がコスト効率がはるかによいのは明らかだ。
Zumeの教訓、3Pの重要性
Zumeの失敗から学べる大事な教訓として「3P」の重要性がある。3Pとは、
・Product(製品)
・Price(価格)
・Promotion(プロモーション)
を指す。
まず、製品についてだが、人々がピザを注文するのは突発的で、手軽においしいものが求められる。しかし、Zumeのピザは顧客の評価が「まあまあ」にとどまり、他社のピザと比べても特に差別化されていなかった。チーズがずり落ちる問題以前に、商品自体に個性や魅力が不足していたのだ。
次に価格だが、Zumeは競合他社よりコストを抑えたピザを提供するはずだった。しかし、配達中に調理するという「出来立て」の新鮮さを売りに、プレミアム価格を設定したが、これが顧客に受け入れられなかった。
プロモーションについても十分ではなかったようだ。Zumeがどれだけプロモーションに力を入れたかは不明だが、調達した資金をもっとブランド構築に使うべきだったのではないか。
Zumeは、高コストで複雑な自動化システムを構築することで、いわば「車輪の再発明」をしてしまったようだ。これは、すでに存在するものに過剰に力を注いで新たに開発することを意味する。
大規模な冷凍ピザ工場のような自動化システムを、小規模な事業に高コストで導入してしまった。顧客が本当に求めているものを十分に理解せず、的外れな問題解決に力を注いだ結果、調達した4億ドルの資金は適切に活用されず、経営陣の自信過剰を招いたといえるかもしれない。
しかし、米国のスタートアップ文化では、失敗は恥ではなく、学びの機会とされる。Zumeの失敗は、今後のスタートアップにとって貴重な教訓となるだろう。
成功に必要な四つの要素
スタートアップの成功率は決して高くない。英国では、スタートアップの約90%が1年目を乗り越えるものの、5年以上存続するのは半数以下といわれている。ピザに限らず、成熟した既存の市場で競争して成功するためには、
・並外れた計画
・優れたチーム
・運
・適切なタイミング
が欠かせない。
Zumeの事例は、革新的なアイデアだけでは成功が難しいことを示している。市場のニーズを深く理解し、それに応える実行力が重要だ。また、大規模な資金調達が必ずしも成功を保証するわけではなく、経営陣の判断を鈍らせる可能性があることも示唆している。
技術革新は大切だが、それ以上に顧客のニーズと市場の現実を理解することが成功の鍵となる。資金を効率的に使用し、持続可能なビジネスモデルを構築することも重要だ。
今後、さまざまな分野で挑戦する起業家たちがZumeの失敗から学べる教訓は多い。「市場理解の重要性」、つまり業界の経済性と顧客ニーズを深く理解することや、革新技術を追求しつつ実用性にも目を向け、
「技術と実用性のバランス」
を保つこと、さらには資金調達の規模に惑わされず効率的で現実的な資金運用を心がける「資金管理の慎重さ」。また、市場の反応に応じて迅速に戦略を修正する「柔軟な戦略転換力」を持つことも重要だ。
未来の起業家たちには、これらの教訓を生かして、より強固で持続可能なビジネスを構築していくことを期待する。Zumeの物語は、スタートアップの世界の厳しさを示し、失敗を恐れずに学びの機会として捉えることの重要性を教えているといえるだろう。
ちなみに、セブン―イレブン・ジャパンが2024年8月から宅配ピザに本格参入するというニュースが入ってきた。異業種ながら、市場動向に精通しているコンビニ業界がどこまで宅配ピザ市場に食い込んでいけるのか、Zumeの失敗から得た教訓を念頭において、その展開を注視していきたい。
10/24 14:11
Merkmal