率直に言う 陸上自衛隊の戦車は「全廃」すべきだ

10式戦車、調達価格2倍に急増

10式戦車(画像:写真AC)

10式戦車(画像:写真AC)

 陸上自衛隊は、2025年度の予算において10式戦車12両を231億円(1両あたり19.25億円)で要求している。調達当初から導入時の価格が約2倍に高騰している。これを受けて、10式の調達を中止し、陸自の戦車は全廃すべきだ。

 第二次世界大戦後、現代の陸戦において戦車、MBT(Main Battle Tank:主力戦車。以下戦車)が必要かどうかの議論は続いている。対戦車兵器の発達により、戦車は相対的に脆弱(ぜいじゃく)になっているが、戦車が有用な場面も確かにある。しかし、陸自の戦車と戦車部隊は全廃すべきだ。それは、陸自に

「戦車を運用する能力」

がないからだ。将来の戦略や軍事技術環境は大きく変わる可能性が高いので、

・種火程度の機甲戦力
・その運用ノウハウ

を保持すべきだが、これは「まともな軍隊」の話である。能力がない陸自が戦車を保有することは、逆に“害”が大きいので、政治的な決断で全廃せざるを得ない。種火程度を残すと、条件闘争によって削減が骨抜きにされるからだ。

 戦車を減らせ、戦車を無くせという意見に対して、

「事情通を気取る軍事オタク(軍オタ)」

たちから集中砲火を浴びることがある。彼らが戦車削減に反対するのは、軍事的な合理性からではなく、

「戦車が好きだという感情論」

が多いからだ。したがって、削減を提案すると、廃止論だと攻撃されることが多い。財務省が2022年4月20日に開いた財政制度等審議会の分科会で、防衛関連の資料をもとに戦車の見直しを提案した際も、ネット上では

「戦車廃止論だ」

と激高する意見が多く見られた。だが、財務省の指摘は、ウクライナの戦訓を受けて戦車のあり方を見直すべきだというものであり、廃止しろとはいっていなかった。

陸自の弱体化進行中

 戦車について語ると、あれこれ理屈を付けて戦車を擁護する意見が多く出てくる。しかし、その根底には

「ぼくの大好きな国産戦車をいじめるな」

という感情論があり、建設的な議論にはつながらない。戦車廃止の最大の理由は、陸自が伝統的に戦車や機甲部隊の運用・整備に対する

「当事者意識と能力」

が決定的に欠けているからだ。能力のない組織に戦車を与えても、うまく活用できず、防衛予算を浪費にする。その結果、予算や人員はもっと緊急性や優先順位の高い装備や部隊に回すことができず、陸自自体が

「弱体化」

している。例えば、陸自の北海道の部隊は充足率が5割を切っている部隊も多く、ネットワークやドローンの導入でも、中国やトルコ、さらにはパキスタンにも大きく後れをとっている。最新型の装甲車であるAMVさえもネットワーク化されていない。戦車に使うリソースは、こうした分野に投資すべきだ。

戦車は無力?敵襲の現実

陸上自衛隊のウェブサイト(画像:陸上自衛隊)

陸上自衛隊のウェブサイト(画像:陸上自衛隊)

 そもそも、周辺の仮想敵国が日本本土に対して師団規模や連隊規模の戦機甲部隊を揚陸する能力はない。最盛期のソ連軍にもそのような能力はなかったし、当然日本に対する侵攻計画も存在していなかった。

 戦車を輸送船に搭載する際、非常に重いため、トラックのようにぎっしり詰め込むことはできず、かなりの船腹を占有する。また、戦車だけでは戦えないため、諸兵科の

・装甲車両
・支援車両
・人員
・食料
・弾薬
・医薬品

なども揚陸する必要がある。そのため、大規模な輸送船団が必要になる。

 輸送船の一部には強襲揚陸艦やその搭載艇のようにビーチング、つまり海岸に直接上陸できる輸送艦艇もあるが、ほとんどの輸送船は港湾を占領しないと利用できない。さらに、上陸のためには自衛隊や在日米軍の空海戦力を撃滅し、制海権や制空権を握る必要がある。しかし、周辺諸国にはそのような能力を持つ国は存在しない。これは政府の

「防衛三文書」

も認めていることだ。

 敵の機甲部隊が上陸するということは、日米の空海戦力が壊滅状態であり、当然本土の制空権も失われていることを意味する。敵は攻撃機を持っていないだけでなく、自由にドローンを使って陸自の機甲部隊を索敵・攻撃できる。その場合、機甲部隊は一方的に虐殺されることになる。

 仮に敵が上陸してくるとして、そもそもどのような環境で戦車を使うのか。上陸してきた敵の機甲部隊と戦車戦を行うのか、都市部に進行してきた敵の部隊と市街戦を戦うのか。そのような構想を陸自は示してこなかった。日本の場合、人口の7割が都市部に住んでおり、市街戦に備えることは必須だと思うが、陸自の戦車にはそのような備えがない。

10式戦車の装備不足

 例えば、最新の10式戦車に関しても、他国では標準装備となっている

・自衛用のRWS(リモート・ウェポン・ステーション)
・普通科(歩兵)との直接通話が可能な電話
・建物に立てこもった敵を排除するために必須な目標によって爆発設定を変えられる電子信管付きの多目的榴弾

が存在しない。また、市街戦では敵がビルの上階から対戦車ロケットや対戦車ミサイルで戦車の装甲が薄い上面や後方を狙って攻撃してくる。そのため、これらを排除するにはRWSや普通科の密接な支援が必要だが、それが得られない状況にある。

 陸自は、敵の機甲部隊と広い草原で堂々と戦うという

「男のロマン」

を夢見ているとしか思えない。それは、かつての日本海戦の勝利に酔いしれ、艦隊決戦を夢見た昭和の帝国海軍と同じである。まるでゴジラの襲来だけを想定しているかのようだ。自衛隊が求めるべきは国防であり、男のロマンではない。

 現実的な脅威としては、敵の機甲部隊の上陸よりも、

「中国の弾道弾による自衛隊基地や都市部への飽和攻撃」

の方が差し迫った危険である。そのため、戦車よりもミサイル防衛(MD)にリソースを投資した方がよい。MD用のミサイルは高価であり、ほとんど備蓄が存在しないため、中国や北朝鮮の飽和攻撃には到底対抗できない。

 10月1日、イランはイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララ師の殺害に対する報復として、イスラエルへのミサイル攻撃を実施した。イスラエルはアロー弾道弾迎撃システムとアイアンドーム防空システムを用いてこれに対処した。

 イスラエル国防軍は飽和攻撃を想定し、相当量の迎撃ミサイルを備蓄していると考えられるが、それでも撃ち漏らしは発生している。一方で、日本の対空ミサイルの備蓄は心もとない。この5年間で政府は43兆円の防衛費を投じる計画を進めているが、2025年度の概算要求では弾薬の要求はあまりされていない。

無駄な三世代戦車

74式戦車(画像:写真AC)

74式戦車(画像:写真AC)

 戦後の陸上自衛隊の戦車調達は、まるでファンタジーのような設定に基づいて進められてきた。目的は国防ではなく、

「国産戦車の調達」

であるとしか思えない。74式戦車は、戦時に国鉄(現JR)の貨車で輸送できることを前提に開発されたが、実際には戦時に国鉄を利用する法的根拠はなかった。

 現行の10式戦車は、北海道以外の本土でも幅広く運用できるように採用された。10式は戦闘重量を44tに抑えることより、全国の主要国道にある橋梁1万7920か所の通過率は84%だ。これに対し、50tの90式戦車の通過率は65%で、62~65tの海外の主力戦車は約40%にとどまる。

 逆にいえば、90式戦車は重すぎて北海道でしか運用できなかったことになる。しかし、陸上幕僚監部は90式を要求する際に

「この戦車は北海道でしか使えません」

とは説明しなかった。さらに、外国の重い戦車も北海道以外では使えないため、10式戦車は必要なかったといえる。

 10式戦車は新規開発された3.5世代の戦車であるが、多くの国では第3世代の戦車を近代化する傾向がある。90式を近代化する方が、コスト的にはずっと安上がりだった。10式が採用されて以来、陸自では74式、90式、10式の三世代の戦車が混在しており、教育や兵站の効率が非常に悪い。また、砲弾も3種類必要になる。90式と10式は同じ120mm砲を搭載しているが、10式用の強力な徹甲弾は90式では使用できないため、富士学校の機甲科でも3種類の戦車に関する教育が必要となっている。

 もし10式を開発せずに90式を近代化し、現代戦では戦えない74式を早期に退役させていれば、運用する戦車を1種類に絞ることができ、

・運用コスト
・訓練コスト
・整備要員の数

も劇的に減らせたはずだ。

 さらに、旧式の74式や90式は10式同様のネットワーク化がされていないため、10式との共同作戦が困難である。こうした旧式化した戦車を「戦力」として維持することには、何ら合理性はない。まともな国では、3世代の戦車を同時に運用するようなことはしていない。

60~70t戦車の現実

CUT(Concept Uncrewed Turret)搭載デモンストレーター(画像:清谷信一)

CUT(Concept Uncrewed Turret)搭載デモンストレーター(画像:清谷信一)

 10式戦車は陸上自衛隊の他の装備と同様に、将来的な冗長性が見込まれていない。防衛省は2024年、10式の近代化に向けた情報提供を募集したが、実現できる近代化は非常に限られるだろう。

 10式は戦闘重量を44tに抑え、増加装甲や弾薬、燃料を取り外すことで40tまで減らし、40tトレーラーでの運用を可能にする「設定」とされている。しかし、実際には陸自は40tトレーラーを大変不足しており、機甲部隊は

「中隊レベルの運用」

しかできないだろう。さらに、近代化によって重量が増すと、その「設定」も崩れてしまう。

 既に他国の3.5世代戦車は、生存性を高めるために増加装甲の強化やRWS、ASP(積極防御システム)などを搭載しており、重量は60~70tに達している。特にウクライナ戦争では、ドローンや長射程化した携行型対戦車ミサイルに対抗するため、これらの装備を搭載する傾向が強まっている。

 2024年6月に開催された世界最大規模の陸戦兵器見本市、ユーロサトリでは、最新型の戦車の実証車両が多数展示された。そのなかで最も新しいものは、砲塔の重量を軽減するために無人砲塔を搭載していた。

 ラインメタル社は、レオパルト2A4の改造車体にCUT(Concept Uncrewed Turret)を搭載して展示し、独仏合同のKNDS社もEMBT-ADT 140を展示した。この車両もレオパルト2の車体を流用している。

 通常の砲塔には車長と砲手が搭乗するが、無人砲塔の場合、搭乗スペースが減るため、砲塔を小型軽量化できる。乗員は全員車体に収容される。砲塔は高い位置にあるため被弾の可能性が高いが、無人砲塔であれば砲塔が被弾しても人的被害が出る可能性は低くなる。

 このような無人砲塔のインストールが、今後10年程度の間、戦車の近代化の主流になるのではないだろうか。

時代遅れのネットワーク戦

EMBT ADT 140(画像:清谷信一)

EMBT ADT 140(画像:清谷信一)

 翻って、10式戦車は無人砲塔の採用が不可能だ。他国の戦車と違って、車体に冗長性がないためだ。

「内地で運用するために40t」

という「設定」があるため、陸上幕僚監部は三菱重工が提案した片面の転輪を6個から5個に減らすことで、重量を軽減することにした。その結果、車内容積が減り、無人砲塔を採用した場合でも、車長や砲手を収容するスペースが不足するだろう。つまり、無人砲塔による軽量化はできないということだ。

 RWSやAPS、増加装甲、ドローンなどを装備すると、この「設定」が崩れてしまう。ゴム製履帯を採用すれば約1tの軽量化が可能だが、他国のような近代化にはそれだけでは不十分だ。

 普通戦車を更新する場合、歩兵戦闘車や装甲兵員輸送車、自走迫撃砲、自走対空機関砲、指揮通信車など、他の装甲車両も更新または近代化するものだが、陸自はそれをほとんど行っていない。これらの旧式車両は現代の戦闘に耐えられるレベルではなく、部品の不足もあって稼働率も非常に低い。しかし、陸自はこれらを更新せず、新しい国産戦車の調達だけに偏っている。機甲戦闘においては、他の兵科との連携が重要だが、陸自は戦車だけで戦うつもりのようだ。

 10式戦車は10TKNWというネットワーク機能を搭載しているが、これは中隊規模の10式内で完結するシステムであり、他の装甲車両やドローン、攻撃ヘリ、上級部隊とのネットワーク化はされていない。さらに、他の旧式車両はそもそもネットワーク化されていない。

 10TKNWは16式機動戦闘車にも搭載され、新たに調達が始まった8輪装甲車である共通戦術装輪車やAMVの指揮通信車にも搭載されるが、これは20年以上前の規格であり、既に時代遅れのシステムだ。

 フランス陸軍は1990年代末からさまざまなネットワークシステムを導入しており、2014年にはSCIS(Scorpion Combat Information System)という後継のネットワークシステムを採用しているのに対し、陸自はこれから調達する装甲車両に20年以上前に開発された古いネットワークシステムを導入することになる。

 2023年から調達が始まった新型装輪装甲車AMVは音声無線機しか搭載しておらず、いかに陸自がネットワーク化を理解していないことの証拠だ。

戦車部隊の解体

10式戦車(画像:写真AC)

10式戦車(画像:写真AC)

 陸幕は戦車や機甲戦力の運用に必要な能力が欠けている。このような組織に戦車やそれに必要な予算、人員を使うのは資源の無駄遣いだ。

 陸自は西方で新しい部隊を多数立ち上げているが、既存の部隊を解体するわけではない。既存部隊から隊員を引き抜いているため、北海道では充足率が

「45%」

を下回る部隊も存在している。現在、陸自には約500両の戦車があり、約3000人の要員がいる。戦車部隊を解体して、他の部隊に隊員を振り分けるべきだ。

 防衛省は2025年度の予算で74式や90式といった旧式装備を初めてモスボール保存するための予算を計上している。これに10式も加えればよい。

 機甲戦力の運用ノウハウを維持するためには、専用の研究部隊を富士学校に設置し、戦車の代わりに

「装輪戦車」

である16式機動戦闘車を使用すればよい。繰り返しになるが、運用能力のない陸自に戦車を与えるのは陸自の弱体化を招くだけだ。

ジャンルで探す