北陸新幹線「米原ルート」、運行管理システム問題はもはや解決済みだったのか?

東海道新幹線直通の壁

北陸新幹線(画像:写真AC)

北陸新幹線(画像:写真AC)

 国土交通省鉄道局は2024年6月19日、未着工の北陸新幹線敦賀~新大阪間について「米原ルート・東海道新幹線直通」に関する見解を発表した。

 この内容は、JRの主張を

「ほぼそのまま引用した」

ものに見え、東海道新幹線直通は不可能とされた。その理由として東海道新幹線の

・線路容量の逼迫
・運行管理システムの違い

が挙げられている。線路容量の逼迫については、以前の記事で新大阪~鳥飼車両基地間の10kmを複々線化することで、

「1時間に最大5本」

の列車が乗り入れ可能であることを指摘した。

 今回は運行管理システムの違いについて考えてみたい。実際には、技術的な問題はすでに解決されているのではないかと、滋賀県のリポートや有識者の見解から考察していく。

九州新幹線の例

米原駅(画像:写真AC)

米原駅(画像:写真AC)

 筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)は先日、ある交通系YouTuberがX(旧ツイッター)で、

「東海道・山陽新幹線と九州新幹線は運行管理システムが違うが直通している」

という内容の投稿をしているのを見かけた。恥ずかしながら、これらの新幹線が同じシステムを使っていると思っていた。しかし、この話のとおりなら、運行管理システムの違いは本当にそれほど大きな問題なのか疑問に思った。

 実際、2016年に滋賀県が作成した検討資料「北陸新幹線敦賀以西ルートに対する考え方」には、「米原ルートでの東海道新幹線「乗り入れ」の技術的課題を検証すべき」という項目があり、そのなかで

「「北陸新幹線(COSMOS/コスモス)と東海道新幹線(COMTRAC/コムトラック)の運行管理システムの違い」→「山陽新幹線」(COMTRAC/コムトラック)と「九州新幹線」(SIRIUS/シリウス)間に「情報通信サーバー」を設置することで相互直通運転を実施中。実現可能」

と記載されている。東海道・山陽新幹線の運行管理システムであるコムトラックは、博多総合車両基地と博多南駅までを管轄範囲とし、博多総合車両基地手前から九州新幹線が分岐している扱いになっている。これを考えると、

「分岐合流を想定したJR東日本系の運行管理システムとは違う」

という理屈は通らないのではないだろうか。

 実際のところどうなのか。日本国内の全新幹線の運行管理システムを手掛けてきた日立製作所のコーポレート広報部に問い合わせてみた。すると、次のような回答が返ってきた。

「大変恐れ入りますが、ベンダーの立場として、システムの詳細についてはお答えすることができず、お手数をおかけしますが、JR各社へご取材いただけますと幸いです」

 日立からは見解を得られなかったが、匿名を条件にある有識者が次のように語った。

「コムトラックとコスモスは中継装置をかませれば連携できるのではないか。列車運行管理システムといえども、接続する他のシステム「東海道・山陽新幹線(COMTRAC)と九州新幹線(SIRIUS)」「東北・上越・北陸新幹線(COSMOS)と北海道新幹線(CYGNUS)」とは、所定のフォーマットでデータを授受しているにすぎないはずなので、他システムとの接続自体が不可能という訳ではない。しかし、当初から接続を考慮していたであろう上記のペアとは異なり、相互の接続を考慮していなかったであろうCOMTRACとCOSMOSを直接接続するのは、データフォーマットがそもそも異なり、ハードルが高い可能性が大いにある。そこで、それぞれのシステムのデータフォーマットに翻訳する、ポケトークのような機能を果たす中継装置を介してであれば、レスポンスは多少犠牲になると考えられるが、直接と比較すれば多少なりとも技術的に容易に接続できると考えられる」

信号システムの互換性問題

陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表上り15分サイクルリダンダンシー強化版(左)、北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表下り15分サイクルリダンダンシー強化版(画像:北村幸太郎)

陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表上り15分サイクルリダンダンシー強化版(左)、北陸新幹線米原ルート新大阪付近複々線化案時刻表下り15分サイクルリダンダンシー強化版(画像:北村幸太郎)

 実際に日立のウェブサイトにある2本の論文、

・新幹線ネットワークの拡充と円滑な相互直通列車の運行を実現する新幹線運行管理システムの開発
・山陽・九州新幹線の相互直通運転を実現する新幹線運行管理システム

では、

「システム間接続し、必要な情報をリアルタイムに共有・送受信することで、指令所間での一体的な運用を可能とした。具体的には、列車のダイヤ情報、運行状況や運転予測の情報、列車の走行実績などを共有することとした」

といった趣旨の記述がある。つまり、運行管理システムの違いを克服する技術的問題は、ほぼ解決済みといえるのではないだろうか。

 続いて信号システムの違いについては、

「信号システムも停車駅での切替が前提なら違いがあっても構わないはずである。北陸新幹線(DS-ATC)も東海道新幹線(ATC-NS)も、どちらもデジタルATCと呼ばれるタイプのATCだが、信号に互換性がないため、相互直通ができないとされている。しかし、現状でも「京王+都営新宿線」「メトロ東西線+東葉高速」「メトロ有楽町・副都心線+東武東上線」のように、異なるATCの区間に乗り入れる列車も日常的に運行されている。ネット上の写真を見た範囲では、京王+都営新宿線の組合せの場合、軌道回路のATC信号を受信する「受電器」という機器を二組搭載しているように見える。この場合、ATC装置自体を2種類併設して、区間によって稼働する装置を切替えていると考えられ、かなりの力技であるが直通運転を果たしている。(もちろん、走行中の切替は不可能)これと同様の方法か、受電器は共用してそれ以降の部分で切替える方法で、(もちろん、一つの装置で両方の機能を持つものができればそれでも良いが)ATC-NSとDS-ATCの併設は、費用と搭載スペースさえ片が付けば、技術的には可能と考える。技術的困難さ(≒導入までの期間や費用)は経営的に「やる気になればできる」程度のものである」

とのことであった。

 冷静に考えれば、他のどの線区でもできることを、北陸から東海道への直通だけができない理由を見つける方が難しいように思える。

米原停車か福井まで東海式にするか

米原駅の位置(画像:OpenStreetMap)

米原駅の位置(画像:OpenStreetMap)

 信号システムの切り替えは可能だが、ひとつの課題が残っている。それは、切り替えができるのが停車時のみという点だ。前述の有識者によると、

「ふたつのATCの切替を走行中に行うと、切替のタイムラグでわずかに無信号状態ができてしまい、システムが異常と判断して非常ブレーキをかけてしまう」

という。そのため、停車時でしか切り替えが難しいのだ。

 このことを考えると、筆者が想定したダイヤでは、速達列車が東海道新幹線との分岐駅である米原を通過する場合、米原から敦賀間はJR東海式のATC-NSで整備し、敦賀から全列車が止まる福井までの区間もATC-NSに敷き直す必要がある。

 もちろん、敦賀から福井間の信号システムを敷き直すにはコストがかかるが、小浜ルートとの建設費の差額2~3兆円に比べれば微々たるものだ。

 もし信号システムの敷き直しができない場合、全列車を米原に停車させるしかない。その代わり、米原から富山間を300km運転できるように設備を改良すればよい。この改良により、所要時間が約10分短縮され、米原停車による4分程度の増加を十分に吸収できる。これにかかる費用も小浜ルートとの建設費の差額2~3兆円に比べれば微々たるものだ。

 例えば、東北新幹線の盛岡から新青森間178.4km(そのうち明かり区間約57km)の320km化工事には約120億円かかっている。明かり区間だけで工事費を割り算すると、1kmあたり約2億円で300km化が実現可能だ。

 米原から富山間約230kmのうち3分の2が明かり区間(敦賀~金沢間では66%が明かり区間のため)であるとすれば、約300億円で済むだろう。300km化した場合の詳細なダイヤ試算については、別の機会に譲ることにする。

運行管理と信号の真実

北陸新幹線(画像:写真AC)

北陸新幹線(画像:写真AC)

 今回は、過去の記事に寄せられたコメントのなかで特に多かった運行管理システムと信号システムの違いについて述べた。

 次回は自治体の費用負担の問題に加え、山陰新幹線整備の決起大会で与党整備委員長の西田氏が発言した内容を解説し、

「小浜ルート反対論」

を掲げる上で誤解してほしくないポイントについても触れていきたい。

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