「ゴネるな佐賀県」 西九州新幹線の部分開業から2年余りも、未合意区間の議論進まず! 石破首相誕生も未来が見えないワケとは

未合意区間の霧、2年の膠着

西九州新幹線(画像:写真AC)

西九州新幹線(画像:写真AC)

 西九州新幹線が部分開業して2年余りが過ぎたが、未合意区間の議論は進んでいない。国土交通省や長崎県、JR九州が求めるフル規格整備は霧のなかだ。

「整備新幹線は事業費の大幅な上振れが常態化している。拙速に議論を進めるようなものではない」

 佐賀県議会の9月定例会開会日、提出議案の提案理由説明で山口祥義(よしのり)知事は西九州新幹線未整備区間のフル規格整備について、あらためて慎重な姿勢を示した。

 西九州新幹線は福岡市と長崎市を結ぶ路線で、2022年9月に武雄温泉(佐賀県武雄市)~長崎(長崎県長崎市)間66.0kmがフル規格で部分開業した。国交省、長崎県、JR九州は博多(福岡市博多区)~新鳥栖(佐賀県鳥栖市)間で九州新幹線の線路を共用し、佐賀駅(佐賀県佐賀市)を通るルートで新鳥栖-武雄温泉間をフル規格整備したい考えだ。

 しかし、佐賀県の同意を得られず、実現のめどが立っていない。国土交通省と佐賀県が2020年から定期的に開いてきた

「幅広い協議」

は、意見が平行線をたどり、2023年2月を最後に一時中断した。2024年8月に1年半ぶりに開かれたが、進展はなかった。

重い財政負担を佐賀県が警戒

西九州新幹線(画像:写真AC)

西九州新幹線(画像:写真AC)

 幅広い協議と別に2023年12月に開かれた国交省と佐賀県の個別会談や2024年5月にあった佐賀県、長崎県、JR九州の三者会談も、それぞれが従来の主張を繰り返すだけで物別れに終わっている。

 佐賀県の反対理由のひとりが

「地元負担の重さ」

だ。整備新幹線は整備費に新幹線を運行するJR各社への線路貸し付け収入を充て、残りを国が3分の2、沿線都道府県が3分の1を負担する。都道府県間の負担割合は距離に応じて算定され、佐賀県の試算では、佐賀駅ルートで佐賀県の実質負担が

「1400億円」

を超す。部分開業区間を含めると、長崎県の2倍以上になるという。

 もうひとりは佐賀駅を通る長崎本線が並行在来線となれば重い財政負担が予想されることだ。JR九州の路線のままでも在来線特急が減れば、佐賀県に不利益となる。佐賀市から福岡市へ在来線特急で通勤する人は多いが、佐賀~博多間を佐賀駅ルートでフル規格化しても時間短縮は15分。佐賀県交通対策課は

「フル規格化に大きなメリットはない」

と指摘する。

長崎県、JR九州は佐賀駅ルートを主張

西九州新幹線(画像:写真AC)

西九州新幹線(画像:写真AC)

 これに対し、長崎県が佐賀駅ルートでのフル規格化を支持するのは、西九州新幹線を地域振興の要と位置づけているからだ。14日には通販大手のジャパネットホールディングスが推進するスポーツと商業の複合施設「長崎スタジアムシティ」が長崎市で開業する。

 それに加え、ここ数年は長崎市で

・長崎駅ビルの商業施設
・高級ホテルなど大型施設の開発ラッシュ

が続いてきた。長崎県は深刻な人口減少が続き、地盤沈下が著しい。長崎県新幹線対策課は

「早期にフル規格で全線開通させ、観光客らを呼び込みたい」

と力を込める。

 JR九州が佐賀駅ルートでフル規格整備を求めるのは、佐賀駅ルートが最も利用を見込めるためだ。乗り換えの不便さを解消して長崎へ来る利用客を増やすと同時に、佐賀-博多間の通勤需要を取り込む思惑もある。JR九州の古宮洋二社長は7月の記者会見で

「白紙から考え直したが、佐賀駅ルートが最適」

と述べた。

 部分開業区間の1日平均利用客数は

・1年目:約6600人
・2年目:約6900人

で、国予測の約7300人を下回っている。JR九州は西九州新幹線の収支を公表していないが、売り上げが年間50億円ほどなのに対し、年間維持費が

「約90億円」

かかっているとされ、年間40億円程度の赤字が出ているもよう。収支改善のためにも整備を急ぎたいと見られる。

 国交省も最も投資効果が大きいのは佐賀駅ルートと主張している。佐賀県が三者からフル規格での整備を突き付けられる状況を見て

「佐賀県がごねてフル規格整備が進まない」

との見方もあるが、過去の経緯を振り返ると佐賀県ばかりを責められない。

FGT開発失敗で合意が破綻

西九州新幹線(画像:写真AC)

西九州新幹線(画像:写真AC)

 1992(平成4)年に固まった整備の大枠では、武雄温泉~長崎間はフル規格でインフラ整備するが、線路は在来線と同じ狭軌(幅1067ミリ)とし、武雄温泉駅まで在来線を通ってきた特急を高速運行させるスーパー特急方式としていた。

 その後、浮上したのが、線路幅が違う新幹線と在来線を直通できるフリーゲージトレイン(FGT)の導入だ。この際、武雄温泉~長崎間を新幹線規格の標準軌(幅1435ミリ)で整備することになったが、新鳥栖~武雄温泉間は従来通り在来線の長崎本線を通る計画だった。

 しかし、FGTの開発が難航、与党検討委員会は2019年、FGT導入を断念して全線フル規格整備にかじを切る。佐賀県は新鳥栖~武雄温泉間で在来線を利用することを理由に合意していたが、合意が破れたと受け止めたわけだ。

 佐賀県は佐賀駅ルートのフル規格新幹線を必要としていない。国交省や長崎県、JR九州が懸命に圧力をかけ、説得しているものの、

「佐賀駅ルートが最適」

の言葉だけではいつまでたっても事態が動きそうにない。問題は新幹線にメリットを感じない地域の心をどうやって動かすかだ。

 国会議員きっての鉄道ファンとして知られる自民党の石破茂氏が新首相に就任した。石破首相は衆議院本会議の所信表明演説で

「地域交通は地方創生の基盤。移動の足確保を強力に進める」

と力説した。鉄道を知り抜いた石破首相に事態打開を期待する声が一部にある。

 しかし、石破首相の党内基盤は脆弱(ぜいじゃく)で、発言のブレが続いている。下手に動けば27日投開票の衆院選を前にして新たな敵を作ることになりかねない。現時点で期待をかけるのは難しそうだ。西九州新幹線は部分開通のまま、膠着(こうちゃく)状態が続くのだろうか。

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