なぜ空港経営には「民間の力」が必要なのか? 柔軟なアイデアと資金がもたらす変革! 利益追求だけではない地域活性化の意義とは

空港に導入が進むコンセッション事業

大阪国際空港(伊丹空港)(画像:写真AC)

大阪国際空港(伊丹空港)(画像:写真AC)

 皆さんは「コンセッション」という言葉をご存じだろうか。コンセッションとは、「公共施設において、国や地方自治体が土地や建物などの所有権を保有したまま公共インフラの運営権を一定期間、民間企業に売却すること」(野村證券の証券用語解説集)を指す。

 このコンセッション方式は、別名

「公共施設等運営権制度」

とも呼ばれ、2011(平成23)年のPFI法改正を受けて空港運営に導入された。

 2015年には但馬空港がこの方式での運営を始め、2016年には関西・大阪国際空港や仙台空港が加わった。その後、神戸、高松、鳥取、南紀白浜、福岡、静岡、熊本、北海道内の7空港や広島空港でも次々とコンセッション事業が開始された。

 国や自治体などの公的機関が整備した社会資本の量を示す「社会資本ストック」の51.6%は道路や下水道分野に占められている。

 その一方で、公共インフラ全体の中で航空分野のコンセッション事業はわずか0.5%に過ぎない。しかし、なぜ空港運営にコンセッション方式が多く導入されているのだろうか。

コンセッション方式が人気なワケ

空港と地域の連携イメージ(画像:三菱総合研究所)

空港と地域の連携イメージ(画像:三菱総合研究所)

 空港運営にコンセッション方式が導入されている最も大きな理由は「国の空港経営改革」だ。これまでの空港は新しい施設の整備や拡張に重点を置いていたが、大量輸送を可能にする空港ネットワークの構築が重視されていた。しかし、時代が進むにつれてインフラが完成し、空港は効率的な運営と維持管理が必要になった。

 この変化に対応するためには、民間の柔軟なアイデアと資金を活用することが期待されており、その方法が「コンセッション方式」による空港の民間運営だ。

 実は、空港の民営化を考える場合、コンセッション方式にこだわる必要はない。日常的な運営業務を短期間で民間委託したり、株式会社化した運営組織の株を民間企業に売却したりするなど、さまざまな方法がある。

 しかし、空港運営にコンセッション方式が選ばれたのは、民間に運営権を売却しても公的主体が土地や施設の所有権を持ち続けられるからだ。これにより、適切な民間企業の選定や、災害時などの不測の事態に対して自治体や国が迅速に介入できると考えられた。つまり、安全性や利用者の利便性を公的主体である国や自治体が責任を持って管理できるというわけだ。

 実際、利用者利便性の向上に関する提案内容は、民間事業者の選定時に重要な評価項目となっている。コンセッション方式による空港運営は、単なる利益追求ではなく、空港や地域の活性化を目指すものでなければならない。

目指すは経営の一本化

空港経営の一体化とそのメリット(画像:日本貿易会月報オンライン/図表:国土交通省作成)

空港経営の一体化とそのメリット(画像:日本貿易会月報オンライン/図表:国土交通省作成)

 国土交通省は、空港経営改革としてコンセッションを導入する目的を

「民間による一体経営を実現し、着陸料等の柔軟な設定等を通じた航空ネットワークの充実、地域活性化を図る」

と説明している。これまで空港は、さまざまな事業主体が各施設を運営していたが、コンセッション方式を導入することで経営主体を統一できるという理由もある。

 経営が一体化されることで、民間の柔軟なアイデアを活かすことが可能になる。例えば、

「物販や飲食から得られる収入を利用して着陸料を引き下げる」

といった施策が考えられる。関西空港、大阪国際空港、神戸空港のコンセッション事業に参加しているオリックスグループは、金融、不動産、物流、法人営業など、さまざまな専門知識を持っている。

 さらに、共同で事業を行うフランスの空港運営会社ヴァンシ・エアポートは、空港運営に関する専門知識や国際的な空港ネットワークを持っている。こうした民間企業の得意分野を経営の一本化によってより戦略的に活用できるというわけだ。

空港運営を武器に世界で戦う企業

仙台空港(画像:写真AC)

仙台空港(画像:写真AC)

 空港のコンセッション事業は、整備した空港インフラの所有権を維持しながら運営権を売却する仕組みだ。この背景には、民間が空港の維持管理費を負担し、運営を統一することでより戦略的な経営を行い、利益を上げるという考えがある。

 しかし、コンセッション事業にはリスク管理が課題として存在する。事業に問題が起きたり想定外の事態が発生した場合、

「責任の所在」

を明確にする必要がある。また、契約内容だけでなく、事業者を選定するプロセスにも慎重さが求められる。

『民営化の手法とリスク ―空港の民営化に関する法制度の検討を中心に―』(『社会科学ジャーナル』82〔2016〕、寺田)と題する論文では、

「国や地方公共団体が抱えるリスクを民営化した先の事業会社に移すことが目標ではなく、リスクが存在することを前提の上で、よりよいサービスを提供するための手段の1つとして民営化について考えるべき」

と述べられている。つまり、リスクをしっかり把握し、官民が同じ方向を向いている必要がある。

 空港のコンセッション事業の先には、空港運営の未来が広がっている。空港運営のノウハウを蓄積した民間企業は、将来的にそのノウハウを資産として活用できるだろう。世界には、そのような空港運営のノウハウを必要とする国や空港が多数存在する。空港という場所は世界とつながっているため、そこで得られる経験は国際的に通用するものとなる。

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