なぜ能登半島は孤立するのか? 過疎化に追い打ちかけた地震、高齢化44%で進む復興計画とは

能登半島地震の爪痕

能登半島(画像:石川県)

能登半島(画像:石川県)

 2024年1月に発生した能登半島地震は、能登半島に深刻な被害をもたらした。東日本大震災(2011年3月)のように広範囲にわたる被害ではないが、人的・物的被害は大きかった。

 また、9月には豪雨の被害も発生している。この豪雨は、能登半島地震による被害からインフラの復旧が急務な状況にさらなる打撃を与えた。能登半島地震と豪雨によって、山岳地帯のインフラの脆弱(ぜいじゃく)さや、地震や豪雨によって容易に孤立してしまう集落の問題が浮き彫りになった。

 これらの問題を解決しながら、どのように復興を進めていくかを本稿で考えていきたい。

巨大災害と都市再生

能登半島地震(画像:写真AC)

能登半島地震(画像:写真AC)

 地震や豪雨などの大きな災害の後には、復興が重要な課題になる。災害によって、道路や鉄道、住宅、商店、工場など、人々の生活に欠かせない設備が壊れてしまうからだ。こうしたものを復旧することが急務である。

 同時に、単に復興するだけでなく、災害を防ぐために都市計画の見直しも進められている。例えば、関東大震災の後に後藤新平が提案した東京の改造計画がある。この計画では、幅100m弱の街路を整備し、中央に緑地帯を設けることが計画された。これにより、地震による火災の延焼を防ぎ、交通の流れをよくすることを目指していた。

 後藤の計画には巨額な費用がかかるため、最終的には大幅に縮小されたが、焼け野原となった地域では環状道路の整備や生活道路の幅員拡大が進み、近代的な東京に生まれ変わるきっかけとなった。

 最近の例として東日本大震災がある。この震災は東北地域に広範な地震と津波の被害をもたらし、特に津波の影響が深刻だった。そのため、津波被害を軽減するための都市計画が復興の際に重視された。沿岸地域の街を高台に移動させるなど、津波対策を講じた都市計画が進められた。

 このように、巨大な災害の後には復興が議論され、新しい計画に基づいて進められることが多い。もちろん、単に建物やインフラを元に戻すだけの復旧にとどまる場合もある。しかし、巨大災害は都市を再構築するチャンスでもあり、今後再び災害による被害を防ぐためにも、しっかりとした計画が必要だ。

高齢化44%の危機感

能登半島地震(画像:写真AC)

能登半島地震(画像:写真AC)

 能登半島地震で浮き彫りになったのは、山岳地帯の集落が孤立しやすいという問題だ。能登半島は山が多く、平野部が少ない地域である。高速道路のような高規格道路は少なく、川などの地形に沿った一般道路に頼らざるを得ない。そのため、山岳地帯を通る際には、地震や豪雨による落石で集落が簡単に孤立してしまう。

 地震が起きる前から、能登半島は過疎化に悩んでいた。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口」によれば、能登地域の人口は2010(平成22)年には36万1662人だったが、2020年には32万1482人に減少した。また、高齢化率も高く、内閣府の「令和6年能登半島地震における災害の特徴」によると、2020年時点で全国の高齢化率は約28%だが、能登半島の被災市町では

「44%」

に達している。このように、能登半島は高齢化が進み、過疎化が深刻な地域である。しかし、地元自治体の努力もあり、珠洲市では移住者が増加傾向にあるなど、過疎化対策が少しずつ効果を見せていた。そんななかで発生した能登半島地震は、過疎化をさらに加速させている。

 石川県の統計によると、2024年1月から5月までに輪島市、珠洲市、穴水町、能登町といった奥能登地域から転出した人数は合わせて2510人に上っている。これは2023年の同じ期間の

「約2.5倍」

だ。一方、転入は406人で、これは2023年の同じ期間の半分にとどまっている。転出した人のほとんどは奥能登地域から他の地域に移住している。今後、復興が進めば状況が改善するかもしれないが、過疎化が拡大する可能性も十分にある。

能登の再生と共生の道

能登半島地震(画像:写真AC)

能登半島地震(画像:写真AC)

 石川県は、能登半島地震からの復興に向けて創造的復興プランを掲げた。このプランでは、能登の自然や文化といった普遍的な価値を生かし、自然と文化が真に共生する持続可能な地域を目指している。地震という悲劇を乗り越え、新たに再生することが目的だ。このアプローチは、関東大震災や東日本大震災後の復興とも関連している。

 日本政府は、能登半島地震の復興のために2024年度予算の予備費から5000億円以上を支出しており、石川県はそのなかから637億3200万円を復興に充てるとしている。これらの予算は、復興プロジェクトに使用される。

 復興プロジェクトは、インフラの強靭化や地域公共交通の再構築など多岐にわたる。一方で、自力での住宅再建やコミュニティーの維持を断念し、集団移転を選ぶ動きも進んでいる。すでに集落の再編が進んでいるため、無計画な移住を避けるために関係自治体には迅速な対応が求められる。

 こうした取り組みは、南海トラフ地震の発生が予想される地域でも活用できる。南海トラフ地震の被害地域には、紀伊半島のような山岳地帯が含まれており、能登半島と似た条件を持っている。そのため、能登半島での経験が役立つ可能性がある。地震という悲劇を乗り越え、新たに再生できるかが試されているといえる。

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