秋の京都も観光公害!“手ぶらバス”運行開始も、旅行者「ガン無視」のお寒い現実 タクシー運転手は「荷物もう積めない」と苦笑い

「ハンズフリーバス」登場

京都市バス(画像:写真AC)

京都市バス(画像:写真AC)

 秋の行楽シーズンを迎えた京都市で観光客が集中する東山地区の観光公害対策が相次いで打ち出された。路線バスの車内混雑解消や渋滞対策だが、果たして効果は出るのだろうか。

 京都下京区のJR京都駅烏丸口に紫色の派手な車体のバスがやってきた。市観光協会と市が1日から実証運行を始めた「ハンズフリーバス」だ。ハンズフリーの意味は手ぶら。京都駅に到着した観光客に宿泊先へ荷物を預けてから観光してもらうことを狙いにしている。巡回するのは、

・下京区の堀川五条、四条烏丸
・中京区の二条城前、烏丸御池

など宿泊施設が多く立地する市中心部の計8か所。荷物は通常の市バスと異なり、50Lキャリーケースを45個収納できる。利用料金は大人500円。紅葉シーズンが終わる12月27日まで毎日8便運行する。

低調な滑り出し

京都駅烏丸口に到着したハンズフリーバス(画像:高田泰)

京都駅烏丸口に到着したハンズフリーバス(画像:高田泰)

 市内の人気観光地は連日、訪日外国人観光客が殺到している。なかでも観光客が多いのが、東山区の清水寺周辺だ。飲食店や土産物店が並ぶ二寧坂や産寧坂は、足の踏み場もない人出になることが珍しくない。京都へ到着したまま観光地へ向かい、大きなキャリーケースを引きずって歩く人も。

 清水方面行きの路線バスは混雑が常態化して市民が利用しにくい状態が続いているが、訪日客が車内に持ち込む大きなキャリーケースも混雑に拍車をかける一因だ。京都駅で客待ちするタクシー運転手(68歳)は

「3~4人の団体客でキャリーケースがタクシーに積み込めない量になったこともある」

と苦笑いする。大型のキャリーケースは大人ひとり分ほどのスペースを占める。市はこれまで荷物を置いてバスや列車に乗るよう呼び掛けてきたが、大きな効果はなかった。このため、専用バス運行に踏み切ったわけで、市観光協会と市観光MICE推進室は

「観光客が手ぶらで観光地へ向かってくれたら、混雑を緩和できるのでないか」

と狙いを語る。

 だが、まだPRが行き届いていないのか、初日の午前中にハンズフリーバスに乗車した観光客はいなかった。皮肉なことにすぐ近くの市バス乗り場では朝早くから清水方面へ向かう観光客が大挙し、乗り場から駅前の歩道まで100m近い列を作っていた。そのなかには大きなキャリーケースを引きずる訪日客も見られた。

清水坂観光駐車場がマイカー禁止に

観光バスがずらっと並ぶ清水坂観光駐車場(画像:高田泰)

観光バスがずらっと並ぶ清水坂観光駐車場(画像:高田泰)

 清水寺周辺では、マイカーやレンタカーが殺到することによる交通渋滞も深刻さを増している。官民併せて10か所以上の駐車場が設けられているが、週末にはすべて満車となることが珍しくない。しかも、駐車場に通じる清水坂や五条坂は道路幅が狭い。駐車場を探す「うろつき運転」の車があると、その後ろに渋滞が生まれている。

 4月には産寧坂で桜の木が倒れ、下敷きになった遠足引率の男性教員が重傷を負う事故があったが、警察や救急隊が駆けつけるのに時間がかかった。近くの土産物店従業員(22歳)は

「救急隊やパトカーまで渋滞に巻き込まれたみたい」

清水坂で客を降ろしたタクシー運転士は

「清水坂は下りだけの一方通行だが、うろつきのマイカーがいると400mほどの距離を下るのに、10分近くかかることもある」

とうんざりした表情。この日も昼前に渋滞が発生していたが、列の先頭に若いカップルが乗った和泉ナンバーの乗用車があった。

 市は渋滞対策として10月10日から12月10日まで市営の清水坂観光駐車場をマイカー禁止にする。2023年にマイカーの駐車料金を2割値上げしたが、大きな効果が出なかったためだ。さらに、入庫待ちの観光バスが五条坂に停車して渋滞を引き起こすこともあるため、バスに完全予約制を導入する。市自転車政策推進室は

「市のホームページやSNS、立て看板などで情報発信し、周知を図っている。観光客には道路が狭いことを理解してマイカーやレンタカーの利用を自粛してほしい」

と訴えている。

初京都の外国人が清水寺に殺到

観光のマイカーを先頭に長い渋滞が続く清水坂(画像:高田泰)

観光のマイカーを先頭に長い渋滞が続く清水坂(画像:高田泰)

 市がまとめた2023年京都観光総合調査によると、観光客総数はコロナ禍前の2019年より6.0%少ない5028万人だったが、宿泊客は2019年を12.0%上回る1475万人に達した。特に外国人は2019年比41.0%の大幅増。しかも、外国人の73.3%が初めての京都旅行で、訪問先は清水寺が66.6%で最も多かった。

 2024年は年初から円安が続き、一時は1ドル160円台を記録した。これを受け、欧米などから初めて京都を旅行する観光客が増え、清水寺など定番の人気観光地を訪れる傾向がより強くなっている。

 対策としては路線バスの思い切った増便が考えられるが、京都市交通局が9月末、市バスの非常事態宣言を出すなど運転士不足が加速し、思うような増便は難しい。ハンズフリーバス運行やマイカー禁止など可能な範囲の施策で対処せざるを得ないのが実態だ。

 円安はやや落ち着きを取り戻しつつあるが、日本と欧米諸国の収入格差が広がり、安く旅行できる京都への注目が高まっているという。京都駅前の大手旅行代理店は

「今の状態なら当分、訪日客が京都へ押し寄せるのでないか」

と見ている。問題の根源は

「清水寺への観光客一極集中」

にある。市は観光客の分散を図るため、府と連携して府内周遊ツアーの開発を進めている。しかし、訪日客の多くは観光パンフレットやインターネットで見た清水寺に魅了されて東山を目指している。名前も知らない観光地へ誘導するのは簡単でない。

 東山区にも“住民の暮らし”がある。清水寺周辺の観光公害緩和は急ぎ対処しなければならない課題だが、市が打ち出せる手は限られている。

ジャンルで探す