「高級料理 = タクシーで届ける」 プロのドライバーがもたらす安心感とプレミア感、業界はニッチなニーズ対応で危機乗り越えよ

インバウンド需要回復も人手不足

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 帝国データバンクによると、2023年度のタクシー事業者の倒産件数は全国で33件に達した。2022年度は28件だったので、約1.2倍だ。事業者の数は徐々に減少している。

 2011(平成23)年度には36件が倒産し、その後もコロナ禍の3年間で状況はさらに悪化。タクシー業界は厳しい状況に追い込まれている。

 コロナ禍が落ち着き、

・インバウンド需要
・ビジネスでの移動

が増えつつあるが、その一方で、コロナ禍中に十分な収入を得られず、タクシードライバーを辞めた人も多い。なかには車両があるのに、ドライバーがいないために事業を続けられず、廃業に追い込まれる事業者も出てきた。

 さらに、燃料代の高騰が収益を圧迫し、タクシー業界は経営的に厳しい状況にある。こうした悪条件を打開するには、

「新しいサービスデザイン」

が必要だ。

タクシー活用が地方を救う

山村のイメージ(画像:写真AC)

山村のイメージ(画像:写真AC)

 タクシーの魅力は、運転のプロが自分の行きたい場所に連れて行ってくれることだ。一方で、運転のプロだからこそ、免許を返納したり運転への自信を失ったりした場合に、自分の移動を代行してもらえる可能性もある。

 筆者(北條慶太、交通経済ライター)の親戚は四国のある山村に住んでいるが、高齢のため、

・予約した弁当や生活用品の引き取り
・墓参り
・銀行の出張所でのお金の引き落とし

などをする際に、タクシーを待たせて自宅との往復をしている。その場に同行したことがあるが、タクシーの活用シーンは地方では増えていることがわかった。

 高齢になるにつれて、タクシーのドライバーに代わりにやってもらいたいことも増えてくる。お金のやり取りには不安を感じることもあるが、生活のなかで代行をお願いしたいことは意外と多いようだ。

さまざまなタクシーサービスの広がり

第一交通産業のウェブサイト(画像:第一交通産業)

第一交通産業のウェブサイト(画像:第一交通産業)

 ということで、地域生活におけるタクシーの活用事例について見ていこう。今回は、

・墓参りタクシー
・子育てタクシー
・デリバリータクシー

の三つについて解説する。

●墓参りタクシー
 車を走らせたり、列車の車窓から景色を見たりしていると、寺ではない不便な場所に墓があるのをよく目にすることがある。なかには、急で狭い道の途中にあるため、高齢者や子連れが簡単に行けない墓もある。

 運転に自信がなくなったり、免許を返納した場合、墓が遠いことや多忙のために墓参りに行けないことがある。また、高齢者が障がいや病気、けががひどくなり、墓参りや墓掃除ができなくなることも多い。こうした理由から、墓参に関するさまざまな生活上の悩みが生じている。

 こうした問題を解消するために、墓参りを代行するタクシーが登場している。例えば、第一交通産業(福岡県北九州市)では、

・合掌(事前・事後)
・簡単な掃除(水鉢、花立て、線香台)
・線香の供え
・写真撮影(事前・事後)
・報告書の提出

を行うサービスを提供している。他の事業者でも同様のサービスが増えており、なかには、墓参りのセットを用意し、手ぶらで墓参りに連れて行く事業者もある。高齢者にとって、墓参りの心身の負担が軽減されるうれしいサービスとなっている。

タクシーで実現する子育て支援

日の丸交通のウェブサイト(画像:日の丸交通)

日の丸交通のウェブサイト(画像:日の丸交通)

 ふたつ目は子育てタクシーだ。

●子育てタクシー
 地方都市を訪れると、「子どもの送迎のためにパートの時間を連続して働けず、一時的に上司の許可を取って抜けなければならない」という話を時々聞く。

・自宅と学校の送迎
・放課後の自宅と塾の間の送迎
・自宅とスポーツクラブの間の送迎

など、親が送り迎えをしなければならないケースが増えている。路線バスやスクールバス、送迎バスのドライバー不足がこの問題をさらに深刻化させている。そこで、プロのタクシードライバーにその送迎を任せるのが子育てタクシーだ。

 このサービスは、保護者の送迎を代行するだけでなく、

・緊急時の病院への送迎(急な破水や陣痛時の対応なども含む)
・乳幼児を連れた外出の支援

も行う。これは、子育て支援を目的とした新しいタクシーサービスである。全国子育てタクシー協会が主催する「子育てタクシードライバー養成講座」や保育実習、チャイルドシート取り付け講習を修了した乗務員が運転するタクシーが、子育てタクシーとなる。

 例えば、東京の日の丸交通(東京都文京区)では、子育てタクシーを利用するには一部コースを除き会員登録が必要で、東京23区、三鷹市、武蔵野市を中心にサービスを展開している。大都市でもニーズがあり、今後の発展が期待されている。

広がるデリバリーの可能性

一般的なフードデリバリーのイメージ(画像:写真AC)

一般的なフードデリバリーのイメージ(画像:写真AC)

 三つ目はデリバリータクシーだ。

●デリバリータクシー
 飲食物のデリバリーといえば、自転車やバイクが思い浮かぶ。しかし、最近ではタクシーがフードデリバリーを行う例も増えている。これまでタクシーの参入は禁じられていたが、コロナ禍でデリバリーニーズが高まり、国土交通省は2020年の4月から9月末までの期間限定で、タクシー事業者が有償で飲食店の食料や飲料を運ぶことを許可した。これは

・消費者
・フード事業者
・タクシー事業者

のそれぞれに大きなメリットがあり、現在もタクシー事業者はフードデリバリーに参入できるようになっている。コロナ禍はタクシー業界にとって、思わぬプラスの効果をもたらしたといえる。

 タクシーを利用することで、バイクや自転車よりも「広範囲に大量配送」が可能となった。プロのドライバーによる配達サービスであるため、

・安心感
・高級感

もあり、フード事業者のブランディングにも貢献している。高級ホテルやレストラン、料亭がタクシーデリバリーを利用しているのも注目すべき点だ。

「高価な料理はタクシーで届ける」

という新たなブランドが形成されつつあり、ユニークである。バイクや自転車では、フードが傾いて汚い状態で届くという苦情も少なくないが、タクシーではそのリスクも軽減される。

地域ニーズに応える多様なサービス

タクシー(画像:写真AC)

タクシー(画像:写真AC)

 消費者の基本的な衣食住を考えると、さまざまな生活上の問題が浮かび上がる。

 今回紹介したタクシーの新しいサービスは、そうした基本的な衣食住のシーンにおける困りごとを解決するために生まれたものだ。

 プロの移動と困りごとを結び付けることで、新たなタクシーサービスが生まれる可能性がある。

 今回はスペースの関係で詳しく紹介できなかったが、レンタルビデオやCDを自宅に運んだり、店に返却してもらったりするサービスも身近な例だ。そのほかにも、筆者は

・介護輸送の共同送迎サービス
・薬配達サービス
・買い物代行サービス

などのアイデアも実現可能だと考えている。

「地域生活の困りごとをタクシーで解決する」

という視点でタクシーを見つめ直せば、新たなサービスが見えてくるはずだ。

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