転生したら「宇都宮LRT」だった件
自己紹介
吾輩は、「芳賀(はが)・宇都宮LRT(次世代型路面電車)」である。人間のような名前はないが、強いていうならHU300形といったところだろうか。ある朝、なにか気がかりな夢から目をさますと、吾輩が寝床のなかで芳賀・宇都宮LRTに変わっているのに気づいた。
世間的に認知されている誕生日は2023年8月26日で、最近1歳の誕生日を迎えたばかりであるが、地域の足として頑張っている。今回は吾輩の視点から、芳賀・宇都宮LRTとしての自分を評価していこうと思う。
これは新たな車両評論のスタイルである。“マジガチ”のコメントはくれぐれもお控えください。
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吾輩は、2023年8月26日に開業した新しい路線を走っている。宇都宮市にある宇都宮駅東口と芳賀町にある芳賀・高根沢工業団地停留場間約15kmを約44分で結んでいる。終点にある芳賀・高根沢工業団地は、栃木県の南東部にある内陸型工業団地で、
「総面積248.4ha(東京ドーム53個分)」
の敷地に、ホンダや関連企業を含め約100社が立地。以前は、ホンダ渋滞などと呼ばれるくらい通勤時間帯の渋滞がひどく、この渋滞解消にも吾輩が一役買っている。
自慢1「黄色と黒を基調とした先進的なデザイン」
自分で自分を褒めるのでこそばゆい気もしないではないが、最初の自慢は黄色と黒を基調とした先進的なスタイリッシュなデザインだ。黄色と黒のカラーリングが
「ヨーロッパ調の雰囲気」
をかもしながらも、流線形のノーズの丸みのある形状がどことなく和のテイストも感じさせる。
黄色は、芳賀・宇都宮LRTのシンボルカラーだ。芳賀や宇都宮エリアは雷が多く、雷都と呼ばれていたことをモチーフに、稲光や雷を受け豊かに実った稲をイメージさせる黄色を選んだという。
また、スタイリッシュに感じるのは
「車両の寸法」
も関係している。路線バスの幅約2.5mに対し、吾輩は2.650mと少し太めであるが、高さが路線バスの約3mに対し3.625mと約60cmも高くなっている。このわずかな差が、吾輩をスマートに感じてもらうには十分な役割を果たしているといえよう。
自慢2「お客さんに優しい低床車両と大きな窓ガラス」
もちろん、吾輩の自慢は見た目だけではない。
全ての車両の床面の高さがレール面から30cmと低く、プラットホームの高さを30cmとれば、段差なしで乗車できる低床車両だ。その昔の先輩方は、
・車輪をつなぐ車軸
・車軸を支える台車
の上に床があったことから、床面の高さが80cm前後もあった。小さな子どもやベビーカー、そしてお年寄りや身体が不自由な人に優しい定床車両こそ、技術とアイデアの塊といっていい。
低床車両は、吾輩の専売特許ではなく、例えば広島電鉄の5100形グリーンムーバーマックスは、2005(平成17)年3月に誕生した国産初の低床車両の路面電車だ。以降、定床車両の兄弟や仲間が増えており、路面電車の進化をまざまざと感じる。
車内の設備では、ゆったりとして座りやすい優先座席こそロングシートであるが、そのほかはボックスシートで、ちょっとした旅気分も味わえる。クロスシートに座って、大きな窓ガラスいっぱいに広がる鬼怒川橋梁からの眺めをぜひ堪能してほしい。
自慢3「世界各地で活躍するドイツを源流とする一族」
吾輩を生み出したのは新潟トランシス(新潟県聖籠〈せいろう〉町)であるが、実はドイツの
・MAN社
・AEG社
が開発・製造したファミリーで、「ブレーメン形」とも呼ばれている。
特徴は、車両の真んなかあたりに1台だけ台車がついている点で、横からだと運転台が浮いているように見える。一族には、GTxN/M/S/K(xは車軸数、N/M/S/Kは軌間を表す)という形式名称がある。
ちなみに、NはNormalspur(標準軌間1435mm)、KはKapspur(ケープ軌間1067mm)だ。この命名ルールに当てはめると、吾輩は
「GT6K」
となる。ちなみに、ベルリンや熊本にはGT4N、ブレーメンにはGT8Nが走っている。なんだか日産GT-Rのような、
「高級スポーツ車感が漂う形式名称」
が気に入っているのは吾輩だけだろうか。
もちろん制御方式は、今風のVVVFインバーター制御だ。あの独特のウイーンという駆動音と静粛性が、ガラガラガラというような機械的な音のする先輩方とは一線を画しているところかもしれない。
昔ながらのモーター音が好きな
「玄人筋」
には不評かもしれないが、そこは時代の流れと諦めてほしい。また、運転しやすさも時代とともに進化している。その昔は、乗客数や線路のぬれ具合などを体感しながらブレーキのエアーを調整しており、まさに職人技だった。今や吾輩が自動で調整しているので、運転士にも優しいといっていい。
残された革新テーマは自動運転とバッテリー駆動
2024年9月13日には、累計利用者数が500万人に到達した。想定より3か月も前倒しして達成できたのは、利用者の皆さまのおかげといえよう。
今後は、県庁や繁華街のある駅の西側に延伸する計画があり、実現したあかつきには、ますます便利になるだろう。なお、JR線を越える際の急勾配を想定して、軌道建設規定の再急勾配67パーミル(1000m進むと67m上がる勾配)まで吾輩は対応している。
車両としての吾輩がさらに進化するとすれば、
・自動運転
・バッテリー駆動/燃料電池駆動
かもしれない。今や路線バスが自動運転している時代であり、加減速の操作のみのLRTは、技術的には自動運転のハードルは低いと思われる。
しかしながら、一般車両と道路を併用している区間もあり、異常時対応を考えると乗務員なしは難しいのかもしれない。もうひとつのバッテリー駆動や燃料電池駆動は、
「架線が不要」
となる分、空間がスッキリするほか、架線のメンテナンスが不要となるメリットがある。バッテリー駆動や燃料電池駆動は、吾輩ではなく次の世代のLRTの姿だろう。
高度に発達した自動車社会にあって、新しく誕生した吾輩。わずか1年で、必要不可欠なインフラとして街になじんできてうれしいかぎりだ。経済性も満たしつつ地域の足として機能するには、それなりの人口規模が必要であるが、ますますLRTの仲間が増えることを期待してやまない。
09/28 09:11
Merkmal