日産とトヨタのアプローチが正反対! 「電動車向けエンジン」はロングストロークorショートストローク、結局どちらが優位なのか?

内燃機関の必要性再考

カスタムカーの展示会「東京オートサロン」に出店した日産自動車のロゴマーク。千葉市美浜区の幕張メッセ。2022年1月14日撮影(画像:時事)

カスタムカーの展示会「東京オートサロン」に出店した日産自動車のロゴマーク。千葉市美浜区の幕張メッセ。2022年1月14日撮影(画像:時事)

 世界の自動車メーカーはこの数年、電動化の波にさらされている。環境対策を優先した電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)のシェアが急速に伸びている。特にEVは、中国や欧州を中心に政府主導で普及が進んでおり、EVシフトにともなってガソリンエンジン車など内燃機関を搭載した車の廃止も進んでいる。

 しかし、急速なEVの普及は需要を急激に消費しており、市場では激烈な値引き合戦が繰り広げられ、メーカーの倒産を引き起こしている。そのため、各国政府は急速なEVシフトを見直し、HVに戻る動きが見られる。

「内燃機関は当分の間、車に必要だ」

という見方が広がっている。

 このような状況のなか、自動車メーカーは次世代の電動車向けエンジンの開発を迫られている。国内でもトヨタ自動車や日産自動車が新型エンジンを相次いで発表している。電動車向けのエンジンは、HVやPHVでモーターによる走行をメインとし、エンジンが補助するシステムが基本だ。エンジンは主にモーターのアシストや発電に使用される。

ボアストローク比の重要性

ボアとストローク(画像:JAF)

ボアとストローク(画像:JAF)

 これまでのHVではエンジン走行をメインとする走行性能が求められていたが、電動車が前提となる車種では効率化や小型化など、必要なスペックが変わってくる。エンジンの基本設計には排気量があり、排気量はシリンダー内の内径(ボア)とそのなかを動くピストンの移動距離(ストローク)で決まる。

 このストロークをボアの数値で割った比を「ボアストローク比」と呼ぶ。例えば、ボアが90mmでストロークが90mmであれば、ボアストローク比は1.0になる。ボアストローク比が

・1.0より大きいもの:ロングストローク
・1.0より小さなもの:ショートストローク

と呼ばれ、それぞれエンジンのトルクや高回転特性に大きな影響を与える。

 電動車向けの新型エンジンについて、日産はロングストロークを採用し、トヨタはショートストロークという真逆のアプローチをとっている。それぞれの設計思想が見える部分だ。

「熱効率50%」への挑戦

発電に特化した効率運転(画像:日産自動車)

発電に特化した効率運転(画像:日産自動車)

 日産は次世代の電動車向けエンジンとして、「e-power発電専用」エンジンの開発に取り組んでいる。目指すのは熱効率50%の実現だ。

 エンジンの熱効率は、燃料を燃焼させたエネルギーのうち、どれだけが仕事に使われるかを示す指標で、熱効率が高いほど燃費やエンジンの効率が向上する。

 日産はこれまで「e-power」というハイブリッドシステムを展開しており、このシステムではエンジンが発電専用となり、発電機を稼働させて発電した電気を使ってモーターで走行する。そのため、e-power向けのエンジンには、定常回転での効率的な発電性能が求められ、日産の新型エンジンは吸気ポートや燃焼室などを定常運転に最適化している。

 日産が新型エンジンをロングストローク化する理由は、熱効率の向上を目指すためだ。ロングストロークはストロークする距離を長くすることで、低速トルクを高めたり熱効率を向上させたりできるが、高回転エンジンには向かないとされていた。しかし、電動車向けのエンジンには高回転性能が必要ないため、日産はロングストローク化という基本技術に立ち戻り、効率重視のエンジン開発を進めている。

 現時点で日産のエンジン開発は熱効率43%に達しており、さらに7%の向上を目指して、フリクションの低減やリーン燃焼、排熱回収機構の効率化に取り組む予定だ。

トヨタは搭載性重視のショートストローク化

新エンジン概要(画像:トヨタ自動車)

新エンジン概要(画像:トヨタ自動車)

 トヨタも次世代の電動車向けエンジン開発に取り組んでいるが、従来の方針から一転してショートストローク化を選択した。

 これまでトヨタは、HV向けに効率を重視したロングストロークエンジンを採用し、熱効率の向上を目指していた。しかし、2024年発表した新型1.5Lエンジンと2.0Lエンジンは、ショートストロークエンジンとなっており、同じ排気量でも気筒数を増やしたり、シリンダーあたりのボアを大きくすることでストローク量を減らしている。このショートストローク化は、車への搭載性を重視した結果であり、従来のエンジンと比べてエンジン全高を約10%低減させている。

 トヨタはショートストローク化によってエンジン自体の効率が低下することを認めており、燃費性能もロングストロークエンジンには及ばない。しかし、トヨタの戦略は車全体での効率化を求めるもので、エンジン全高が低くなったことでボンネットの高さを低くでき、これにより空力性能を向上させる狙いがある。

 また、車の走行性能はモーター重視のシステムを採用することで、エンジンの苦手な領域をカバーする考えだ。ショートストロークエンジンはエンジン単体では効率が低下するものの、セダン系の車種で12%の燃費向上効果を見込んでいる。

 エンジン単体の熱効率を追求する日産と、車全体で効率化を図るトヨタは、アプローチは真逆だが、どちらも電動車をメインに見据えた高効率な自動車開発を目指している。エンジンの進化は電動車の時代においてもまだまだ進む余地がありそうだ。

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