夏の直射日光をブロック! 日産の「次世代塗装技術」をご存じか? 最大12度の温度低下を実証済み、商用バン・トラックに朗報か

車の熱を逃がす塗装技術

自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を公開(画像:日産自動車)

自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を公開(画像:日産自動車)

 日産自動車は、新しい塗装技術「自己放射冷却塗装」を公開し、この夏に実証実験の結果を発表した。

 自己放射冷却塗装は、車のボディ表面に塗る塗料に関する技術で、

・直射日光を反射する効果
・放射冷却によって熱を電磁波に変換して放出する効果

を組み合わせている。この技術によって、車にたまる熱を効果的に放出することができる。放射冷却は日常的に見られる現象で、日中に暖まった地面から赤外線などの形で熱が宇宙に逃げる際に発生する。このため、地面の温度は加熱と冷却を繰り返し、夕方から夜にかけて気温が急激に下がることが多い。もし車のボディ表面からも同様の放熱効果が得られれば、車内のエアコンの使用頻度が減り、燃料の節約やCO2排出量の削減が期待できる。

 日産は、放射冷却塗装を開発していたラディクールジャパン(東京都中央区)と協力し、自動車向けの自己放射冷却塗装の実用化に向けて、開発と実証実験を進めている。放射冷却塗装は建築分野ではすでに採用実績があるが、従来の塗布方法は分厚い塗膜をローラーで塗るもので、他の分野に展開するのが難しかった。そこで日産とラディクールジャパンは、

・自動車用にエアスプレーで塗布する方法
・塗装表面に施されるトップコートとの相性
・自動車用塗装としての耐久性や耐候性

を3年かけて開発した。

 現在は、自己放射冷却塗装の効果と長期的な耐久性を確認するための実証実験が進行中だ。

最大12℃の温度低下効果

ラディクールジャパンのウェブサイト(画像:ラディクールジャパン)

ラディクールジャパンのウェブサイト(画像:ラディクールジャパン)

 自動車用の自己放射冷却塗装はまだ実験段階にあるが、実際の車を使用した実証実験が進行中だ。

 日産はこの夏に自己放射冷却塗装の実証実験の結果を公表した。この実験では、同一の車種に自己放射冷却塗装と通常の塗装を施し、直射日光が当たった状態でボディ表面温度を比較した。その結果、ボディ表面で

「最大12度」

運転席の頭部空間で最大5度の温度低下が確認され、自己放射冷却塗装の効果が数値として実証された。

 さらに、日産は日産サービスセンター九州支社の社屋屋根にも同様の塗装を施し、その効果を確認したところ、最大11.4度の冷却効果が得られた。また、実際の運用現場での効果や耐久性の実験も行っており、2023年11月から羽田空港第2ターミナルのANAエアポートサービス(東京都大田区)と協力し、同社が使用する連絡車に日産の小型バン「NV100クリッパーバン」に自己放射冷却塗装を施した車を導入している。

 羽田空港では、空港係員が飛行機の到着に合わせて配置される際に連絡車が必要となる。係員は飛行機到着の数十分前に詰め所から移動し、作業が終わると再び詰め所に戻るが、駐機場では走行時以外にエンジンを停止する決まりがあり、その結果、車室内の温度が高くなりやすい。この実験では自己放射冷却塗装の冷却効果だけでなく、耐候性や塩害の影響も確認されている。特に羽田空港は海に近いため、塩害が強く発生する条件だ。最終的には、

・塗装の耐久性
・冷却性能の維持
・変色や退色

など車の塗装に求められる品質基準をクリアできるかどうかを評価する。この実証実験は1年間の予定で、直射日光の厳しい夏を乗り越えた後に自己放射冷却塗装が期待通りの耐久性を示すことに大きな期待が寄せられている。

温暖化防止への期待感

日産総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員・エキスパート三浦進氏(画像:EPA=時事)

日産総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する主任研究員・エキスパート三浦進氏(画像:EPA=時事)

 自己放射冷却塗装の実力は、実験室レベルではっきりと確認されており、今後の実用化に大きな期待が寄せられている。

 自動車向けの自己放射冷却塗装は、日産以外には実用例がなく、地球温暖化対策が求められる現代において重要な技術となる可能性がある。自動車は走行中や駐車中に直射日光を受けることが多く、何万台、何十万台もの規模で考えると、車1台に蓄積される熱の量は無視できない。

 自己放射冷却塗装は、日光を反射するとともに、放射冷却によって熱を電磁波として放出する。この熱は大気層を抜けて宇宙に放出されるため、長期的には地球温暖化対策にも貢献できるかもしれない。

 しかし、現時点では自動車用塗装として課題があり、高い効果を持たせるためには

「白系の塗装」

になる必要がある。乗用車向けにカラーバリエーションを持てないことは大きなデメリットだが、日産はまず

・商用バン
・商用トラック

など、白色単色でも受け入れられやすい車種での実用化を目指している。

 最近では、乗用車のボディカラーにツートンカラーが流行している。ルーフやボンネットとボディ本体のカラーが分かれる車もよく見かける。日光が直接当たるルーフやボンネットに自己放射冷却塗装の白色を施し、それ以外の部分は好みのカラーと組み合わせられるようになれば、カラーバリエーションの対応とデザインの魅力が高まるだろう。

 将来性のある塗装技術として、羽田空港での日産の実証実験結果に期待が持てるのだ。

ジャンルで探す