ガソリンスタンド存続の鍵! 「地下タンク」問題を解決する4つの方法をご存じか

急速なスタンド減少と老朽化タンク問題

廃業したガソリンスタンド(画像:写真AC)

廃業したガソリンスタンド(画像:写真AC)

 ガソリンスタンド業界の縮小が続いている。

 資源エネルギー庁のデータによると、全国のガソリンスタンド数は1994(平成6)年に約6万店に達したが、バブル経済の影響もありその後の不景気で自家用車の販売が減少し、2017年には半数の約3万店にまで減少した。

 現在もこの傾向は続いており、2023年度には新たに開店したガソリンスタンドが48店舗に対し、閉店した店舗は527店舗に上っている。つまり、新規開店数の10倍以上が閉店しており、現在の店舗数は約2.6万店となっているのだ。

 筆者(北條慶太、交通経済ライター)は9月9日、当媒体に「毎年500か所が消滅! 全然止まらぬ「ガソリンスタンド」衰退の末路とは」という記事を書き、

・減少の原因には、低炭素社会の推進や電気自動車の普及、ガソリン需要の減少がある。
・急速充電器の設置はコストが高く、多くの店舗が設置を断念している。
・人手不足や後継者不足も、ガソリンスタンド減少の要因となっている。
・ガソリンスタンドは地域の重要なインフラとして機能しており、他業種との併設によって活用の道が探られている。
・過疎地のガソリンスタンドのうち、9%が廃業を検討しており、これは深刻な問題だ。
・経営面では、ガソリンの販売量や粗利益の減少、従業員確保や後継者不足が大きな課題となっている。
・消防法の緩和により、コンビニや喫茶店、コインランドリー、宅配ボックスなどとの併設が増えている。
・消費者のニーズに応じた、新たな連携事例の創出が期待されている。

と訴えた。ここにさらに深刻な問題が加わる。それはスタンドの地下に設置された

「タンク」

の老朽化だ。今回は、この地下タンクの老朽化に焦点を当てて、ガソリンスタンドが今後も存続できるかどうかを考えていく。

消防法改正の影響

ガソリンスタンドの仕組み(画像:静岡県石油商業組合)

ガソリンスタンドの仕組み(画像:静岡県石油商業組合)

 2005(平成17)年頃から、消防法で定められた石油などの危険物を一定量以上扱う施設で、危険物の流出事故が増え始め、その後さらに増える可能性が問題視されるようになった。総務省のデータによると、2008年には危険物流出の件数が386件に達し、そのうち約2割が地下貯蔵タンクの腐食や劣化によるものだった。

 総務省の「地下貯蔵タンクの流出事故防止対策」に関する報告書(消防庁予防課危険物保安室、2010年2月8日)では、地下貯蔵タンク等からの危険物の流出は構造上発見が遅れやすく、その結果、被害が拡大する可能性が高いと指摘されている。

 2011年の消防法改正では、「腐食のおそれが特に高いタンク」(設置から50年以上で板厚が8mm未満、モルタルによる外部保護がされているもの)に対し、

・内面ライニング(金属基材内に樹脂原料を投入しながら化学物質や腐食からタンクを保護し、タンクの品質を維持する方法)
・電気防食

のいずれかの処置を義務付けた。また、「腐食の恐れが高いもの」(設置から40年以上50年未満で板厚が4.5mm以上、アスファルトで外部保護がされているもの)には、

・内面ライニング
・電気防食
・危険物漏れを検知する監視モニター設置

のいずれかが必要とされた。

 これにより、改修費用が大きくかかり、タンクの老朽化具合によっては更新が避けられない状況となった。この消防法改正は、ガソリンスタンドの財務状況をさらに厳しくしている。

地下タンク更新の課題

廃業したガソリンスタンド(画像:写真AC)

廃業したガソリンスタンド(画像:写真AC)

 地下貯蔵タンクの改修や更新にかかる費用が非常に高く、資金調達も難しいという問題がある。10kLのタンク1本の改修費用は、概ね150万円から高くても300万円とされており、平均すると

「約200万円」

だ。標準的なガソリンスタンドでは、10kLのタンクが5本地下に設置されているため、1本の改修が200万円だとすると、合計で1000万円の費用が必要になる。

 老朽化が進んでおり、新しいタンクに更新する場合は、10kLのタンク5本で約2000万円かかる計算になる。更新費用は改修の倍となり、1000万円から2000万円の突発的な支出は全国のスタンドにとって大きな負担となる。

 こうなると、将来的な負担を懸念して廃業するという選択肢が浮上する。ガソリンスタンドの解体費用は安いもので300万円程度だが、状況によっては1000万円ほどかかることもある。

 最近では、地方自治体が廃業に併せて土壌汚染調査を求めることが増えている。この調査で土壌汚染が確認されると、対応を含めた解体費用が数千万円に膨れ上がる可能性がある。環境規制が厳しくなっており、地方自治体は地下タンクの老朽化によるリスク評価も求めている。

 こうした状況のなかで、改修や更新、または廃業を迫られるスタンドが多く、早期に廃業を決定するケースが増えている。その結果、

・低炭素や低エネルギーの推進
・電気自動車の普及
・人手不足
・後継者不足

といった要因と並んで、急速にガソリンスタンドの数が減少している。

四つの解決策

廃業したガソリンスタンド(画像:写真AC)

廃業したガソリンスタンド(画像:写真AC)

 今回、筆者が提案する解決策は次の四つだ。

・行政の支援策
・革新技術の導入と業界の協力による普及
・地域との連携
・技術的事例としてのスマートタンク

これらについてひとつずつ説明していこう。

●行政の支援策
 政府は何も手をこまねいているわけではない。2011(平成23)年以降、次のような補助を発表した。

・内面ライニング:700~900万円
・電気防食:500~800万円
・常時監視装置の設置:200~300万円

 地下貯蔵タンクの入れ替えに対する補助金は、一般的なスタンドの場合、工事費のうち2000万円を上限に補助対象となり、その2/3が補助の上限とされた。ただし、補助金には限度があり、経済状況などにより補助件数が減る可能性もある。エコカーの普及も進んでいる一方で、将来への不安から廃業を決定するケースも見られる。しかし、ガソリンを必要とする車は依然として存在するため、資金補助の継続については、モビリティの確保、つまり「移動の権利」や「物流の確保」に関する法律的な議論を基に進める必要がある。
●革新技術の導入と業界の協力による普及
 筆者は、老朽化に伴う常時監視装置の設置が比較的安価であることに期待している。これらの監視装置には人工知能(AI)を導入できるからだ。老朽化に関するデータを集めることで、AIの監視精度も向上する。スタンド業界でDXテクノロジーを共有し、監視技術やトレーニングプログラムを構築することも重要だ。これにより、データの読み取りや老朽化に向けた修繕プロセスに役立てることができる。

 実際、スマートタンクシステムの技術研究は進行中だ。老朽化に関するビッグデータに基づき、AIが老朽化の兆しを使用者に知らせる仕組みが検討されている。今後は人口が減少し、スタンドも人手不足になることが予想されるため、業界はDX化を目指す必要がある。

●地域との連携
 ガソリンスタンドの収益を増やし、持続可能にすることも重要だ。地域住民との協力によってサービスを多様化し、EV充電ステーションの設置など新しいサービスを提供することが求められる。また、地元のガソリンスタンドを利用すると割引があるといったインセンティブも必要だ。地域でガソリンスタンドを育てる視点も大切だと感じる。こちらについては、前の記事「毎年500か所が消滅! 全然止まらぬ「ガソリンスタンド」衰退の末路とは」(2024年9月9日配信)を参考にしてほしい。

●技術的事例としてのスマートタンク
 現在、容量990Lのスマートタンクが徐々に社会に導入されている。ソーラーエネルギーと一般的な自家用車の内蔵バッテリーを利用するため、電源がなくても給油が可能だ。また、非常災害時にも強い設計になっている。消防法にも適合しており、設置が簡単で、ソーラー充電によるエコなシステムを採用している。さらに、IoTを使って常時在庫管理ができ、定期的な補充も可能だ。重厚長大な貯蔵タンクを不要にし、地上に設置できる軽薄短小な技術として、地方部の小規模なスタンドにとって有用である。今後、スタンドの重厚長大から軽薄短小への移行が重要なテーマになるだろう。

ガソリンスタンドの未来像

活気あるガソリンスタンド(画像:写真AC)

活気あるガソリンスタンド(画像:写真AC)

 これまで述べてきたように、ガソリンスタンドの閉業と地下タンクの改修・更新問題は、ガソリンスタンド業界に大きな影響を与えている。

 しかし、重厚長大な地下貯蔵タンクを排除し、軽薄短小な方法を用いてDXをうまく活用するシステムも考えられるようになっている。

 このような技術の育成や関連人材の育成が、業界全体で急がれる。モビリティを確保する上で、ガソリンスタンドは今後も不可欠であり、常識にとらわれない効率的な方法の導入に期待したい。

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