変革する自動車業界! 三菱電機&アイシン「異例の新会社」設立は何を意味するのか?

EV市場拡大の波、未来への挑戦

アイシンeアクスル(画像:アイシン)

アイシンeアクスル(画像:アイシン)

 三菱電機モビリティ(東京都千代田区)とアイシン(愛知県刈谷市)は以前、車の電動化や電動車に関する事業を行う新会社を設立し、創業を目指すと発表した。

 この2社は自動車関連の部品生産や開発を行っている企業で、将来の電気自動車(EV)シフトに対応するために異例の協業を行う。EVシフトとは、世界的にEVの普及を促進する動きであり、特に欧州や中国市場では自動車市場におけるEVのシェアが大幅に拡大している。

 EVは排ガスを排出しないクリーンな自動車として注目されており、エンジン搭載車に比べてCO2排出がないため、地球温暖化対策としても期待されている。各国政府はエンジン搭載車の廃止を進めており、将来的にはエンジン搭載車が大幅に減少すると見られている。

 このような動きに対し、これまで自動車のエンジン関連部品を開発・生産してきたサプライヤーには大きな変革期が訪れている。EV関連事業に乗り出さなければ、将来性が不透明になってしまうからだ。

 三菱電機モビリティとアイシンはエンジン関連の事業も持っているが、新会社は電動化を事業の中心に据えることでEVシフトに備えている。三菱電機モビリティはモーターやインバーターなどの電機系技術に強みを持ち、アイシンは電動車向けの電動ユニットの開発経験が豊富であるため、両社が組むことでより高効率でコンパクトな電動ユニットの実現を目指す。

 さらに、制御ソフトウエアを車両やシステムの視点から最適化することも視野に入れており、ハードウエアとソフトウエアの両面でEVシフトに対応していく予定だ。

三菱電機の変革期

三菱電機モビリティのウェブサイト(画像:三菱電機モビリティ)

三菱電機モビリティのウェブサイト(画像:三菱電機モビリティ)

 今回設立が発表された合弁会社は、三菱電機モビリティとアイシンが共同出資したものである。ただし、三菱電機モビリティ自体は設立から約半年しかたっていない新しい会社だ。

 三菱電機モビリティの前身は三菱電機であり、その自動車機器部門が独立して設立された。三菱電機は長年自動車分野での存在感を持ち、特に電動パワーステアリングの分野では世界トップクラスの技術力を誇っている。しかし、同部門は2022年度に赤字を計上し、2023年第一四半期も赤字となるなど、近年は厳しい状況に置かれている。これはコロナやEVシフトによる市場や自動車業界の変動に影響された結果だ。

 三菱電機モビリティの設立は、電動化や先進運転システム(ADAS)の分野における事業再編を目的としており、アイシンとの新会社もその一環である。

 EVシフトによる影響は三菱電機だけでなく、日本の自動車関連事業を展開する多くの電機メーカーにも及んでいる。実際、自動車関連事業を手放す動きも見られる。例えば、パナソニックホールディングスは、傘下の自動車事業を中心にしていたパナソニックオートモーティブシステムズの株式を米国のファンドへ多く売却し、実質的に子会社化を解消した。

 この企業は2022年に本体から分社化され、自動車用センサーなどの分野でシェアを持っているが、将来的な自動車業界の変動に対応するために関係性を見直し、新たなパートナーの資金力のもとで成長を図る方針だ。

 電機業界はその技術力を生かして自動車分野でも存在感を増しているが、最近数年でその変革が急速に進んでいる。

CASEで変わる自動車業界

アイシンのウェブサイト(画像:アイシン)

アイシンのウェブサイト(画像:アイシン)

 電機業界を基盤とする自動車関連サプライヤーは、EVシフトの影響で独立や分社化、合併を繰り返している。しかし、潜在的にはEVシフトに対応しやすい分野を多く持っている。

 成長のカギとなるキーワードは「CASE(ケース)」である。

 EVシフトによって、自動車の構成部品はエンジンを中心とした機械系からモーターを含む電気系へと変化している。これに伴い、車全体の部品点数も約3万点から約2万点へと減少し、大きな影響が出ている。エンジン系の部品を主に手がけてきたサプライヤーは、この変化により事業の転換や廃止、さらには倒産に追い込まれる企業も出てきており、厳しい状況が続いている。

 しかし、電機業界は次の成長分野として「CASE」において存在感を示す可能性があり、より多くの電気系・電子系技術が自動車に求められている。

 CASEの四つの分野は以下の通りである。

・Connected:コネクテッド
・Autonomous(Automated):自動運転
・Electric:電動化
・Sharing&Service:カーシェアリングサービス

 コネクテッドカーや自動運転技術には、車と外部との通信機能が欠かせない。三菱電機モビリティが得意とするADAS技術も、この分野で活用できる。また、電動化の分野では、電動モーターやインバーター、減速機を一体化したeアクスルが実用化されている。今後、より高い性能とコンパクトなパッケージングを実現するためには、自動車関連技術に携わってきた電機系メーカーの技術が重要となる。

 カーシェアリングサービスには、システム関連技術や法律的な整備が必要であり、官民一体の取り組みが求められる。しかし、実証実験が始まるなど、盛り上がりを見せ始めている。

 これらの新分野に対応するためには、豊富な開発資金や先行投資が必要である。そのため、三菱電機モビリティとアイシンの協業やパナソニックオートモーティブシステムズの動きは、将来に向けた体制づくりと捉えることができる。

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