トヨタEV生産「3割縮小」でも、シフト速度が落ちただけ そもそも「直系サプライヤー」は生き残れるか? という根本疑問

サプライヤー変革の波

「人とくるまのテクノロジー展2022 NAGOYA」でのデンソーのブース(画像:Merkmal編集部)

「人とくるまのテクノロジー展2022 NAGOYA」でのデンソーのブース(画像:Merkmal編集部)

 現在、世界的に環境対策を重視した「電気自動車(EV)シフト」が進んでおり、内燃機関の自動車からEVへの移行が急速に進行している。従来の自動車とは構造が異なるEVは、部品構成にも変化をもたらしており、結果として部品を製造・開発するサプライヤーにとって大きな変革期を迎えている。

 国内の主要な自動車メーカーにはトヨタ、日産、ホンダなどがあり、これらのメーカーは

「直系サプライヤー」

と呼ばれる大規模なサプライヤーと密接に関わっている。直系サプライヤーは、自動車メーカーとともに技術の開発や生産に深く関与しており、自動車部品において中核的な役割を果たしている。特に、内燃機関のエンジン関連部品は部品点数が多く複雑なため、直系サプライヤーの開発力と供給力がなければ最新のエンジンは成立しない。

 しかし、EVシフトによってエンジンの数が減ることで、サプライヤーの構造にも変化が求められている。EVの動力源であるモーターや駆動用バッテリーは、機械技術が主役のエンジンとは異なり、電気系で構成部品の点数も少ないため、サプライヤーが生産・供給する部品数が減少する。

 このEVシフトが進むにつれて、従来の構造ではエンジン部品の収益性が低下し、自動車関連のサプライヤーはさまざまな手段でEVシフトに対応せざるを得なくなっている。この変化は直系サプライヤーにも当てはまり、ここ1年でさまざまな動きが見られるようになっている。

サプライヤー再編の潮流

八千代工業のウェブサイト(画像:八千代工業)

八千代工業のウェブサイト(画像:八千代工業)

 トヨタやホンダは、2023年から2024年にかけて直系サプライヤーとの関係を見直している。特にホンダが八千代工業(埼玉県狭山市)を売却したことは、業界に衝撃を与えた。

 ホンダは2023年7月に、連結子会社の八千代工業の株式をインドの自動車部品大手マザーサングループに譲渡することを発表した。八千代工業はホンダの直系サプライヤーとして70年近く、燃料タンクやサンルーフを手がけてきたが、燃料タンクはEVシフトによって需要が減少しつつある部品であるため、八千代工業を手放すことは業界関係者には予測できなかった。

 八千代工業は、燃料タンクの生産で培った樹脂部品技術を生かしてEV向けの部品事業を展開する見込みだが、競合他社が多い分野であるため、将来性は不透明である。なお、社名も10月から、マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズとなる。

 一方、トヨタは直系サプライヤーであるデンソー、豊田自動織機、アイシンとの関係見直しを急いでいる。関係会社で持ち合っていた株式を放出することで、EVシフトに対応しようとしている。株式売却で得た資金は電動化技術や将来的な技術開発に投入する計画だが、日本のメーカーやサプライヤーは世界的なEVシフトに出遅れているとの意識が強く、迅速な開発が求められている。

 さらに、デンソーはスパークプラグや排ガスセンサーといったエンジン関連事業を他社へ売却する交渉を進めている。この事業は同社が60年近く手がけてきたもので、EVシフトの影響の大きさを物語っている。デンソーは今後もエンジン関連の事業売却を進め、一気に電動車用サプライヤーへと生まれ変わろうとしている。

EV市場の縮小と未来の展望

マレリのウェブサイ(画像:マレリ)

マレリのウェブサイ(画像:マレリ)

 実は、体制変更をいち早く行ったのはかつて日産傘下にあったマレリ(旧カルソニックカンセイ)である。しかし、マレリは現在経営破綻を起こし、経営再建の真っ最中だ。

 カルソニックカンセイは日産系の直系サプライヤーとして、長年カーエアコンやコンプレッサーを手がけてきたが、2017年に米投資ファンドのKKRに売却され、直接的な資本関係がなくなった。その後、2019年にイタリアのマニエッティ・マレリを買収し、経営統合を行い、現在のマレリが誕生した。

 マレリは、日産向けだけでなくグローバルに部品を供給するメガサプライヤーとなり、EVシフトに対しても早期に開発資金を投入する動きを見せた。2021年には「eアクスル」という駆動系の部品供給能力を引き上げることを発表し、2025年に100万台規模を目指すなど、他の元直系サプライヤーよりもかなり動きが速かった。

 しかし、マレリは日産向けの業績不振やコロナによる減産の影響で経営環境が悪化し、2022年にはついに1兆円の負債を抱えて経営破綻に追い込まれた。その結果、せっかく立ち上げたeアクスル事業も売却し、EVシフトに対応する前に経営が追いつかなかった。

 現在、マレリは民事再生手続きによる経営再建中だが、資金難に陥っているとの情報もあり、EVシフトへの開発資金を捻出できる状況にはないと思われる。

 直系サプライヤーの事業は、自動車メーカーの業績や事業計画に大きく依存する体質がある。しかし、トヨタやホンダは関係性を見直して依存体質を減らす動きをしている。サプライヤー側としては、事業減少による売り上げ減少のなかで将来の開発資金をやりくりしなければならず、マレリの“二の舞”になるサプライヤーが出てくる可能性がある。また、世界的なEVシフトにも陰りが見え始めており、今後数年でさらなる変革期を迎えるかもしれない。

 なお9月6日、トヨタがEV生産を3割縮小することが明らかになった。しかし、2026年には150万台のEVを生産できる体制を維持する計画がある。トヨタはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の注力&強化に取り組みながら、EVの展開について再考する方針なのだろう。

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