カルロス・ゴーン氏「ホンダ主導の買収劇」を指摘! 日産・三菱自との「3社連合」は今後どうなるのか?

ホンダのロゴマーク。2022年11月8日撮影(画像:AFP=時事)

ホンダのロゴマーク。2022年11月8日撮影(画像:AFP=時事)

 2024年8月1日、ホンダ・三部(みべ)敏宏社長と日産自動車・内田誠社長が共同での記者会見を行った。両社長は2024年3月にも会見を開き、電動化・知能化時代に向けた戦略的パートナーシップの検討開始を発表したが、その時点では踏み込んだ内容はなかった。

 今回の会見では、両社による具体的な取り組みとして、主にふたつの契約内容が発表された。そのひとつは、次世代ソフト・デファインド・ビークル(SDV)向けプラットホーム領域での共同研究である。

 そしてもうひとつは、日産が約34%を出資する三菱自動車も、新たにこのスキームに参画する旨の覚書を交わしたことである。これらに加え、電気自動車(EV)バッテリーなど

・EV基幹部品の共通化
・車両の相互補完

などを進めていくことにも合意したとされる。

 ホンダ・日産・三菱の3社連合は“弱者連合”ともやゆされる。国内自動車メーカー各社は、トヨタグループ連合との

「2強体制」

に入ったとの見方が大勢を占めるなか、3社連合がどのような戦略を打ち出していくのか、注目が集まっている。

 そうしたなか、日産元CEOカルロス・ゴーンが、米国の自動車専門媒体オートモーティブニュースによるインタビューに応じ、3社連合に関して興味深い見解を示した。ルノー出身で、日産との経営統合に尽力した彼独自の視点から3社連合の行く末を見通している。

 本稿では、ゴーンによる見解を踏まえながら、3社連合が資本提携にまで踏み込む関係性へと発展するか、考察した内容を論じる。

ホンダ主導の買収劇

3社連合の各社の世界販売台数(画像:Merkmal編集部)

3社連合の各社の世界販売台数(画像:Merkmal編集部)

 オートモーティブニュースは2024年8月6日、レバノン在住のカルロス・ゴーンのインタビュー記事を掲載した。

 ゴーンは、8月1日に発表された3社連合に対する見解を求められたのに対し、今回の提携でホンダが主導権を握ることは当然の理で、

「disguised takeover(偽装買収)」

という言葉を用いて、

「ホンダ主導による買収劇」

に発展するに違いないと断言している。その根拠には、3社のうちでホンダが最も主導的な立場にあることを挙げている。

 3社連合の各社を世界販売台数で比較すると、

・ホンダ(407万台)
・日産(344万台)
・三菱自動車(81万台)

となり、3社間の序列は明らかである。また、2025年3月期第1四半期の営業利益では、ホンダが4847億円で過去最高の四半期益だったのに対して、日産は前年同期比99%減の9億9500万円と急失速し、三菱自も前年同期比21%減の355億1900万円だった。

 3社連合に対抗するトヨタグループ連合(トヨタ、ダイハツ、スバル、スズキ、マツダ)の世界販売は1600万台ほどで、3社連合の倍に近い規模を誇る。営業利益に至っては、トヨタ自動車だけでも1兆3084億円(前年同期比17%増)と3社連合を大きく引き離しており、“弱者連合”とやゆされるゆえんである。

 ゴーンはインタビューのなかで、

「協業を通じてできることは、全体のわずか5%程度にすぎない。残りの95%はお互いが腰を据えて、しっかりとしたリーダーシップを発揮しながら、仕事の分担を明確にしていく必要がある」

という言葉を残している。ルノーと日産の経営統合を主導したゴーンならではの発言だが、3社連合による資本提携が奏功するかは、まさしく

「いうはやすく行うは難し」

である。

ホンダ資本提携の可能性

日本人として初めて米国の自動車殿堂入りし、記者会見する本田宗一郎・本田技研最高顧問(東京・大手町のパレスホテル)。1989年12月25日撮影(画像:時事)

日本人として初めて米国の自動車殿堂入りし、記者会見する本田宗一郎・本田技研最高顧問(東京・大手町のパレスホテル)。1989年12月25日撮影(画像:時事)

 8月1日の記者会見でホンダ・三部社長は、資本提携について

「可能性として否定するものではない」

として、将来の方向性を示唆したとされる。

 日産がルノーや三菱自動車などと資本提携してきたのとは対照的に、ホンダは純血を守り通してきた歴史がある。ホンダは、1946(昭和21)年に本田宗一郎氏が静岡県浜松市で起業して以来、かつては英・ローバー、近年ではGM、ソニーなどと技術提携をしてきたが、資本提携に至ったことは一度もなかった。

 そのように純血を守り抜いてきたホンダだが、バブル経済崩壊後の1990年代半ばには倒産の危機にあったとされる。当時の国内市場はRVブームで、三菱自・パジェロを代表格する一大ブームが巻き起こっていた。

 実際、1995(平成7)年国内シェアを振り返ると、三菱自(10.8%)がホンダ(10.7%)をわずかながら上回り、三菱自がホンダを買収するのではないかといううわさまで流れていた。

 結局のところ買収劇は実現しなかったが、三菱自の国内シェアは当時が最高点で、その後に徐々に低下していった。一方のホンダは、RVニーズに応える形で、

・オデッセイ
・ステップワゴン

などを市場に投入して息を吹き返し、会社存続の危機を脱した。

 本田宗一郎は、他社との協業による共同成果を大切にしていたとされている。そうした創業者の思いを尊重しつつ、ホンダとして初めての資本提携へとかじを切るタイミングが迫っているのではないだろうか。

新興EV勢力との激闘

吉利汽車(ジーリー)のウェブサイト(画像:吉利汽車)

吉利汽車(ジーリー)のウェブサイト(画像:吉利汽車)

 3社連合が向かうところとして、トヨタグループ連合との対抗に加えて、中国EVメーカーやテスラ、リビアンといった新興EV勢力との競合が厳しくなる市場環境に立ち向かっていかなければならない。

 そうした課題を乗り越えるには、資本提携によって3社連合の結束をより強固なものにするとともに、

・日産と提携関係にある「ルノー」
・ルノーとパワートレインの開発・生産を担う合同会社ホースを折半出資する中国「吉利汽車」

までも巻き込んで、競合に打ち勝っていくために一丸となれるかが、今後の焦点となる。

 新たな巨大グループの形成は、かつて2000年代初頭に巻き起こった自動車メーカー各社による

「合従連衡」

を想起させる。自動車産業の勢力図を大きく塗り替える一大事が巻き起こるか、3社連合の今後の動向に注視していきたい。

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