大気汚染で年間4000人死亡! そんな渋滞ロンドンに登場した「信号システム」の驚きパフォーマンスとは

ロンドンの渋滞

日本の信号機(画像:写真AC)

日本の信号機(画像:写真AC)

 欧州で一番交通渋滞がひどい都市はロンドンである。2023年、それは過去最高レベルとなった。

 交通情報企業の米インリックス(INRIX)社が発表したデータによれば、2023年にロンドンのドライバーが渋滞に費やした時間は99時間、つまり

「年間4日間」

ほどを車のなかで無駄に、イライラしながら過ごしたことになる。

 この99時間という数字はパンデミック(世界的大流行)前の2019年より3%、2022年より2%増加したものだ。

 日本など調査対象外の国もあるが、同社発表の交通渋滞率グローバルランキングでは、ロンドンはニューヨーク、メキシコシティに次いで3位となっている。

英国国内では、ロンドンを筆頭に、

・バーミンガム
・ブリストル
・リーズ
・ウィガン

の順に交通渋滞がひどく、英国の平均的なドライバーは、2023年に渋滞のために約61時間、燃料費約558ポンド(約11万3145円)を余計に使ってしまったことになる。

 国全体としても渋滞による経済損失が大きい。

ロンドンの新しい信号

ロンドン(画像:写真AC)

ロンドン(画像:写真AC)

 しかしロンドンの交通渋滞におけるグローバルランキングは、2024年版ではぐっと下がるはずだ。2024年6月、ロンドンの交通信号システムが次世代型のものにスイッチしたからである。

 過去30年の間使われていたシステムでは、道路に埋め込まれた磁気探知機を使い、通過する自動車を検知し、それに基づいて信号のタイミングを調整していた。渋滞を管理し、ロンドン交通局のバスが遅れていれば、そこを優先させる。しかしその古いシステムでは、すべての人にとって効果的な最適化が困難だったという。

 新しいシステムは、バスだけでなく自動車、自転車や歩行者を含むすべての道路利用者にとって最適となるよう、青信号の時間を最適化できるのが特徴だ。

 この世界初のインテリジェント適応型交通信号システムは、ロンドン交通局とユネックス・トラフィック社によって開発されたものである。

 5日間の作業をともない、2週間ほどかけて、約6400か所の交通信号システムをクラウドベースのリアルタイムオプティマイザー(RTO)システムに、トラブルなくシームレスに移行することに成功した。グレーター・ロンドン全域の約4000の交差点、1500の横断歩道、1万6000台以上の交通検知器が、ロンドンの道路網に何ら影響を与えることなく、アップグレードされた。新しいシステムでは、

・移動時間
・交通の流れ
・事故への対応

が改善され、移動需要と道路網パターンに関するデータも向上する。

 このシステムをロンドンで実装する前に、ハンプシャー州で試験的に使用したところ、移動時間が

「3~14%短縮」

され、試験のすべての面で旧システムを上回ったという。ロンドンのドライバー個人ベースで考えると、車での移動時間が14%短縮されれば、年間14時間近く浮くことになる。「タイムイズマネー(時は金なり)」なので、時間を金額に換算するとそれなりに差が出てくるし、燃料費も変わってくる。

 CO2削減により、市内の空気の質が改善されることも、狙いのひとつである。ロンドンでは大気汚染により

・呼吸器疾患
・肺がん
・心血管疾患

等で年間約4000人が死亡していると考えられている。

 スムーズな交通ネットワークでは、交通事故も減る。死亡者や重傷者をなくすというロンドンの掲げる目標にも通じることになる。

日本の新しい信号システム

QTNN(画像:京都大学、住友電工)

QTNN(画像:京都大学、住友電工)

 東京の場合はどうか。

 都内には約1万6000基の信号機がある。その半分は、交通管制センターによってコントロールされている。

 同センターでは、信号機等に取り付けられた車両感知器により交通量を把握している。渋滞が発生したり、その拡大が見込まれたりした場合、職員が青信号の長さを数秒延ばすなどといった調整を行う。このマニュアル作業には、道路を映すモニターの確認などが必要であるため、渋滞の抑制に時間がかかってしまうこともあるという。

 そんななか、警視庁は渋滞を緩和する施策のひとつとして、2023年10月に新しい信号システムの導入を発表した。人工知能(AI)が過去の交通データから渋滞状況を予測したうえで、青信号の長さをコントロールするものだ。

 このAI「QTNN」は、交通量や平均速度といったデータを基に30分後の渋滞の長さを予測する。その誤差は40m以下になる。開発に関わった住友電工によれば、交通渋滞の有無や長さを予測するのは難しいとされていたが、

「交通工学の知見と、近年注目を集める深層学習と交通ビッグデータを融合」

することで実現できたという。交通渋滞が予測できれば、それを先回りして信号でコントロールでき、渋滞の発生防止ができるという考えに基づく。

 AIを使った信号システムは、中国の一部都市やインドネシアのジャカルタでも導入が発表されている。

 各国それぞれの交通事情があるだろうが、それぞれが違った考えをベースにして信号システムを開発しているのであれば、何が一番効果的なのか、情報を共有していってほしいものである。どの国においても、ベストな信号システムを持てたら世の中がぐっとよくなるはずだ。

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