米国EVメーカー「フィスカー」経営破綻! EVアンチが素直に喜べない「3つの破綻原因」とは

1億ドル超の負債

オーシャン(画像:フィスカー)

オーシャン(画像:フィスカー)

 米国カリフォルニア州を拠点とする新興電気自動車(EV)メーカーのフィスカーは2024年6月17日、デラウェア州において連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請し、事実上の経営破綻に至った。

 同社が申告した内容によると、負債総額は1億ドルから5億ドル(約160億~800億円)とされる。また、同社は声名で資金調達と資産売却に関する協議を行っていると明らかにした。

「次のテスラ」

と称され、フォルクスワーゲンから合弁事業として最大50億ドルの投資を受けることで話題となったリビアンやルーシッドとともに米国の新興EVメーカーの成長株と目されていた同社について、本稿では

・経営破綻に至った根本原因
・今後の米新興EVメーカーの展望

を最新動向から読み解く。

3月ごろから急激に経営悪化

オーシャン(画像:フィスカー)

オーシャン(画像:フィスカー)

 フィスカーは日本ではあまりなじみがない。そのため、概要についてまず触れておきたい。

 同社は、デンマーク出身でBMWやアストンマーチンでカーデザインを手掛けたヘンリック・フィスカー氏が、EVの製造を目的として2016年に設立した。2020年にニューヨーク株式市場に上場し、わずか2年後の2022年11月には初のEVとなる

「オーシャン」

の生産を開始、翌年6月から納車を開始した。

 自動車業界では異例のスピードで会社設立からEV量産へこぎ着けたが、発売直後から

・走行中の電源喪失
・ブレーキの制動力喪失

など複数の不具合が報告され、少なくとも6人から訴訟を受けたとされている。米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、2024年1月から制動力喪失に対して、また同年2月にはパワートレイン不具合に対する調査を開始した。

 この調査が始まったことを契機にフィスカーは経営悪化の一途をたどり、調査開始直後の株価は1ドルを割り込んだ。2024年3月に発表された2023年第4四半期決算の最終損益が4億ドル超の赤字と発表されると株価は15セントまで急落した。

 同月には6週間に渡る生産一時停止に追い込まれ、破産申請に向けた準備が進められているとも報じられた。一時は、日産自動車が出資するとの臆測も流れたが出資者は現れず、経営破綻に至った。一見するとフィスカーが経営破綻に至った直接的な原因は、

「急激なEV需要の減速」

にあるように捉えられるが、実はフィスカーが抱えていたいくつかの

「根本的な原因」

によって引き起こされたと考えるのが妥当である。

破綻に至った三つの根本原因

フィスカーのウェブサイト(画像:フィスカー)

フィスカーのウェブサイト(画像:フィスカー)

 フィスカーが経営破綻に至った根本原因は、主に三つある。

 まず第一に、フィスカーのラインアップがスポーツタイプ多目的車(SUV)に特化していた点である。SUVのようなクロスオーバーと呼ばれる車種は売れ筋とされ、そこにフォーカスしたマーケティング戦略は順当といえる。

 しかし裏を返せば、各社が競い合うマーケットであり、競争は激しく、他社との差別化なくして生き残れない。オーシャンは6万ドルからという価格設定に対して、航続距離が360マイル(約576km)、出力564HPなど、特筆するようなパフォーマンスはなく、他社に抜きんでる点は見当たらなかった。加えて、コンシューマーリポート誌など米国で試乗リポートを掲載する自動車雑誌は、ことごとくオーシャンを酷評し、魅力あるクルマ作りができていなかった。

 次に挙げられるのは、EVメーカーとして致命的ともいえるほど品質問題が頻発した点だ。フィスカーは2020年の会社設立後、自動車業界として異例の早さでEV開発を成し遂げたとされた。しかし、実態は不完全なままで新車を世に送り出し、後からオーバー・ジ・エア(OTA)と呼ばれるソフトウエアの自動更新によって装備を拡充する策を取っていた。これが完全に裏目となり、予定していたタイミングでソフトが更新されず、ソフト自体にも不具合が見つかることが幾度となく繰り返され、市場での信頼を失った。

 さらに、フィスカーが投資を抑えるために取った策として、マグナ・シュタイヤー(オーストリア)へEV生産を委託するファブレス形態を取った点も根本原因のひとつとして挙げられる。投資を抑えるアセットライトな経営手法を取り入れ、固定費負担を軽減するメリットはあったが、生産に関する知見が社内に蓄積されなかったことがあだとなり、品質問題への対応が後手に回った。

 一説では、フィスカーは、販売当初から十分なアフターパーツの在庫を確保しておらず、部品交換に数か月を要していたとされる。EV1台をまるごと解体して、交換部品を抜き取っていたほどだったという話もあり、品質問題が噴出していたなかで部品在庫の確保にも相当に苦労していたようだ。

 このように、フィスカーの経営実態としては、自動車メーカーとして

「機能不全」

に陥っており、経営破綻はいわば当然の結果であったといえよう。オーシャンの販売目標は2万3000台だったが、生産されたのは1万台あまりで、そのうち5000台は販売されずに在庫のままに終わったという悲劇的な結末を迎えた。

米新興EVメーカーの今後

ルーシッド本社(画像:ルーシッド)

ルーシッド本社(画像:ルーシッド)

 新興EVメーカーの多くは、多額の負債を抱えたままで起業し、量産が進むにつれて負債を減らして経営を安定化させていく経営スタイルが通例となっている。米新興EVメーカーのリビアンやルーシッドもご多分に漏れず、赤字から脱却できずにいるのが現状だ。

 両社が公表した2024年第1四半期決算によると、

・リビアン:約14億ドル(約2200億円)
・ルーシッド:約7億ドル

の赤字だった。このような経営状況下において、両社とも資金調達の道筋を確実なものにして、積極的な事業拡大を展開している。

 前述のとおり、フォルクスワーゲンは2024年6月25日、リビアンとの合弁会社設立と、最大で50億ドル(約8000億円)の出資を発表した。これにより、リビアンが2026年以降に投入予定の小型SUV「R2」やクロスオーバー「R3」の開発に必要な資金を確保できる見通しとなったが、両社は今後、EV用アーキテクチャやソフトウェアを共有すると見られている。

 また、この発表に先んじてリビアンは、三菱自動車から買い取ったイリノイ工場拡張に15億ドルを投資することを発表していた。一時は、ジョージア州に新工場建設を検討していたが、一時停止の状態でイリノイ工場の立て直しに注力する。

 一方のルーシッドは、サウジアラビア公的資金基金PIFから潤沢な資金援助を受けており、サウジアラビアとアリゾナ州での生産は順調に立ち上がっている。また、電動パワートレインの外販にも取り組んでおり、アストンマーチンとはすでに契約を交わし、現代自動車の高級ブランドであるジェネシスも購入を検討中と伝えられている。

 さらにルーシッドは、経営破綻したフィスカーが販売していた「オーシャン」の使用許可を米国特許庁に2024年5月30日に申請した。ルーシッドの3車種目となるSUVへの適用を検討しているようだが、業界では車名を他社とかぶせないのが不文律となっている。

 ルーシッドがあえてオーシャンを冠したEVを世に出すのであれば、よほどルーシッド版「オーシャン」に自信があるのだろう。ルーシッドのお手並み拝見と行きたいところだが、オーシャンがもたらした不運がルーシッドに及ぶことがないよう祈りながら、本稿の結びとする。

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