日産、米EVメーカー・フィスカーへの600億円投資に成算は?

日産自動車<7201>が米電気自動車(EV)スタートアップのフィスカーに4億ドル(約600億円)規模の投資をするとの報道が飛び出した。日産は資本関係がある仏ルノーのEV新会社・アンペアに出資する予定で、フィスカーへの出資が日産のEV戦略にどう位置づけられるのか注目されている。

財政難のフィスカーの頼みの綱となる日産

報道によると、日産は2026年からフィスカーの米国生産拠点でピックアップトラック型EVを量産する方向で協議を進めているという。このフィスカー、業績が好調な米EV大手のテスラと対照的に業績不振に陥っている。同社は「継続企業の前提」に重要な疑義があると開示しており、株価は4日終値で48セント(72円10銭)と1ドル(150円21銭)を割っている。

時価総額は2億5800万ドル(約388億円)で、4億ドルと伝えられる日産の出資額ならば完全子会社化してもお釣りがくる。日産がフィスカーを買収するのか、それとも工場の設備投資を支援するだけなのかは明らかではない。

フィスカーはデンマーク人自動車デザイナー、ヘンリック・フィスカーと夫人のジータ・グプタ・フィスカーが2016年10月に設立したEVスタートアップ。2020年7月にルイ・ベーコンの民間投資部門ムーア・ストラテジック・ベンチャーズから5000万ドル(約75億円)のシリーズC資金調達に成功した。

同10月には特別買収会社(SPAC)のスパルタン・エナジー・アクイジション・コーポレーションと合併して、ニューヨーク証券取引所で新規株式公開(IPO)を果たしている。この時点でのフィスカーの評価額は29億ドル(約4360億円)に達した。

2023年5月にSUV(スポーツ多目的車)EVの「フィスカー・オーシャン」を発売したが、同年の納入台数は4929台に留まっている。そのため同年に4億6300万ドル(約696億円)超の純損失を計上。2024年3月にフィスカーの財政難が明らかになり、従業員の15%削減や小型EV「Pear」開発の一時停止を余儀なくされた。

これを受けて日産と資金提供交渉に入ったのだ。2025年にはピックアップトラック型EVの「フィスカー・アラスカ」を発売する計画で、日産と交渉中の資金で生産工場を建設することになる。

日産にとってのメリットは?

フィスカー氏は2007年に米連邦政府からの 5億2900 万ドル(約800億円)の融資を含む公的・民間投資で10億ドル(約1500億円)超の資金調達に成功し、フィスカー・オートモーティブを設立。同社はプラグインハイブリッド車(PHV)の「フィスカー・カルマ」を開発したが、発売延期が繰り返されて世界中で約2000台を販売した時点で経営破綻した。

2014年2月にPHV事業は中国自動車部品大手の万祥グループに買収され、フィスカー・オートモーティブは消滅する。現在のフィスカーは、10年前のフィスカー・オートモーティブと非常に似た状況だ。今回の資金提供は万祥グループ同様、事業譲受に向けた動きの可能性もある。

しかし、稼働するEV工場を手に入れた万祥グループと違い、「フィスカー・アラスカ」の生産ラインは完成していない。フィスカーの経営が行き詰まれば、日産が得るものはほとんどない。工場稼働前にフィスカーが倒産するリスクを考えれば、4億ドルは自社EV工場の整備に回す方が得策と言える。

4億ドルでフィスカーを買収するとしても、同社の純資産は7988万ドル(約120億円)に過ぎず、3億ドル(約450億円)を超えるのれんが発生することになる。倒産寸前の会社に対しては、かなり割高な買収金額と言えるだろう。

さらに日産は資本提携しているルノーのEV新会社アンペアに出資している。純投資であれば分散によるリスク回避効果はあるが、事業投資となると話は別。全く別のプラットフォームでEVを展開するのは効率が悪い。EVで先行しながら、今や追いかける側になってしまった日産にとってメリットがある出資なのかどうかは疑問が残る。

文:M&A Online

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