ウクライナへの航空支援拡充! 早期警戒機「サーブ340AEW」がもたらす戦局の“転換点”をご存じか

ウクライナ支援の新戦略

スウェーデン空軍のサーブ340AEW-300 2機(画像:スウェーデン軍)

スウェーデン空軍のサーブ340AEW-300 2機(画像:スウェーデン軍)

 5月29日、スウェーデンがサーブ340改造の早期警戒管制機(サーブ340AEW)を2機、ウクライナへ供与すると発表した。1990年代末期からスウェーデン空軍が使用していたもので、空中および洋上の監視や味方戦闘機の管制能力などを有するAEW&Cと呼ばれる機種だ。

 当初スウェーデンからの供与が期待されたのはグリペン戦闘機だったが、スウェーデンのヨンソン国防相はグリペンの供与計画を停止したことを発表している。これは、既にノルウェー、オランダ、デンマーク、ベルギー各国からF-16戦闘機の供与が決まっており、ウクライナが優先すべきは

「F-16の戦力化」

だという判断だ。ウクライナが今後受け取る予定のF-16は総数85機に上っており、4個飛行隊の編成が計画されているという。2機のサーブ340AEWと4個飛行隊のF-16は、現在では最新兵器とまではいえないが、ウクライナ国防軍にとって力強い援軍であることは間違いない。

 これに続いて6月6には、フランスのマクロン大統領がミラージュ2000-5戦闘機の供与計画を明らかにした。3月には、フランスが極秘裏にウクライナ軍パイロット30人にミラージュ戦闘機の訓練を行っているとフランスのフィガロ紙が報じ、ウクライナ当局が否定する一幕があったが、ミラージュ2000の供与計画は着々と進んでいたのである。

 これまでウクライナ国防軍はAEW&C機を保有していなかったが、ロシアによる侵攻以前から、北大西洋条約機構(NATO)側の偵察衛星や早期警戒管制機(AWACS)などが収集した情報がウクライナに提供されていることは、周知の事実となっている。それらに加えて、今後はウクライナ国防軍が自前のAEW&C機を持つことで、ウクライナ領土内から柔軟な運用が可能になる。

AEW&Cの戦略的役割

デルタ・システムのログイン画面(画像:ウクライナ国防省イノベーション・防衛技術開発センター)

デルタ・システムのログイン画面(画像:ウクライナ国防省イノベーション・防衛技術開発センター)

 AEW&C機は、上空から探知捕捉した敵味方の情報を、音声やデータリンク通信で味方戦闘機や地上部隊に送信する機能を持っている。

 内外の報道では、サーブ340AEWがF-16やミラージュ2000と同様に、西側諸国の使用するLINK-16データリンクに対応していることから、AEW&Cと戦闘機を連携させた運用の可能性が示唆されている。しかし、LINK-16データリンクに対応しているのは、西側の供給する戦闘機だけではない。ウクライナ軍の情報基盤システムである

「デルタ・システム」

そのものが、既にLINK-16に対応しているのだ。デルタ・システムは、ウクライナ国防省の防衛技術革新開発センターが民間非政府組織(NGO)「アエロロズヴィドカ」とともに、2015年から開発を進めた軍事状況認識プラットホームだ。

 このシステムは、さまざまな情報源からの情報をデジタル・マップ上に統合して、

・ラップトップPC
・タブレット
・スマートフォン

など、あらゆるデバイスで利用可能とするものだ。陸海空すべての戦場において、戦闘空間の膨大な情報をリアルタイムで共有できる、戦闘のための状況認識ネットワーク・システムなのである。

 デルタ・システムのプロトタイプは2016年に導入され、ロシアによる侵攻が始まる前の2019年には、年次演習CWIX-2019でNATOシステムとの互換性確認も行われている。これによって、ウクライナの兵士たちは、インターネットに接続してログインするだけで、

・ドローンや偵察衛星の画像
・傍受された無線情報

など、数十のソースから収集された情報リソースを利用できるようになった。ロシア軍の侵攻時には、プロトタイプ段階のデルタ・システムが運用されており、キーウ攻防戦やスネーク島の奪還作戦で、ウクライナ軍の善戦を支えている。

デルタ・システム全面展開

スウェーデン空軍のページ(画像:スウェーデン国防軍)

スウェーデン空軍のページ(画像:スウェーデン国防軍)

 デルタ・システムがウクライナ軍に全面展開されたのは2023年2月だが、2023年6月のNATO年次演習CWIX-2023では、本システムでLINK-16データリンクによる情報共有が可能なことも証明されている。サーブ340AEWによって取得された情報もデルタ・システムで共有できるとなれば、ウクライナ全軍がAEW機の探知した情報を使用できることになる。

 サーブ340AEWは、低空を飛行する巡航ミサイルやヘリコプターなど、地上レーダーでは探知しにくい脅威を、遠距離から探知することが可能である。その情報がデータリンクでデルタ・システムへ送られれば、F-16やミラージュ2000戦闘機だけでなく、地上防空部隊や前線部隊にとっても重要な情報リソースになる。

 サーブ340AEWが搭載するASC 890レーダーは、

・戦闘機:300~400km
・巡航ミサイル:約150km

の距離で探知できるという。ウクライナの西部や中部地域の上空から、東部での航空作戦を支援することも可能だし、より東部へ進出させれば、巡航ミサイルやドローンなど小型目標への対処も可能だ。サーブ340AEW にはNATOが装備するAWACSほどの能力はないものの、うまく使えばウクライナ軍の作戦能力を大きく向上させる。

 現在ウクライナは守勢に立たされていると報じられているが、航空戦力のバランスが変化することで、

・ウクライナ軍による戦線の巻き返し
・戦争の長期化

をもたらす可能性もある。加えて西側各国は、自国が供与した兵器をロシア領内の攻撃に使用することを認めるようになっており、西側諸国による一連の航空兵器供与は、ウクライナの戦争に新しい展開をもたらすかもしれない。

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