LCC「地方路線」は助成金依存から脱却できるか? 目指すべき「3つの成長戦略」を解説する

LCC助成金の実態

LCCのイメージ(画像:写真AC)

LCCのイメージ(画像:写真AC)

 日本に格安航空会社(LCC)が誕生して10年以上が経過し、近年は地方路線でも定着してきた。観光客誘致のために路線開設を呼びかける自治体も多い。

 しかし現実には、自治体や空港会社からの助成金や利用料免除によって、LCCの地方路線が多く就航している。

 こうした助成金は年々減額されるケースもあり、近年では手厚い支援を受けているにもかかわらず、コロナ禍でLCCが撤退に追い込まれるケースも出てきている。

 今回は、LCCに対する助成金などの支援制度の実態を説明した上で、LCCの発展を促進するための成長戦略を紹介する。

地方空港、LCC誘致の舞台裏

空港(画像:写真AC)

空港(画像:写真AC)

 これまで地方自治体は、近隣の空港への路線を維持・拡大する目的で、航空会社に対して着陸料の免除や助成金を支給してきた。かつては、JALグループやANAグループなどフルサービスキャリアが運航する路線に使われることが多かったが、近年はLCCにも使われ始めている。

 一例として、北海道北中部の旭川市では、1便あたりの助成金(100席以下5000円、101~150席1万円、151席以上1万5000円)、冬季の凍結防止のためのアイシング助成金(3分の1補助)、新規路線開設助成金(販促費の2分の1)、路線をPRするための広告宣伝費・事務費などの補助を行っている。

 これらの支援制度は日本のすべての航空運送事業者に適用されるが、対象となる2空港はいずれもLCCが拠点とする国内空港であるため、実質的にLCC向けの支援制度として機能している。旭川市の支援もあり、LCCのひとつであるジェットスター・ジャパンは、2023年12月から旭川空港から成田空港、関西国際空港への路線を運航している。

 同様の助成金として、北海道東部の大空町では「大空町女満別空港LCC就航路線利用促進助成金」、奄美大島では「奄美群島誘客周遊促進事業」がある。徳島県では、2023年に就任した後藤田知事が成田空港や海外からのLCC誘致を大きな政策として掲げている。2024年5月現在、四国4県で唯一LCCが就航していないが、将来の就航に向け、多言語環境の整備など県内観光施設での受け入れ態勢の強化に取り組んでいる。

新規就航割引の航空戦略

LCCのイメージ(画像:写真AC)

LCCのイメージ(画像:写真AC)

 地方空港ではないが、多くのLCCの拠点空港である成田空港は、羽田空港や仁川国際空港(韓国)などの海外空港に対抗するため、ネットワークの拡充に努めており、その結果、さまざまな割引制度が存在している。

 具体的には、2015年に導入され、2019年に拡充された「新規就航割引」を指す。これは、航空会社が成田空港を出発する新規路線を開設する際、就航から3年間、着陸料の割引を受けられるというものだ。

具体的には、成田空港発の新規路線の場合、初年度は100%、2年目は70%、3年目は40%の着陸料が免除される。航空会社の新規就航路線は、初年度50%、2年目30%、3年目10%の着陸料が免除される。

 このほか、午前中の着陸料が3年間無料になる、前年より増便・大型化した場合の着陸料が50%割引になる(新規路線を除く)などの割引がある。

 新規就航割引の導入以降、成田空港発のLCCネットワークは、札幌、福岡、那覇などの主要都市だけでなく、地方都市にも拡大し、その効果が表れている。

LCC運休、地方空港の課題

空港(画像:写真AC)

空港(画像:写真AC)

 しかし、手厚い助成金とは裏腹に、ここ数年、地方空港から成田や関西へのLCC便の運休や減便の動きが相次いでいる。

 なかでもジェットスター・ジャパンの成田~庄内線は、山形県が空港カウンター設置などに7000万円を支援し、2019年に就航したが、コロナ禍の影響で就航から1年足らずで撤退。2020年以降、関空~福岡、熊本、高知、中部~新千歳、鹿児島などの路線を運休し、コロナウイルスの影響が少なくなった現在も運休したままだ。

 また、ピーチの成田・関空~奄美線は2024年から夏を中心とした季節運航に縮小され、成田~女満別、成田~釧路、成田~宮崎などの路線も運休している。

 JALの子会社となった春秋航空日本は、成田~新千歳、成田~広島線を除く全路線から撤退した。特に奄美路線は合併前からバニラエアが開設していた路線で、若者を中心に観光客を大幅に増やしてきた路線だけに、今回の結果を残念に思う人は多いだろう。

 また、コロナ禍の影響や輸送人員の伸び悩みなど需要サイドの要因もあるが、パイロットをはじめとする人材不足や成田空港・関西国際空港の混雑の影響など、航空会社のリソース配分も大きく影響している。

 実際、前述のピーチは、札幌や那覇などの主要路線を増便し、限られた機材や人員を有効活用している。助成金で手厚く保証され、人気路線になったにもかかわらず、路線網を維持できない日本のLCCは、特殊で厳しい状況にあるといえるだろう。

地方LCC、観光振興の課題

LCCのイメージ(画像:写真AC)

LCCのイメージ(画像:写真AC)

 では、近年縮小傾向にある地方のLCC路線を維持し、増便や新規路線の開設など発展につなげるにはどうすればいいのか。

 まず、助成金については、LCC新規路線への補助だけでなく、他の目的も含めた航空路線全般への助成金など、やるべきことはありそうだ。

 例えば、LCCの減便で観光客の減少が懸念される奄美市では、住民や元住民の帰省を支援するために「離島航空割引カード」という割引が設けられ、奄美群島から鹿児島や那覇に向かう路線に割引運賃で乗れる保証がある。

 しかし問題は、この割引カードがJALグループ3社(日本航空、日本エアコミューター、琉球エアーコミューター)にしか使えないことだ。これでは住民はLCCを利用するインセンティブが低く、需要は期待できない。

 仮に会社に制限がなければ、県庁所在地で商業・行政関連の需要がある鹿児島市や、アジア各地へのアクセスが容易な那覇市へのアクセス需要があり、住民の通年利用が期待できる。奄美~鹿児島間や奄美~那覇間に就航すれば、観光ルートに組み込みやすく、成田や関空以外からの新規路線候補として期待できる。

 LCCの就航を支援するためには、こうした航空路線に対する新たな助成金を創設することに加え、LCCの路線網拡大を目指すのであれば、地域内の既存の支援策の内容を見直し、より多くの航空会社が活用しやすい制度を作ることも重要ではないだろうか。

 また、LCCを利用することで航空運賃が安くなったとしても、ホテル代や公共交通の運賃、レンタカー代など、域内の移動にかかる費用が結局高くなってしまい、結局旅行に行けなくなってしまうという大きなデメリットもある。

 そのため、今後はゲストハウスや地元のバス会社、タクシー会社などと連携し、LCC限定のパッケージプランを充実させていくことが重要になるだろう。海外では、すでに東南アジアのエアアジアなど大手LCCが、

「飛行機には乗れるが、現地で泊まるホテルが見つからない」

という声に応え、独自のホテルブランドを展開している。日本でも大手旅行会社を中心にLCC利用プランが充実しつつあるが、今後は自治体も含めた推進が必要だろう。

 さらに、コロナ禍以降、普及が進んだ航空貨物輸送も大きな役割を果たすと予想される。都市部のLCCの拠点である成田空港、関西国際空港、中部国際空港は、以前から国際貨物路線が充実しており、周辺には倉庫会社や物流会社も多い。この地の利を生かし、周辺地域からの電子部品、衣料品、農産物、水産物等の輸送を可能にするため、航空会社と連携して路線を維持することも重要な施策であろう。

観光振興とLCCの相乗効果

空港(画像:写真AC)

空港(画像:写真AC)

 LCCの地方路線が就航する際、航空使用料や知名度向上などのハードルのために助成金が必要になるのは間違いない。

 しかし、就航後は、助成金に頼るばかりでなく、

・航空関連支援策の見直し
・パッケージツアーの充実などの観光誘致策
・継続的な貨物需要喚起策の実施

の三つが必要となる。

 しかし、東京~札幌、福岡、那覇などの主要幹線と異なり、地方路線はフルサービスの大手航空会社でも小型機を使用する傾向があり、B777やA350などの大型機による座席数の増加で低運賃を実現することは難しい。

 それだけに、「コスト削減による低運賃」といったLCCのメリットを生かしやすいともいえる。今後のLCCと自治体の工夫に期待したい。

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