テスラ充電器部門「閉鎖」の衝撃! EV市場“需要鈍化”に新たな課題、影響は国内メーカーにも

充電器部門閉鎖の衝撃

テスラは独自の急速充電器「スーパーチャージャー」(画像:テスラ)

テスラは独自の急速充電器「スーパーチャージャー」(画像:テスラ)

 米国に本社を置くテスラは、電気自動車(EV)に特化した世界最大級の自動車メーカーだが、同社の充電器部門が2024年4月末で閉鎖され、従業員の削減が進められている。

 テスラは高級EVを開発・生産しており、その革新性は世界をリードしてきた。名だたる大手自動車メーカーよりも先進的な技術や生産方式を取り入れ、高品質なデザインが高く評価され、米国だけでなく欧州、中国、日本など世界各地で販売台数を伸ばしてきた。
現在までに全世界で約600万台を販売している。

 テスラはEVそのものの開発だけでなく、バッテリー充電器部門を持ち、テスラのEVに対応した急速充電器を開発してきた。EVは車両に搭載された駆動用バッテリーの電力のみで走行するため、バッテリー容量が航続距離の長さに直結するが、走行中に途中で充電することで航続距離を伸ばすことができる。

 普通電源による充電では、満足のいく航続距離を得るために数時間の充電が必要だが、専用設備による急速充電は数十分で済むため、EVの普及には非常に重要な技術である。

 急速充電器の規格は世界中にさまざまあるが、テスラは独自の急速充電器「スーパーチャージャー」を持っており、対応の急速充電ポートが設置されている。

 同社のEV販売台数の増加にともない、スーパーチャージャーはさらなる普及に向けて開発が加速している段階と思われたため、充電器部門の突然の閉鎖は衝撃的だった。

EV充電器、規格争いの歴史

世界の急速充電器規格(画像:いのうえみつみ)

世界の急速充電器規格(画像:いのうえみつみ)

 テスラが独自に開発したスーパーチャージャーは、実は世界標準になりかけていたのだが、今回の事態を受け、その先行きは不透明となった。

 EV用急速充電器は、スーパーチャージャーのほかにもさまざまな規格が併存しており、世界的に統一されたものは存在しない。は10年以上前から争われており、米国だけでなく、日本や中国なども自国の規格を世界標準にしようと動いている。

 性能や通信方式などの仕様に大きな違いはないものの、コネクタ形状はそれぞれ異なり互換性がないため、統一規格を採用すれば多大な利権が得られる。かつては米国を中心としたCCS(複合充電システム)が有力候補と見られていたが、2022年にテスラが独自規格のNACS(北米充電規格)を発表すると、一気に世界標準の有力候補となった。

 NACSはテスラ車専用の規格だったが、テスラが規格情報を公開すると、多くの自動車メーカーがNACSへの支持を表明した。米国ではNACSコネクタの規格化により、政府からの補助金などが期待されている。また、従来のスーパーチャージャーが大量に設置されていることも、自動車メーカー各社がNACSに対応するメリットを見いだすきっかけとなった。

 米大手自動車メーカーのゼネラルモーターズやフォード、欧州のフォルクスワーゲンもNACSへの支持を表明しており、もはや急速充電器規格では実質的にテスラの一人勝ちの様相を呈していた。

 こうしたなか、テスラは開発部門を閉鎖し、今後の普及に向けた動きも見えないことから、急速充電器の規格争いが再燃する可能性もある。米国内でテスラと提携して、急速充電器の設置を検討していた企業も今回の閉鎖で不可能となり、予想以上に多くの企業が影響を受けることになりそうだ。

国産メーカーにも影響

テスラのEV用急速充電規格NACS用の充電コネクタ(画像:テスラ)

テスラのEV用急速充電規格NACS用の充電コネクタ(画像:テスラ)

 海外メーカーだけでなく、国内メーカーもすでにNACSへの支持を表明しており、今後のEV開発に影響を与えそうだ。

 国内メーカーで最初にNACSへの支持を表明したのは日産自動車で、2024年以降に発売するEV「アリア」と、それ以降に開発するEVにNACSコネクタを使用できるアダプターや充電ポートを設置するとしている。

 アダプターはアリアのもともとの充電ポートと他規格を接続する暫定的なものだが、それ以降のEVにはNACSになるため、規格統一に向けた動きといえる。

 トヨタは現在、量産EVをかなり限定的に販売しているが、2025年以降に販売するEVにはNACSを採用すると発表しており、今後のEV事業拡大にはテスラの存在が欠かせない。

 2023年から2024年初頭にかけて、多くの自動車メーカーがNACSへの同様の対応を発表するなか、開発に携わるテスラがEV業界全体にブレーキをかける状況は、EV業界の停滞を招く可能性がある。

 現在、世界的なEV需要の伸びが鈍化し、テスラ自身の販売台数も初めて前年割れに転じている。テスラは大胆なコスト削減や方針転換をたびたび行っており、充電器部門の閉鎖は再編への足がかりと見ることもできるが、世界中のメーカーを巻き込みかねない事態だけに、今後の動向に注視が必要だ。

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