「車内ガラガラ」「都心部と思えない」 京阪電鉄・IR撤退リスクで中之島線延伸の判断先送り、夢洲はまた“負の遺産”に逆戻りか?
朝以外は車内ガラガラ
京阪ホールディングス(HD)は大阪市を走る京阪中之島線延伸について判断を先送りした。夢洲で2030年に開業を予定する統合型リゾート(IR)の先行きが不透明なためとしている。東西3km、南北最大300mの細長い形で堂島川と土佐堀川の間に位置する大阪市北区の中之島。
大阪市役所、日本銀行大阪支店、大阪府立国際会議場などが並ぶ都心部の一角だが、この地下を東西に鉄道が走る。2008(平成20)年に開業した京阪電鉄の中之島線だ。
中之島線は北区の中之島駅から中央区の天満橋駅を結ぶ3km。駅は五つで、うち
「4駅」
が中之島にある。島内4駅で最も東に位置する北区のなにわ橋駅から中之島駅行きの電車に乗った。通勤時間でないからか、車内はガランとしている。乗客の男性に聞くと
「朝以外はこんなもんや」
都心部と思えない乗降客数
大阪府によると、2021年度の1日平均乗降客数は4駅合計で約2万1000人。大阪府内の短距離路線であるJR桜島線や阪急箕面線と比べても、3分の1以下だ。なかでもなにわ橋駅は約2200人と
「都心部と思えない数字」
が出ている。地下鉄空白地帯に敷設されたが、それが乗り換えの不便さを生み、開業前需要予測の1日7万2000人に達したことがない。
京阪ホールディングスは現状打開の方策として中之島駅から西区の九条駅まで約2km延伸する構想を持つ。
九条駅を通る大阪メトロ中央線はカジノを含むIRが整備される此花区の夢洲へ延伸する。中之島線を夢洲へのアクセスにするとともに、IRを訪れた観光客を京都市へ運ぶ狙いがある。
IR事業者の解除権行使を警戒
京阪HDは2023年度、IRが開業を予定する2030年度開通に向け、工事に着手するかどうか検討していたが、結論を先送りし、2030年開通を断念した。
大阪府市と事業者の大阪IRが2023年に結んだ実施協定に2026年9月末まで事業者が違約金なしに撤退できる解除権が盛り込まれたことをリスクと判断したためだ。京阪電鉄は、
「延伸したい気持ちはあるが、工事に着手して解除権が行使されれば大変なことになる。解除権の期間が過ぎるか、解除権が行使されないと確信できるまで判断を待ちたい」
と説明した。
負の遺産・夢洲に市民は複雑な感情
京阪HDの判断先送りについて、大阪府市のIR推進局は
「中之島線は構想段階。IR整備計画のアクセス路線に入っていない」
と述べ、影響はないとの考えを示した。だが、京阪HDは地元企業など20社で組織する大阪IRの少数株主に入っている。
IR計画の初期投資額約1兆2700億円のうち、出資額は約7200億円。中核株主の米MGMリゾーツの日本法人・日本MGMリゾーツとオリックスが約43%ずつ、少数株主20社が約15%の比率だ。京阪HDの出資額は大きくないが、市民の間で
「株主が判断を先送りする以上、撤退があるのでは」
などのうわさが出ている。
大阪IRの事業計画では、資金調達など会社のかじ取りを中核株主の2社で進めるとしている。常識的に考えて中核株主が少数株主に撤退情報などを漏らすとは考えにくい。京阪HDもうわさを否定している。それなのに、疑念が上がるのは、夢洲が大阪市の
「負の遺産」
となってきた過去に市民が複雑な感情を持つからだろうか。
夢洲のイメージ問題
夢洲は大阪湾に浮かぶ広さ約390haの人工島。大阪市が1977(昭和52)年、埋め立て免許を取得し、大阪港のしゅんせつ土や公共工事の建設残土、廃棄物で埋め立てた。6万人が居住する新都心とするテクノポート計画も打ち出している。
だが、構想はバブル崩壊でとん挫した。その後の1990年代は大阪五輪の選手村を整備する計画が浮上したものの、五輪招致に失敗して跡地利用が宙に浮く。
大阪市だけで
「3000億円」
ともいわれる巨額の投資をしながら、夢洲にはコンテナターミナルや物流センターが一部にできただけ。大半は長い間、手つかずの状態で放置されてきた。その結果、夢洲は「負の遺産」と呼ばれるようになる。
大阪維新の会は「負の遺産」解消を目指し、IR誘致に踏み切ったが、夢洲に対する悪いイメージはぬぐいきれない。夢洲を会場に開幕まで1年を切った大阪・関西万博の混乱も影響しているように見える。
大阪・関西万博も問題噴出
大阪・関西万博も夢洲を有効活用するために、大阪維新の会が先導した。本来なら開幕まで1年を切り、世論の期待が高まっているはずなのだが、連日のように悪いニュースが流れ、SNS上には
「万博中止」
のハッシュタグが目立つ。コロナ禍の開催で開幕前に中止論が高まった東京五輪を再現するようだ。
国家的イベントとして多額の税金が投入される会場整備費は
「当初予定の約2倍」
となる2350億円に膨らんだ。
海外パビリオンは建設スケジュールが大幅に遅れ、吉村洋文大阪府知事は各国が自前で建てる「タイプA」が予定の7割に当たる40前後にとどまるとの見通しを明らかにした。前売り券の販売も伸びず、赤字の懸念が出ている。
地盤沈下・可燃性ガス噴出という現実
埋め立て地ならではの問題も浮上している。そのひとつが
「地盤沈下」
だ。大阪市は788億円を上限に公費で対策する方針だが、想定以上の地盤沈下が起きる可能性を指摘する声がある。そうなれば公費負担がさらに増えることも考えられる。
もうひとつは可燃性ガスの噴出。3月に万博会場用地で爆発事故があった。幸い死傷者は出なかったが、これが開催中なら万博テーマの「いのち輝く未来社会のデザイン」が
「いのち失う」
ことになったかもしれない。万博の現状はどうにもならないことを意味する大阪弁の「ドツボにはまった」状態だ。
夢洲を負の遺産に逆戻りさせないためには、大阪府市が連携し、これらの課題をひとつひとつ片づけなければならない。中之島線延伸判断先送りの背後には、正念場を迎えた大阪府市の姿が見える。
04/23 05:41
Merkmal