「小口化」不動産出資額、10年で8倍に 高齢富裕層の「節税需要」
小口に分割された建物の所有権を持つことができる「不動産小口化商品」という投資商品の購入者が増えている。国土交通省によると、同商品への出資額はこの10年で8倍超に急増した。背景には、相続税を節税したいと考える高齢の富裕層の存在がある。
都内の80代の女性は昨年、東京都墨田区の賃貸マンションに設定された「不動産小口化商品」を6千万円分、購入した。3人の娘の相続税負担を減らすためだ。
2年前に夫に先立たれ、現金約1億2千万円と、一軒家の自宅を相続した。相続税対策について税理士に相談し、勧められたのが不動産小口化商品の購入だった。
対象のマンションの所有権は細分化され、計1345口の「持ち分」が設定されていた。1口あたりの金額は100万円。不動産会社と「組合契約」を結ぶと、5口(500万円)以上から購入できた。
不動産特定共同事業法(不特法)に基づく、「任意組合型」という仕組みだといい、女性はマンション全体の約4.5%の所有権に相当する60口を購入した。
税理士からは、相続税を課すにあたって故人の財産を評価する際、不動産の方が現金よりも評価額が低くなる点を利用した節税策だ、と聞かされた。
相続時、不動産は、土地が「路線価」、建物が「固定資産税評価額」で評価される。いずれも時価より低くなる公定価格で、それをもとに計算される評価額は、現金よりも下がる。
賃貸物件特有の評価減の効果も加わり、女性の6千万円の持ち分は「約1800万円の不動産」として評価され、相続税は70万円ほどになることがわかった。6千万円を現金で持っていた時の相続税は約470万円。約7分の1に「圧縮」できる計算だ。
女性は「現金を不動産に置き換えるだけで、こんなに節税につながるとは。ありがたい」と話す。
不動産小口化商品は、1990年前後のバブル期には登場していたが、目立って需要が高まったのはこの10年ほどのことだ。
2015年の相続税法改正で相続税の課税対象者が一気に増え、節税ニーズから販売が増加。国土交通省によると、23年度の「任意組合型」の出資額は558億円で、10年前に比べて8.5倍に増えた。
購入者の大半は60~80代で、資産規模が1.5億~2億円ほどの富裕層という。
節税を狙った不動産投資はこれまで、タワーマンションを舞台にした「タワマン節税」が人気だったが、行き過ぎた節税が問題視され、24年以降は評価額が下がり過ぎないように計算式が見直された。それも小口化商品の需要増の背景にあるようだ。
ただ投資商品なのでリスクもある。市況が落ち込んで出資した物件に売却損が出れば、持ち分が「元本割れ」するかもしれない。
不特法は出資者保護を目的に、国土交通相などの許可を受けた業者にしか小口化商品の販売を認めていない。営業された業者が本当に許可業者か。周辺の賃料相場を調べ、空室や値下がりのリスクがないかも確認したいところだ。(本田靖明)
10/27 15:00
朝日新聞社