トヨタの「認証不正」は何が問題? 国交省とバトル…は嘘? 認証経験者が語る「自動車産業のイマ」

自動車産業における「認証不正」が話題となっています。とくに最近ではトヨタと国土交通省が対立関係にあるという報道も。では、今回の認証不正は何が問題なのでしょうか。また自動車メーカーと国土交通省はどのような関係で、今後どうしていけばいいのでしょうか。

認証業務経験者の筆者が語る!「認証不正」は何が問題なのか

 昨今、認証申請における不正行為に関する是非が話題になっています。

 それらを見ると、「トヨタがダメだろ」、「不正の膿を出し切れ」と言ったトヨタ批判と「ルール自体が非現実的」、「不正の内容は言いがかりに近い」、「基幹産業を潰す気なのか」など国交省に対する批判が二分しています。

昨今話題の「認証不正」 根本的な問題は何なのか?

昨今話題の「認証不正」 根本的な問題は何なのか?

 もちろん筆者(山本シンヤ)も色々思う所が無いかと言えば嘘になりますが、それは仮にルールがおかしいとしても、守っている自動車メーカーもあるわけで、そもそも決められたルールを守った上に言うべき事であり、ルールを守らなかった自動車メーカーはまずは反省しなければダメでしょう。

 その一方で、世の中のニュースを見ていると感じるのは、認証業務の中身を全く理解せずに、ただただ「不正、不正だ!」と報道しているメディアが多いのも事実です。

 それはなぜなのでしょうか。

 これはメディアの理解力以前の話で、そもそも自動車メーカーの認証業務は開発やマーケティング、財務のように外部に対して発信されないため、外から取材を行なう事はもちろん、担当者と接触するチャンスもありません。

 そのため、全貌をシッカリと把握することがとても難しいのです。

実は筆者(山本シンヤ)はこの仕事に就く前に自動車メーカーに勤務していた事があり、その時に認証業務を担当しており、「認証のイロハ」を理解しています。

 今、何が起き、どこが問題なのかを、正しく理解してほしいと思い、筆を取っています。

ここでは感情的になることなく、認証不正に関する様々な事について解りやすく説明できればと思っています。

 その前に、そもそも「認証」とは何なのか。正式には「型式認証制度」と呼ばれます。

クルマのナンバーを取得するには、本来は1台1台陸運局で保安基準に適合しているか検査を行なう必要があります。

 ただ、それを全てのクルマでやるのは物理的に不可能です。

 そこでその手続きを自動車メーカーが保安基準の適合性と品質管理(均一性)を証明することで、指定された型式のモデルであれば現車による検査が省略できる。

 つまり同一モデルを大量生産するクルマ産業にとっては非常にありがたい制度です。

 ただ、それを証明するためには自動車メーカーは数多くのサンプルやデータを用いて国土交通大臣に申請/届け出を行なう必要があります。

 そのために社内の各所から申請・届け出に必要となるデータが認証部門に集められ、まとめられます。

一言で「認証」と言ってもいくつかの種類が存在する

一言で「認証」と言ってもいくつかの種類が存在する

 そのために試験も行なわれますが、大きく分けると「国交省の立ち合い試験」と「社内試験」の2つに分かれます。

 その後、申請・届け出のデータは国交省に提出され、精査され問題がない事が証明されると認可。

 つまり「発売していいですよ」と言うお墨付きが得られた事になります。

 ちなみに古くは認可が下りてから約3か月後にニューモデルが発表されると言うのが一般的でした(今は解りません)。

 認可情報は日刊自動車新聞などに掲載されていたので、それを見ると解っている人は「あー、あのクルマが出るんだ」と予測できたものです。

 ちなみにクルマには様々なネーミングが付けられていますが、あれは販売する上での「通称名」で、正式名称は国交省によって認可された数字と英語で組み合わされた「型式」になります。

 自分のクルマの型式は車検証もしくはクルマに張られたコーションプレートで確認できます。ちなみにこの型式はメーカーによって様々な法則で付けられています。

 クルマ好きであれば、型式を言えばそのクルマが「どの世代」の「どのモデル」、「どのエンジン搭載」まで判断することもできます。

 更に言うと、AE86など車名より型式のほうが有名になっているモデルなども。

日野/ダイハツとトヨタでは内容が違う? その理由は?

 ここから認証申請における不正行為に関してですが、大きく分けると二つに分類されます。

 1つは日野/ダイハツで起きた「数値・データの改ざん」です。

 要するに試験に受かるためにズルをした行為。

もう1つはトヨタで起きたもので、一言で言えば「ヒューマンエラー」です。

 トヨタでは2024年7月31日に、同年6月3日に届けて出た案件に加えて、規定の手順に沿っていない認証案件7車種8事案が発覚しました。

 ちなみに7車種のうち6車種は海外の認証機関で型式取得し、相互承認(正式名称は「車両等の型式認定相互商品協定」で、当該協定規則を採用した他の協定締約国での認定手続きが不要になる制度)を利用していたモデルの中から見つかっています。

 これは隠していたわけでも、社内で見つけられなかったわけでもなく、国交省がそこまで対象範囲を広げて調べた結果見つかったものになります。

 内容を見ると安全に関する試験項目に対する指摘ですが、では「実際に安全性に問題あるのか?」と言われると間違いなくNOです。

 これに対して「もはやイチャモンに近い」、「重箱の隅を突くレベル」と言う人もいますが、筆者の見解は、「とは言え、トヨタの認証業務に対する姿勢には、やはり落ち度があった」です。

 それは試験内容・やり方に問題があったのではなく、「なぜその方法で試験をしたのか?」、「それで再現性が証明できるのか?」と言った国交省側の質問に対して、トヨタは明確なエビデンスを持ち合わせていなかった事が大きな問題でした。

 もう少し具体的に言うと、今回の事案の1つ「歩行者脚部保護試験:別の試験で使用済みのFrバンバーを再利用」は、社内では別の試験で使用したモノを使用しても機能的には問題ないと言う判断でした。

今回新たに公表された項目。主にヒューマンエラーが問題か

 ただ、エンジニアなら誰もが「そりゃ、そうでしょ」ですが、国交省に提出するデータとしてみると、「本当に影響がない」を裏付けるエビデンスが存在しておらず、それに対して指摘が入ったわけです。

 つまり「トヨタでは当たり前でも、国交省では通用しないよ」と。

 これは国交省が“いじわる”しているのではなく、提出データを元に判断する上では、そのように判断せざるを得ないのです。

 他の事案も細かく説明していくと延々と文字が増えるので割愛しますが、概ね似たような原因によるものばかりです。

 国交省は「認証申請に必要な書類を作成する際の社内の運用ルールが不明確」、「認証業務における必要なリソーセスの明確化と管理が不十分」と説明していますが、残念ながら今回の事案に関してはその通りだなと。

 言葉を選ばずに言えば、トヨタは認証に対して脇が甘かったように感じます。

 もちろん、このように記しても納得できない人はいると思います。

 それどころか「お前は国交省の方を持つのか?」と文句を言いたくなる人もいるでしょう。

 もちろん筆者は今の型式認証制度が完璧だとは思っていません。

 現在の認証制度の内容や基準を見ると、白黒の判断が難しい項目、言葉が難しくて解釈が非難しい項目に加えて、システマチックではなく電話確認などイレギュラーな対応が求められる箇所があるのも事実です。

 ただ、そんな状況でもシッカリと守ってやっているメーカーもあります。

 そう思うと、まずは正しいプロセスで認証業務をやる事が第一でしょう。

人がやる以上は「ミス」は無くせない… ではどうするのか?

 その一方で、認証業務は人がやる以上ミスはゼロにはならないと言う事実もあります。

 加えて、ミスをしてしまった時にそれを修正するための術は現時点ではなく、どんな理由であっても「不正」で片づけられてしまうのは大きな問題だと思っています。

 ちなみに同業の池田直渡氏は「認証不正の発生率は、自動車工場の平均不良率と同等」だと語っていますが、それを踏まえると、「このような問題はまた起きる可能性はある」と言う事です。

自動車工業会と国交省がタッグを組んで、国際社会でリードする産業体制の構築が求められる

自動車工業会と国交省がタッグを組んで、国際社会でリードする産業体制の構築が求められる

 その度に大騒ぎして工場のラインを止め、多くのお客様に迷惑をかけてしまうような事はできれば避けたい。

 ここに関しては、自動車工業会と国交省がタッグを組んで、早急に取り組む必要があるでしょう。

 巷では「国交省はトヨタの開き直った対応にお怒りモード」と言った、センセーショナルな報道をしているメディアもありますが、実際はそんな事はありません。

 ちなみ、トヨタだけに是正命令が出たのは、見せしめでも抱腹でもなく、上記のファクトのように「様々な面において他のメーカーに比べて認識に対する脇が甘かったため」と実に単純明快な理由なのです。

 それよりも、筆者は騒ぎ立ててPVを稼ごうとする報道こそが、今回の問題をよりこじらせてしまった1番の原因だと思っています。

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