なぜ財政健全化が日本の生命線なのか? “令和のミスター円”神田眞人が語った「国際金融社会は厳しい。国債の格付けがちょっと下がると…」

 歴史的な円安の対応に奔走し「為替介入の指揮官」として注目を集めた前財務官、神田眞人氏が9月18日、「文藝春秋 電子版」のオンライン番組に出演した。

【画像】文藝春秋のインタビューに答える神田氏

 神田氏は、日本経済が抱える難問に対して真正面から向き合った論文「日本はまだ闘える」(文藝春秋9月号)を発表し、大きな話題となった。文藝春秋編集部ではその反響を受けて、アジア開発銀行(ADB)総裁候補にも指名された神田氏に、改めてインタビューを行った。

文藝春秋のインタビューに答えた神田眞人氏 ©文藝春秋

適切なリスクを取った投資ができる取締役会を

 まず神田氏は、海外への直接投資を日本企業が進めている一方で、得られたリターンが日本に戻っていないことについて言及した。

「日本企業は国内よりも海外に投資をしてきた。これ自体は悪くはない。合理的な行動だ。ただ、儲けが日本に還元されないままでは、国際収支の黒字で企業の資産が増えているように見えても、賃上げなどにつながらない。このような状況が続いてきた」

 また、日本企業が370兆円もの預貯金を蓄えている状況をふまえて、次のように述べた。

「海外の投資はまだ良いほうだ。そもそも、企業が投資しておらず、将来のために健全なリスクを取っていない。だから、私はコーポレートガバナンス改革を訴えてきた。会社のお金、リソースを有効活用できていないようではダメ。将来に向けて、適切なリスクを取った投資、賃上げができるボード(取締役会)でなければいけない」

「やる気が無いんだ」となって極めて危険

 さらに、日本の国債残高の対GDP比が250%を超えていることについて「人類が経験したことがないレベル」と表現したのち、財政健全化の必要性を改めて語った。

「足下では、海外投資家による日本国債の保有・売買のシェアがどんどん増加している。また、新NISAの開始以後、家計による海外への投資が増加した。自国通貨の資産を好んで購入する傾向(ホームバイアス)が弱まる兆候と受け取れる。

 つまり、より高いリターンを求める国内外の投資家に促されて、海外の高い金利に収斂する(徐々に近づいていく)かたちで、国内金利が一段と上昇するかもしれない。来年度以降に金利が1%上昇すると、2033年度の国債の利払い費は見込みより8.7兆円ほど増加するといわれている」

 金融界での評価についても、次のように懸念を示した。

「国際金融社会は厳しい。国債の格付けがちょっと下がると、だだーっと落ちて、あっという間にジャンクボンドのレーティングになったりする。だから、日頃から市場の信認を確保しなくてはいかんと思っている。金利のある世界を迎える中で、プライマリーバランスの黒字化目標を止めると、マーケットから『やる気が無いんだ』となって極めて危険だ」

 そのほかにも神田氏は、外国人労働者や原発再稼働など日本が抱える難問について持論を語っている。

「文藝春秋 電子版」では、オンライン番組「『日本はまだ闘える』“令和のミスター円” 神田眞人インタビュー」(24分)のフル動画を配信している。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 電子版オリジナル)

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