同じJRで「特急」vs「高速バス」なぜ完全競合!? 四国で繰り広げられる“戦い”の理由とは
全国で見られる特急列車と高速バスの競合。特に興味深いのが四国で、高松~松山間、岡山~高知間などでJR四国の特急とジェイアール四国バスの高速バスが競合しています。なぜなのでしょうか。
同区間には特急「南風」が…
特急列車と高速バスは概ね競合関係にあります。その関係は、例えばJR線と私鉄系バスというように、異なる運行会社というケースもありますが、四国では、同系列の会社どうしで競合関係にある事例が見られます。
高松~松山間(坊ちゃんエクスプレス)、岡山~松山間(マドンナエクスプレス)、高松~高知間(黒潮エクスプレス)、岡山~高知間(龍馬エクスプレス)では、ジェイアール四国バスがこれらの名称の高速バスを、他のバス会社と共同運行しています。当然ながら同区間では、JR四国が特急列車を運行しているので、ジェイアール四国バスとJR四国が競合していることになります。
ジェイアール四国バスはJR四国の100%子会社です。なぜ競合しているのでしょうか。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年8月、高速バス「龍馬エクスプレス」に乗車し、その理由を探ってみました。
この高速バスは1日9往復運行され、4往復が岡山の下電バスと両備バス、4往復が高知のとさでん交通、1往復がジェイアール四国バスで運行されています。ジェイアール四国バスが運行する「龍馬エクスプレス13号」は、岡山駅西口を16時40分に出発し、高知駅バスターミナルに19時8分、終点のはりまや橋には19時15分に着くダイヤです。岡山~高知間の所要時間は2時間28分、正規運賃は4100円です。
対するJR特急は、近い時間帯で岡山駅17時5分発の特急「南風19号」が、高知駅着19時43分です。所要時間は2時間38分。最速便どうしで比較すると、列車は2時間24分、バスは2時間26分。ただし列車の運賃と料金の合計は正規だと普通車自由席で5940円かかり、バスが優勢にも思えます。
プライバシーに配慮した4列バス
さて、高速バスは出発5分ほど前にバス停へ入りました。2+2列座席には仕切りとなるカーテンが設置されています。必要ない場合は荷物棚に上げられます。また、ジェイアール四国バスによると「トイレが設置されている都合上、座席配置が互い違いになっています」とのことで、横を見てもほかの乗客が見えにくくなっています。
設備はコンセント、ドリンクホルダー、網ポケット、小物かけです。中間ひじ掛けは跳ね上げ可能で、座席幅は454mm、ひじ掛け幅は43mmでした。
乗客は10名。リクライニングを倒すと「そこそこ倒れる」感じです。窓側はひじ掛けがないので、隣に乗客が来た場合は特に、通路側の方が快適だと思います。座席の快適性はJR特急の方が上と感じました。
出発すると山陽自動車道に入り、5分遅れで津高待合所バス停に到着。その後は100km/hで巡航し、減速はほぼしませんでした。
瀬戸中央自動車道に入り、時刻表では17時10分に有城南バス停に停車する予定でしたが、17時19分に乗降なしで通過。そのまま17時30分には鷲羽山北バス停も通過。所定では17時21分着なので、9分遅れです。ここから瀬戸大橋を渡りました。
鉄道では騒音対策で75km/hまで落とすことがある区間ですが、高速バスは100km/hのまま走り続けました。17時39分に瀬戸大橋を渡り終え、17時41分に坂出料金所を通過です。
もし「南風19号」が「龍馬エクスプレス13号」と同時発車なら、瀬戸大橋を渡り終えた宇多津駅着は17時16分ごろになりますから、バスより20分は早く四国入りできる計算です。高知駅着なら「南風」はバスとほぼ同じですから、高速道路がJR土讃線よりも線形がよいことを実感します。
その先の高知自動車道はほぼサービスエリアもなく、人里離れた直線を最高速度で走り続けます。18時30分に大豊バス停を通過。所定では18時34分着なので遅れを取り戻しました。18時50分に高知自動車道を降りましたが、高知市内は渋滞していました。
なぜ、JR四国グループで競合するのか
19時ちょうどに一宮バスターミナルを1分遅れで出発。3名が下車しました。19時14分に高知駅バスターミナルへ到着し、5名が下車しました。所定では19時8分着で6分遅れですが、それでも2時間34分。JR特急と同等の早さです。
終点のはりまや橋に到着したのは19時23分。最終的には8分の遅れでした。乗車しての実感ですが、鉄道は山陽新幹線からの乗り換え需要が多く、バスは岡山~高知間単独の都市間輸送を担っているように見えます。これは、岡山駅で新幹線などからバスに乗り換えると、鉄道料金の連続性が途切れるので、それほど割安にならないということがあるのでしょう。
JR四国へ、同系列のバスと競合する理由を尋ねると、以下のような回答がありました。
「JR四国の発足後、自動車事業部としてバスの一体経営を行っておりましたが、2004(平成16)年4月にジェイアール四国バスを発足させました。鉄道から高速バスなどにご利用を移されるお客様に対しても、JRグループとして引き続きご利用いただく観点から、高速バス路線を拡大してまいりました。なお、公共交通ネットワークの四国モデルにおいては、競合ではなく『協働』という形でご説明しておりますが、現実として、バスは他の会社と一緒に運行しておりますので、一義的には鉄道と競合する構図がベースにあります。現実的なご利用として、主要駅間は競合しておりますが、途中の停留所と鉄道駅では、鉄道とバスで異なっているところもあり、ニーズによって棲み分けができている部分もあります。鉄道のご利用においては、お得な企画きっぷでバスと大きな乖離が出ないような価格設定を行っています」
なお、JR四国の「岡山自由席トク割回数券」は、高知駅を中心として朝倉~土佐山田間から岡山駅までの回数券が4枚で1万4200円なので、片道3550円相当。「岡山指定席トク割きっぷ」は同じ区間の往復きっぷで8000円なので、片道4000円相当です。「岡山週末指定席トク割きっぷ」は週末のみながら、同一区間で往復7380円なので片道は3690円相当。バスにはない小児料金だと3690円なので、片道は1845円相当です。
高速バスも往復なら同額の7380円なので、子連れの家族だと鉄道の方が安いことになります。家族向けに「アンパンマン列車」を走らせるJR四国の戦略はしたたかに、「棲み分け」を誘導しているのかもしれません。
10/19 09:42
乗りものニュース