「空中の歩道」超便利! 高架鉄道の下を歩道にして「下りなくていい」街に なぜ日本じゃできないのか

タイの首都バンコクでは、高架鉄道の桁下を活用した高架歩道のネットワークが広がっています。東京のような地下鉄を起点とした地下道とは逆の手法で作られた歩行空間は、その利便性を増しています。

高架の下、駅から駅まで歩けます!

 タイ王国の首都バンコクは、かつて運河を使った水運が主体の街でしたが、発展の段階で「クルマ中心」の街づくりに舵を切りました。そのため、歩行者は凸凹で電柱や消火栓などの障害物が多い歩道を歩き、歩行者用の信号がない車道を、クルマとその間をすり抜けてくるバイクに注意しつつ渡るという状況が長らく続いていました。

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スクンビット通り上の高架を走る「スカイトレイン(BTS)」。線路の下にスカイウォークが整備された(植村祐介撮影)。

 しかしこうしたバンコクの歩行者をとりまく環境は、2010年代以降、大きく変貌します。その立役者が、高架鉄道の橋脚を利用し整備された空中歩道「スカイウォーク」です。

 その整備の端緒は、いまからほぼ四半世紀前の1999年末、タイではじめての都市型鉄道として開通した「スカイトレイン(BTS)」です。

 バンコク市街地の大通り上の空間を利用して建設されたスカイトレインは、高架の駅が各所に設けられ、駅近隣の商業ビルやオフィスビルは、駅から直結する連絡通路で結ばれました。また駅のコンコースは、歩道橋を補完する存在として機能するようになりました。

 その後2010年代に入り、高架の橋脚を使った新たな開発が本格化します。駅のコンコースから、橋脚を支持基盤としたスカイウォークが、沿線のビルと連絡通路でつながりつつ、線路の下を“二階建て”の形でどんどん延びていくこととなるのです。

 またコンコースを分断する改札口に阻まれ、線路と並行方向へは通り抜けができなかった駅部分も、一部は駅と直結したビルを経由し通り抜けられるよう、通路が整備されました。

 さらに、これ以降にスカイトレインの路線に沿って建設されたビルのいくつかは、当初より2階レベルからの歩行者の流入を想定した設計を採り入れました。

 こうしてスカイウォークはバンコクの歩行者の環境、加えて街づくりにも大きな変化をもたらしたのです。

もはや「高架歩道から下りなくていい」街づくりに

 このスカイウォークの整備により、バンコクの街は主に3つのメリットを得ることができたと考えられます。

 ひとつめは、歩行者の安全です。前述のように、バンコク中心部は大通りであっても歩行者用信号の整備が立ち後れ、またバイクの信号無視や逆走が当たり前に行われているというご当地事情から、車道を安全に渡ることが困難でした。歩道は段差も多く、また敷石がはがれたところがそのまま放置されているなど、安心して歩ける状況ではありませんでした。

 それがスカイウォークにより、クルマや足元を気にせず、安全に歩けるようになったのです。

 ふたつめは、ビジネスの効率化です。スカイトレインは渋滞なしの移動を実現しましたが、駅から目的地へは階段で地上に降り、歩きにくい歩道を利用せざるを得ませんでした。しかし現在、スカイウォークで主要ビルの多くが結ばれたエリアでは、駅の改札レベルから水平に移動するだけで、それらのビルにアクセスできるようになり、移動時間が大幅に短縮することとなりました。

 また南国特有のスコール時に一部で発生する「地面の冠水」による移動の困難とも無縁になりました。

 そして最後が、経済活動の活発化です。スカイウォークにより、通りを隔てたファッションビルどうしでも容易に回遊できること、雨に濡れる心配もなくなることで、買い物は便利に、街歩きは楽しくなりました。商業ビルのなかを通り抜ける部分では、歩行者の興味を引くような店づくりが行われました。

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あらたに建設された大型オフィスビルの多くは、スカイウォークに直結した2Fレベルの出入口を持つ。既存のビルにも同様に改修されたものがある(植村祐介撮影)。

 こうした回遊性の向上や立ち寄り機会の創出による人流の増加が、売り上げ向上に大きく貢献しているはずです。

「銀座の地下道」的な高架歩道エリア

 2024年現在、このスカイウォークがもっとも活躍しているのが、商業の中心地で、東京に例えると銀座にあたる、サイアム地区です。

 ここには約2kmの間に東から「チットロム駅」「サイアム駅」「ナショナルスタジアム駅」の3つの駅が並んでいます。

 この区間を結ぶスカイウォークは、チットロム駅からサイアム駅までがとくに「Rウォーク」と名付けられ、「ゲイソンアマリン」「ゲイソンセンター」「セントラルワールド」など大型の商業ビルに直結しています。

 サイアム駅でスカイウォークはいったん消滅しますが、歩行者は商業ビル「サイアムパラゴン」に入り、さらに「サイアムセンター」「ディスカバリーセンター」という連絡通路で結ばれた各商業ビルを通り抜けて西に進むことができます。

 そしてディスカバリーセンターからはパトゥムワン交差点を覆うような巨大なX字型のスカイウォークが整備され、商業ビル「MBKセンター」と連絡しつつ、スカイトレインの高架下をナショナルスタジアム駅まで到達します。

次々と「連結」 通勤にもなくてはならない通路!

 このサイアム地区のスカイウォークは、朝夕は通勤客が多く利用し、日中は買い物客や海外からの観光客で賑わいます。もしスカイウォークがなければ、これだけの人数を受け入れる地上の歩道はひどい混雑に見舞われていたはずです。

 さらにパトゥムワン交差点上のスカイウォークは“映えスポット”として、国外の観光客をも集める名所になっています。

 一方、観光客が多く滞在するスクンビット地区では、「アソーク駅」から西に延びるスカイウォークにより、各ホテルへのアクセスが大きく向上、さらにスカイウォークと連結する新築オフィスビルが多数誕生しました。またアソーク駅東側はバンコク有数の巨大交差点「アソーク交差点」を空中で渡れるようになり、連結するオフィスビルへの移動時間は、従来の地下鉄のコンコース経由・長い信号待ちが必要な地上の横断に比べ3-5分ほど短縮しました。

 同じくスクンビット地区で、アソーク駅の隣のプロンポン駅も、当初は商業ビル「エンポリアム」のみと連絡していましたが、現在は周辺の大規模な再開発で生まれた大規模なモール「エムクォーティエ」「エムスフィア」などと連結を拡大しています。

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東京の「ゆりかもめ」にもバンコクのBTSと似たような風景はある(画像:写真AC)。

 日本においては、都市部の鉄道が地下鉄を中心に整備されていることもあり、こうした高架の橋脚を利用した歩道の設置はほとんど行われていません。またバンコクで実現したビルの大がかりな改装をともなうような開発は、利害関係の調整も難航しそうです。

 しかしバンコクでの成功例を目にするにあたり、たとえば「ゆりかもめ」や「日暮里・舎人ライナー」、さらに今後も延伸予定のある「多摩都市モノレール」の一部など、導入できれば街の活性化につながるところも多いのではないでしょうか。

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