乗組員のお楽しみ「船乗りの日曜日」とは? 独海軍の「激レア艦」でなぜか木曜に開催 カギ握るのは希少な軍人パン職人!
ドイツの軍艦では「船乗りの日曜日」というイベントが開かれます。18世紀から続く風習ですが、開催されるのは日曜ではなく木曜です。乗組員らが毎週心待ちにする伝統のイベントは、どのようなものなのでしょうか。
7か月間帰れない補給艦
ドイツ海軍のフリゲート「バーデン=ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」が2024年8月20日、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)に艦隊を組んで寄港しました。ドイツ海軍が「今年最も重要な海洋防衛外交の取り組み」と目しているインド太平洋方面派遣「IPD24」の一環で来航した艦隊です。
「バーデン=ヴュルテンベルク」は航行中に乗組員のチームを随時入れ替えるクルー制を導入していますが、ドイツ海軍で最大級の軍艦「フランクフルト・アム・マイン」はIPD24の7か月の任務の間、同じメンバーが基本的に入れ替えなしで航行を続けています。
洋上で缶詰め生活を送る乗組員たちが、毎週心待ちにしているお楽しみイベントが、ドイツ語で「船乗りの日曜日(Seemannssonntag)」という18世紀から続く風習です。待ちきれない船員たちが「今週の船乗りの日曜日は何?」とウキウキしながら確認に来るという同イベントですが、これはどのような伝統なのでしょうか。同艦の准士官・マティアスさんに聞きました。
「船乗りの日曜日」なのに毎週木曜のお楽しみ
「船乗りの日曜日」という言葉の文献上での初出は1727年といいます。ドイツでは一般的に日曜は仕事を休み、教会に行った後は家族でごちそうを食べるのが風習ですが、海での事情は少し異なり、船乗りにとっては金曜が定休日でした。その定休日の前日、つまり、木曜の午後に船員が甲板に集まり、栄養がある食事を一緒にとったのです。この食事がまるで、一般人が日曜に食べるごちそうのように豪華だったことから、「船乗りの日曜日」と呼ばれるようになったようです。
当時の船乗りの職業病だった壊血病対策のため、ビタミンCが豊富なオレンジなどが振る舞われることが多かったといいます。この習慣が転じて、現在のドイツ海軍で「船乗りの日曜日」というと、木曜午後に全員でコーヒーとケーキを食べながら歓談することを指します。
「休みの前日のごちそう」というと、日本でも、海上自衛隊に似たような風習があります。明治初頭に近代的な海軍の創設を急いだ日本は、英国式の兵式とともに、英国海軍で提供されていたカレーを船乗りの職業病だった脚気などに効く健康食として採用しました。
現代でも、海上自衛隊では休みの前日である金曜にカレーライスが提供され、乗組員の曜日感覚を取り戻すことにも役立っているようです。マティアスさんによると、ドイツ海軍でも同様な目的があるそうです。
特別な訓練を受けた軍人のパン職人
長期にわたって航行を続ける「フランクフルト・アム・マイン」は、毎週、どこでケーキを調達しているのでしょうか。
ドイツ海軍の船には、かつて、調理人のほかに、ドイツ海軍の養成学校でパンとケーキの焼き方を特別に学んだ「軍人のパン職人」が必ず同乗していました。補給艦やフリゲートのような大型の船だけではなく、乗組員が30人ほどしかいない狭い潜水艦にも、パン職人が1人同乗していたくらい、軍艦には不可欠と考えられていた存在で、パンのクオリティには徹底したこだわりがあったのです。
現在では専門のパン職人を乗せている船は非常に稀になり、調理人が代わりに焼くことが増えたといいます。しかし、「フランクフルト・アム・マイン」には、そのような希少価値となった「軍人パン職人」の1人、アクセルさんが同乗し、腕を振るっているのです。長期間にわたり同じメンバーが勤務を続ける同艦では、「船乗りの日曜日」で全員が談笑して良い人間関係を保つことが一層大切なのかもしれません。
単調で気持ちが滅入りがちな船での長い生活で笑顔を保つ秘訣は、「おいしいパンやケーキを食べること」とアクセルさんは穏やかな笑顔で語っています。
実際には、どのようなケーキが振る舞われているのでしょうか。
マティアスさんに取材をした週の「船乗りの日曜日」(9月26日)は、チョコレートケーキだったようですが、パン職人のアクセルさんによると、ケーキにはフルーツが使われることも多いそうです。同艦が東京に寄港した際に補給した積み荷のリストには「果物」の文字がありましたが、日本産の果物も「船乗りの日曜日」のケーキに彩を添え、乗組員たちの笑顔の源になったのではないでしょうか。
10/13 19:12
乗りものニュース