「輸送機」だけど旅客機エコノミーよりイイ!? 中東へ向かった空自C-2の居心地 先代C-1と“雲泥の差”のワケ

緊迫するイスラエルとレバノン情勢を受け、航空自衛隊のC-2輸送機が邦人救出の準備として離日しました。ちなみに輸送機としてはC-1も保有しますが、乗り心地を比較するとC-2とはだいぶ違います。

トイレに明らかな違いが見られる

 2024年10月3日(木)、航空自衛隊の2機のC-2輸送機が、鳥取県の美保基地を離陸し、レバノン近隣のヨルダンとギリシャに向かいました。イスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘が激化するレバノンからの、邦人退避に備えた措置です。
 
「もし必要であれば使って頂いて結構ですよ」
 
 これは筆者(月刊PANZER編集部)がC-2輸送機に搭乗した際、乗員から受けたトイレについての案内です。そういえばC-1輸送機に搭乗した時は、トイレについて特に案内されませんでした。実はC-1にもトイレはあるのですが、あることと使えることは違います。

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航空自衛隊のC-1輸送機(手前)とC-2輸送機(奥)。塗装にも違いがある(月刊PANZER編集部撮影)。

 C-2のトイレは扉からして旅客機で見慣れた折り畳み式で、閉めて施錠すると室内灯が点灯し、中には鏡と洗面台もあります。便器も真空吸引式でとても清潔です。それが機内2か所に配置されています。

 一方のC-1のトイレは、操縦席と貨物室のあいだにある小さな扉付きの1区画です。特に表示もなく荷物庫のようですが、壁にはトイレットペーパーが付いていて、そこがトイレであることを示しています。

 それは工事現場にあるような簡易式で、便座の蓋は閉じられ、上には備品が置かれています。使われている形跡もなく、「使ってよいですか」とはとても聞けない雰囲気が醸し出されていました。

 聞けば、使用すると“後の処理”が面倒で、実際に使ったことはないそうです。C-1は短距離しか飛ばない(飛べない)ので、トイレは事前に済ませておけば事足りているようです。筆者はC-2でもC-1でも却って出るものも出ず、写真だけ撮って退出しました。

なぜC-1の乗員向け設備は最低限なのか

 自衛隊の海外派遣は現在、主要任務として広く認知されていますが、C-1の「使わないトイレ」とC-2の「使えるトイレ」の違いは、自衛隊の輸送機の任務、ひいては自衛隊の任務の変容の歴史を象徴しています。

 C-1の航続距離は空荷時で2400km、最大積載量8tを積載すると1500kmになります。ちなみに羽田空港から那覇空港までが1687kmですので、いかにも短いことが分かります。一方のC-2は空荷時で9800km、最大積載量36tでも4500km飛べます。美保基地からヨルダン(アンマン)までの飛行距離は約8600km、ギリシャ(アテネ)までは約9100kmですので、空荷であればノンストップで飛行可能です。

 C-1が計画された1960年代は「日本再軍備」が警戒される時代で、輸送機を国産するというだけで国会の議論となる有様でした。そのため「他国の脅威にならない」という政治的配慮で航続距離はわざと短く設定、すなわち「C-1は日本国内のみで使う専守防衛用輸送機」となったわけです。

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在外邦人等保護措置訓練でC-2への誘導搭乗訓練。陸上自衛隊員が警護についている(月刊PANZER編集部撮影)。

 一方のC-2は、時代が変わり海外派遣も任務となった現代の自衛隊用の輸送機といえます。巡航速度はマッハ0.8(約988km/h)であり、「空のハイウェー」である国際線航空路にものることができます。ノンストップの巡航速度で美保基地からヨルダンまでの所要時間は約8.7時間、ギリシャまでの所要時間は約9.2時間となります。

 C-2は国際線仕様ということで、トイレ以外にも乗員仮眠用ベッドが2床、配食用にレンジと冷蔵庫、ドリンクマシン、旅客機と同じ構造のギャレーも備えられています。海外派遣任務の際、むやみに日本から食料を持ち込むと検疫などの問題も生じるそうで、派遣先でケータリングサービスを受けることが多いため、旅客機と同じギャレーの方が、使い勝手が良いそうです。

C-2では騒音や座席も改善

 ところで軍用輸送機の「被輸送人員」は、旅客機の「乗客」ではないことをC-1では実感します。

 機内座席は左右の側壁沿いに2列と貨物室の中央に1列、3列横向きに並んだパイプフレームに布張りの簡易的なものです。窓も少なくて薄暗く、通勤電車と同じように進行方向横向きに着席するので外の様子はまったくわかりません。

 離陸前は、しばらくゴトゴトと地上走行し、止まったのかなと思うと突然、加速を始め、離陸時に横から強いGを受けますが気持ち悪いものです。機内は与圧されており、温度も適温なのですが、耳栓必須の騒音で会話はほとんどできません。

 一方のC-2の機内はC-1とは少し雰囲気が違います。照明が多く壁面がベージュ色なこともあいまって機内は柔らかな明るさで、耳栓は必要ないレベルまで騒音も小さくなっています。座席は横向きですがC-1より座り心地は改善されています。

 旅客機と大きく違うのは足元が広く圧迫感がないことで、安定高度巡航中は座席を立って体を動かすこともでき、「被輸送人員」でも窮屈なエコノミークラスよりは快適かもしれません。

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C-2の操縦席から見下ろした貨物室。大きくて明るくなっている。被輸送人員にとってもC-2の居住性は改善されている(月刊PANZER編集部撮影)。

 C-2が海外派遣にも使える能力を有することは、在外邦人にはとりわけ意味があります。政情不安な場所に置かれた日本人が、空港で日の丸が付いた輸送機を見てどんなに安心するか想像に難くありません。国として自国民を保護する意思を示す象徴なのです。

※誤字を修正しました(10月7日9時)

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