ロシア機が領空侵犯→空自戦闘機が「炎の弾」発射! バルカン砲の警告射撃とナニが違う? 過去に実例も
2024年9月23日、防衛省は領空侵犯したロシア軍の哨戒機に対して、航空自衛隊の戦闘機がフレアを放つ警告行動をとったと発表しました。一部報道では「警告射撃」とも表現されましたが、フレアはそもそも何のために使う装備なのでしょうか。
「フレア」ってそもそもナニ?
防衛省の発表によると、2024年9月23日13時から15時にかけて、ロシア軍のIL-38哨戒機が北海道礼文島北方の領空を3度にわたり侵犯。これに対し、航空自衛隊は対領空侵犯措置として戦闘機を緊急発進させ、警告のために「フレア」を投下したそうです。
対領空侵犯措置においてフレアを使用するケースは、「少なくとも公式発表された限りは」今回が初めてとなります。一部メディアには「警告射撃を行った」と報じたところもありましたが、フレアは射撃のための装備ではないため、このような表現だと誤報といえるでしょう。
フレアとは、赤外線誘導式の対空ミサイルを妨害する目的で使用する、いわゆる囮弾です。「赤外線対抗手段(IRCM)」の一種であり、一般的にはマグネシウムなどを主原料とし、母機から射出後に千数百度で強烈に燃焼することで赤外線を大量に発出、これにより赤外線誘導ミサイルの先端部にある赤外線検知器(シーカー)での追尾、いわゆる「ロックオン」を母機から引き寄せます。
機種にもよりますが、1発ごとに使い切りのカートリッジへ収められており、数十発から100発程度を携行することが普通です。射出は、ミサイル接近警報装置など自己防御システムと連動し自動で行われるのが基本ですが、手動で実施することも可能です。
射出されたフレアは極めて明るく発光し、空気抵抗で減速しながら白煙の軌跡を残します。数秒間ですぐに燃え尽きてしまうため、フレアによって相手機に何らかの危害を加えることは困難ですが、地上付近で用いた場合は、草木など燃えやすいものに引火し、まれに火災が発生することもあります。
よりヤバかった30年前の領空侵犯事件
今回、航空自衛隊機は対象となるIL-38が3度目の領空侵犯した際にフレアを投下したとされますが、おそらく相手前方のやや横に出てロシア軍パイロットの視界内に入る位置で、フレアが直撃しないよう距離をとり投下したと推測されます。フレアの閃光と白煙はかなり距離が離れていてもよく見えるため、ロシア軍のパイロットが見逃すということは考えにくいでしょう。
IL-38哨戒機は主に対潜水艦戦闘を目的とした大型機であるため、空対空ミサイルは装備していません。そのため、自衛隊機が本来の目的である囮弾としてフレアを投下したとは考えにくいでしょう。また攻撃されたという発表もなかったので、相手に合図するために使用したといえそうです。
領空侵犯機に対して合図する方法としては他に「信号射撃」があります。これは機関砲を発射することで行われますが、火線を残す曳光弾は瞬時に消えてしまい視認しにくいという欠点があり、またかなり強いメッセージを与えることになるので、視認しやすいフレアはその前段階で行使する手段としては理にかなっています。
なお、航空自衛隊機が機関砲による信号射撃を行った事例は過去に一度だけ存在します。それは、今から40年ほど前の1987年12月9日、ソ連空軍(現・ロシア空軍)のTu-16偵察機が2度続けて領空侵犯かつ沖縄本島陸地上空まで飛行した際、那覇基地を発進したF-4EJ「ファントムII」戦闘機が実施しました。
今回は、領空侵犯を3度も行っているとはいえ、本土上空を飛んだわけではないため、1987年の事例よりも脅威度は低いと考えられます。
諸外国においても相手に警告を与える上でフレアを使用する事例はいくつかあり、そうした映像もネット上に公開されています。また過去には、ロシア空軍のSu-27戦闘機が公海上空を飛行する無人機に対し、真正面で投下し意図的にフレアをぶつけるようと試みたこともありました。
そういったことを鑑みると、ロシアに対して厳格に抗議はすべきですが、日本政府・防衛省が冷静に対処するのは妥当であり、必要以上に国民が熱くなることは避けるべきでしょう。
09/26 16:12
乗りものニュース